“おたく”をしっかりと描いた初のエンタメ作品?『七人のおたく』をアーティスト4人で観て気づいたこと

邦ロック界で一二を争う映画論客とも言われるBase Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。

家にいながらみんなで楽しく映画を語り合う! 公開年の下1ケタと2ケタをあみだくじで決め、その興行収入ベスト10のなかから作品を決定。「せーの!」で一緒に観始めた後に、みんなで感想をあーだこーだおしゃべりしています。

みんなの映画部 活動第72回[後編]
『七人のおたく』
参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、福岡晃子、ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)、オカモトレイジ(OKAMOTO’S)

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[前編]本作のウッチャンに憧れすぎていた小出少年の話はこちら

90年代、“おたく”は社会から嫌われていた

レイジ この映画のおたくのディテールって、当時の感じをリアルにやってるんですか? それとも当時は本筋のおたくからしたら、あんなの嘘だみたいな言われ方してたんですかね?

小出 うーん。当時小学3年生だったんで、本当のところどうだったかっていうのは正確に言えないけど。元々はおたくという言葉の印象って、良くなかった気がするね。

福岡 おたくって誰が作った言葉なの?

──命名は評論家の中森明夫先生というのが定説ですね。

小出 そして昨年亡くなった宅 八郎さんが“おたく評論家”としてテレビなどのメディアに進出して、アイコニックなキャラクターとして世間に定着していったという流れがあったと思います。宅さんが登場した背景には宮崎勤事件(1988年~89年の東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件)の衝撃があった。

僕が持っている『七人のおたく』の公式ムック『七人のおたく みんなが持っている自分だけのパラダイス』によると、原作・脚本の一色伸幸さんが『七人のおたく』の企画書を書いた1990年の夏頃は宮崎勤事件の余波で、おたく差別が蔓延してたと。おたくたちがキモいやつらとして、人から白い目で見られてた。

だからおそらく当時の宅 八郎さんは、ある種、世間のおたくイメージを逆手に取るような活動をされていたんでしょうね。その頃くらいから、おたくという言葉がだんだんポップなものとして市民権を得てきた。

レイジ だからこそおたくがヒーローになるみたいなこの物語がフレッシュに響いて、ヒットしたっていうのはありますよね。

小出 うん。それが、今観ても気持ちいいと思える部分なんだと思う。おたくが虐げられるシーンがないじゃないですか。七人のおたくたちは、ある特定の分野のエキスパートとして、みんなのびやかに肯定的に描かれているんですよね。

ハマ ロンゲの江口洋介さんが「Macおたく」の役で、めっちゃお金持ちっていう。これってのちのITベンチャー系のイメージですよね。すごい今っぽいおたく像だなって思った。

小出 そうそう、むしろ今っぽいっていうか。(公式ムックを読みながら)「『おたく』とは、心の中に自分だけの小さなパラダイスを持っている人たちのこと。自分にとって、大切にしているものや、自分の好きなジャンルは誰にもある。その中で、時間の感覚を失うほど没頭できる“なにかひとつのこと”を持っているのがおたく。そして、そのパラダイスを大切にしながら、それを最大限に楽しめる人こそがおたくなのだ」「(そういうおたくたちが)明日のホーキングになり、スピルバーグになり、ウォーホルになる……かもしれない」と一色さんが書かれてますね。

──僕は『七人のおたく』公開当時、大学生でしたけど、ずいぶんライトな解釈で“おたく”という概念を扱ってるなという印象だったんですね。でもおっしゃるように、この映画のおたく把握ってずいぶん時代を先取っていたんだなと思います。

小出 本当にそうですね。しかも意外とちゃんとしてるのがさ、きっちりAppleが出てるじゃん、劇中に。今見るとビックリするけど、当時のQuickTimeとかね。

ハマ あれすごかったですね。

小出 「将来すごい使えるソフトになるかもみたいに言われてますけど」という台詞なんか、まさに時代の先取り。

レイジ パワーブック(Macの初期型ノートパソコン)も出てきますけど、まだデスクトップが主流というか、それさえも一部のマニアしか使ってない時代ですもんね。

 

『七人のおたく』に影響を受けすぎている小出部長

──ディテールもすごいよくできてますよね。「ホビージャパンの!」っていうセリフとか、刺さる固有名詞がちゃんと出てきますからね。

ハマ ね。あのセリフ良かったっすよ。

小出 ジオラマといえば『月刊ホビージャパン』(1969年発刊の総合ホビー情報雑誌)ですから。あのジオラマを作るシーンで、樹脂を糸鋸で切るところがあるじゃないですか。

ハマ ああ、発砲スチロールを切るやつ。

小出 あのシーンに憧れすぎて。

ハマ 憧れてんなあ(笑)、この映画のいたるところに。

小出 (照れながら)小学校の隣にあった児童館で、余ってた発砲スチロールを糸鋸で切らせてもらうっていう体験をさせてもらいに行きました。

一同 (笑)

ハマ こいちゃんにとっては、この『七人のおたく』って本当にオールタイムベストの一本みたいなもんなんでしょ。どの辺にいちばんしびれたんですか?

小出 そうだねえ。なんだろうね……なんでこんなに好きなんだろう。

レイジ やっぱ自分がおたくだからっていうのはあるんですかね?

小出 うーん、なのかもね。「自分の好きなことに夢中な自分は本当に幸せだ」ってことに尽きるのかも。特に感情移入するのは、やっぱりウッチャンの役なんだけど、彼はひたすらヒーローに憧れて体を鍛え続けてきてるわけじゃん。だけど彼はミッションに参加するなかで、自分がやってることが正義なのか悪なのかわからなくなって逡巡する。その葛藤を超えて、自分がちゃんとアクセルを踏める瞬間が、やがて来るんだよね。

初めて迎える実戦で「身体が笑うんだ。18年間鍛え続けても使われることのなかった筋肉たちが輪になって喜んでいる……俺は正義だ!」って言う。自分がずっとやってきたことや、自分が好きだって思ってることに対して、なにか確信を得られた瞬間というか。それってやっぱり、いちばん幸せじゃんっていうふうに思えるんだよね。

だからウッチャンのあのシーンは『七人のおたく』の核になる精神を表わすものとして象徴的なのかなって思う。

レイジ たしかに。世間に定着しているイメージじゃなくて、おたくの本当の意味での人間性とか、本来の意味がわかる感じがしました。

小出 好きこそものの上手なれじゃないけど、「好きなものは好き」って思えるのっていちばん良いじゃん! っていうメッセージは、すごいハッピーになりますよね。自分の好きなことを自分で肯定するっていうのは、日常の形が変化したり、価値観の変動も目まぐるしい今、きっとみんなが潜在的に欲している感情だと思うんです。だから公開から30年近く経ってるのに、今こそフィットしてる部分がたくさんある。

ハマ ちなみに今の話を聞きながら思い出したんだけど、コース(ハマくんの幼稚園からの旧友)って俺らの友達がいるんですけど。彼には妹がいて、その彼女が最近更新したnoteなんですけど、俺、今朝読んで感動して。これめっちゃ長いんだけど読んでください。この映画の話にも通ずる。

彼女が自分のものすごい好きなものに関して、noteで全然知らない人から癪に障る質問をされたっていうのが始まりなんですけど、文章力がハンパなくて。今の話を踏まえたうえで読んでもらったら面白いと思うんで、ぜひ。

──新年最初から絶賛の回になりましたね。

ハマ みんなの映画部の2021年、良いスタートではないでしょうか? あとぜひ言っておきたいのは、バブルガム・ブラザーズがカッコ良かったっすね。

(こちらはバブルガム・ブラザーズの代表作のひとつ「WON’T BE LONG」)

小出 そうだね。僕もぜひ言いたいところ。僕は主題歌の「JUST BEGUN」でファンクに目覚めましたからね。

レイジ うお~っ!!

──影響されすぎだよ(笑)。

ハマ めちゃめちゃ“目覚め”をもらってるじゃないですか、この映画で。

小出 初めて家族で行ったカラオケで初めて歌ったのがこの曲だもん。

ハマ あははは。すごいなあ。本当にこれがいろいろと原点なんですね、こいちゃんの。そういう映画が一本ちゃんとあるのって絶対幸せですよね。

TEXT BY 森 直人(映画評論家)

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