番組プロデューサーを直撃して聞いた、『ミュージックステーション』が本当にやりたいこと

知らない人はいないであろう音楽番組『ミュージックステーション』を定点観測してきた当連載コラム。最終回を迎えるにあたって、「中の人に話を聞いてみたいですね」とダメ元でオファーをしてみたら、(まさかの)快諾をいただきました。

日本の音楽界に影響をおよぼす存在であるこの番組はいかにして作られ、それを作る人たちは何を考えているのだろうか。テレビ朝日の『ミュージックステーション』プロデューサー・利根川広毅氏に、音楽ブロガー・レジーが話を聞いた。

利根川広毅/とねがわひろき
1977年生まれ。フリーランスとして数々の音楽番組の演出を務め、2013年に日本テレビ入社し、『LIVE MONSTER』『バズリズム』『THE MUSIC DAY』『ベストアーティスト』などを担当。2018年9月にテレビ朝日に入社。現在は『ミュージックステーション』『関ジャム 完全燃SHOW』のプロデューサーを務めている。


実は“正解”はわかっている、だけど……

──これまで7年近くMステについて外から好き勝手書かせていただいてきたので、今日はプロデューサーの方から直々にダメ出しされるんじゃないかと冷や冷やしているのですが……(笑)。

利根川 いえ、なんなりと聞いてください(笑)。ただ、レジーさんの考えていることと根幹は一緒の部分もあるので、そういったこともお話しできればと思っています。

──よろしくお願いします。まずは基本情報として、利根川さんは日本テレビを中心に様々な音楽番組に関わったうえで、2018年9月からテレビ朝日でMステを担当されています。今のMステの番組制作において、利根川さんはどういった役割を担っているのでしょうか。

利根川 僕以外にもプロデューサーやディレクター、AP、AD、放送作家などひとつのチームになってMステを作っているのですが、そのなかで自分が請け負っているのは番組内における“歌唱”に関わる部分です。例えば、キャスティングでは事務所やレコード会社、メジャーやインディーズ問わず、すべてのアーティストの窓口を担当します。出ていただくアーティストを決めるのと合わせて、出演する際に「何をどうやって歌ってもらうか」もアーティストサイドとやり取りをしながら調整していきます。

Mステでのパフォーマンスは基本的には新曲がベースですが、アルバムリリースの場合はどの曲をやるのか、タイミングや企画次第では既発曲のほうがいいのか、どんなステージにするのか……など考えないといけないことがたくさんあるので、アーティスト側のリクエストや番組の演出チームの意見も踏まえて全体をコーディネイトしていくのが自分の役割です。

──Mステのパフォーマンスでは楽曲のミュージックビデオを再現するような演出もあったりしますが、そういうものもアーティスト側と話をしながら番組の中に落とし込んでいくわけですね。

利根川 そうですね。アーティストからも「これをやりたい」というのが出てきますし、あとは長年Mステの演出を担当している藤沢(浩一)にもいろいろなアーティストとのパイプがあるのでそちらからの情報や意見も参考にしつつ、最終的に何をやるとアーティスト・番組双方にプラスなのかを考えています。

──今お話しいただいたアーティストのパフォーマンスが番組の中心を占める一方で、最近のMステではVTRを使った企画についても重要なものになっているかと思います。特に前者の方を司っている利根川さんの立場から考えたときに、昨今の番組全体のバランスについてはどうお考えですか?

利根川 おっしゃる通り、今のMステは“歌唱”と“VTR”の両面がある番組になっています。Mステは“良い音楽が聴ける・良いライブが観られる番組”であると同時に“音楽に関する情報の発信源になる番組”であるべきだと思っているので、そういう観点から“歌唱”と“VTR”のバランスだったり、それぞれの内容だったりを考えています。

──そのふたつの側面に関して、番組作りにおける“せめぎ合い”みたいなものはあったりしますか。

利根川 そうですね、どこまで具体的にお話しするか難しいんですけど……例えば「もっと歌を増やすべき」とか「生放送なんだからもっとライブをやってほしい」とか、そういう声があるじゃないですか。レジーさんもよくそう書かれていましたが(笑)、番組を観ている人も、あと実は作っている人も、それが“正解”だっていうことをわかっているんですよね。僕自身も、できるならそういうふうにやってみたいという気持ちもあります。

ただ、その気持ちと共存する形で“35年間続いているこの番組を守っていかなければ”という思いもあるんです。たまに「Mステって“終わらない番組”ですよね」と言っていただくこともあるんですけど、実際は全然そんな保障はなくて、現場はつねに危機感を持ってやっています。じゃあ「続けていくためにどうするか?」っていう話なんですけど、やはり必要になるのは、多くの方に観ていただくということです。そうなったときに、これまでMステが歩んできた道を踏まえて発せられる「アーティストのパフォーマンスだけでこの時間帯のテレビ番組として成立するのか?」という声に対して真摯に耳を傾けないといけない局面もあります。そこについては自分のなかでもつねに葛藤しながら番組と向き合っている、というのが正直なところです。

──僕がMステを見始めたのは90年代の初頭からですが、当時のMステは週間のヒットチャート以外はスタジオライブとトークのみでの構成が基本だったと記憶しています。

利根川 はい。やはりその時と比べると“時代が違う”のは大きいという認識です。毎週ミリオンヒットが出て、その方たちにテレビが必要とされた、そういう環境だったからこその形なのかなと。そこから楽曲のリリースのあり方もプロモーションのやり方も変わっていくなかで、Mステのあり方も“スタジオライブだけ”から“ライブとVTRの組み合わせ”に変わってきて、その過程で例えばランキング形式のVTR企画が良い結果を残していた時代もありました。そういう積み重ねのうえに、今のMステの形があります。

──“成功した前例を踏襲する”というのはどういったものにでも起こり得る話ですね。

利根川 ただ、そういう“今まで良かったものを続ける”という考え方から抜け出したいよね、ということはスタッフのなかでもよく話しています。ともすると「以前結果が良かったからまたこれをやろう」ってなりがちなんですけど、10年前に当たったものが今当たるとは限らないわけじゃないですか。

特に最近は流行の移り変わりも早いので、VTR企画をやるにしても新しいものを考えないといけないし、ライブパフォーマンスについても演出の仕方や見せ方次第ではそれだけで番組として成立させられる時代がまた来るかもしれない。今本当に求められているMステのあり方を常に考え続けないといけない、というのは強く思っています。

 

“テレビマン”と“ミュージックマン”

──今のお話で、番組を外から観ているだけだとわからない苦労というか、中での“揺らぎ”みたいなものがよくわかりました。連載の最後にこのインタビューをさせていただいて良かったです。途中でこの話を聞いていたら、だいぶ筆が鈍っていたと思います(笑)。

利根川 今日のインタビューをお受けするにあたって、そこはわかっていただきたいなと思っていました(笑)。僕はまだMステに関わって2年半ですけど、そんな自分でも若いアーティストに「Mステに出るのが夢でした!」って言われるとすごくうれしいんですよね。きっと小さい頃からMステを観ていただいていて、そこに自分も行きたいという気持ちを持ってくれていたんだと思うので、そんな場を絶対になくしたくないというのは本当に思っているんです。そのために、“やりたいこと”と“やるべきこと”の折り合いをどうつけていくか……というところでなんとか踏ん張ろうとしています。

今って賛否両論の声がいろんなところから入ってくるじゃないですか。そのなかで、“否”のものって的を射たものが結構多いんですよね。そういうのを見ると、「痛いところを突かれたな」と思いつつ、「俺だってわかってるよ!!」っていう気持ちになったりもします(笑)。

──(笑)。

利根川 きっとそういうことを感じているのは僕だけではないと思います。僕は元々日テレで仕事をしていたり、あとはフリーランスとして音楽番組に関わっていたりもしたので、社外にも音楽番組を作っている友人知人が複数いるんですけど、“テレビマン”と“ミュージックマン”の狭間で苦しみながらも熱い気持ちでテレビと向き合っている人がたくさんいるんだなとよく感じます。

音楽が好きで音楽番組をやりたいけど、会社員としては意に反して違うジャンルの番組に移らないといけないこともあるし、それこそ“音楽番組をやりたかったわけではないけど音楽番組に関わっている人”と一緒に仕事をするケースもある。そういうなかで、自分たちの作りたいように自由に音楽番組を作りたい、でもそれでテレビとして成立するのか……みたいなことにみんな悩んでいるんですよね。そういった思いのある人たちとは局の垣根を越えてやり取りをしていますし、今カッコ良いアーティストについて情報交換をすることもあります。

大きな番組で影響力を持った方のなかにも共感してくださる方がたくさんいます。ライバル同士なので絶対に負けたくないとは思いつつ、テレビの音楽番組全体で音楽シーンを盛り上げていきたいですね。

TEXT BY レジー(音楽ブロガー/ライター)

後編:コロナ渦のなか、いかに“通常のMステ”に戻していくか

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