邦ロック界で一二を争う映画論客とも言われるBase Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。自宅にいながらにしてみんなで映画を楽しむ方法を行っているなかで、今回は小出部長がもっとも得意とするホラー回となりました。世界をも震撼させるJホラーの屈指の名作。しかも、劇場で大ヒットする前の原点的ビデオ作品をみんなで観ました。ビデオ時代ならではのこの画質も怖さの一因に……。
みんなの映画部 活動第67回[前編]
『呪怨(オリジナルビデオ版)』
参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、福岡晃子、オカモトレイジ(OKAMOTO’S)、ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)
Netflix作品にもなった『呪怨』のスタートはオリジナルビデオ版だった
──『みんなの映画部』第67回目です。引き続きオンライントークVer.として自宅から参加いただいておりますが、今回は「あみだくじで観賞作品決め」ではございません。夏の終わりのホラー特集ということで、小出部長のホラハラ(ホラーハラスメント)会を久々に開催しようと。この呼び名は5年前に6時間ぶっ通しでホラーを観た活動第11回のときに名づけられました。
小出 ありがとうございます。
一同 (笑)。
──というわけで、今回の作品は決め打ちで『呪怨』。現在Netflixのミニシリーズ版も話題の世界的なビッグタイトルですが、ここで取り上げるのは本当に最初のシリーズ一発目、2000年に発売された伝説のオリジナルビデオ版(東映ビデオ)です! まずは小出部長からひと言お願いします。
小出 改めて、最高でした。これが本当の万死モード(小出部長が熱中しているゲーム『Ghost of Tsushima』の超難易度モード)ですね。
──あのう、一応ゲーム好きじゃない人にもわかるようにお願いします(笑)。
小出 僕もね、このオリジナルビデオ版は久々に観たんですけど、空気感がすごく好きだなぁと。今は映像技術も上がって画質もきれいじゃないですか。良い意味で画面のチープさも含めた禍々しい雰囲気ってもう作れないと思うんですよ。まったく同じことをやっても。
ハマ 機材の進化で再現できない質感が出てくるのは音楽とも似てる。当時とは演技の仕方とかも全然違うでしょうしね、きっと。
福岡 そうだね。
小出 これは1999年製作、2000年2月(オリジナルビデオ版『呪怨2』は2000年4月)発売っていう作品ですけど、当時の時代の空気もパッケージされていますよね。そういう意味でも僕は大好きな作品ですね。初見の皆さんどうでしたか?
レイジ 最高でした。ただ「怖かった」っていう感想ではないんです。めっちゃ面白かった。
ハマ 俺も同じ。怖くはまったくなかったですね。だけどすごい面白かった。作り物としてとにかく良く出来ている。
レイジ 登場人物で区切ってくる作り方とか、説明せずにあれだけ複雑な関係を自然にわからせていくっていうのが、まず画期的ですごいし。この感じってPS2のホラーゲームの『SIREN』(2006年)とか……。
小出 間違いなく影響受けてるよ。
レイジ そうですよね。ここからいろんなところに派生していってるルーツを感じました。あとこのオリジナルビデオ版は、思ってたよりも“人間の怖さ系”だったんだなって。
小出 そうだね。ことの起こりの部分の話だからね。
レイジ 望月峯太郎のマンガ『座敷女』(1993年)とも似ていて、これは逆に『呪怨』が影響を受けたルーツのひとつなのかなと。あのマンガのストーカーの女性が、伽椰子のベースになった部分もある気がした。ただお話の全貌に関しては、この第1作目だけじゃよくわかんないところが多かったですね。
小出 それはそうだね。
ハマ 時系列でいうと小林俊介(柳ユーレイ)のパートと、田村瑞穂(栗山千明)のパートと、最後の不動産屋っていう、大きい3つのラインがありますよね。伽椰子の旦那、剛雄(松山タカシ)はなんなんだってことも、このあとわかったりするもんなんですか?
小出 そうですね。ビデオ版の『呪怨2』と劇場版『呪怨』(2003年)、劇場版『呪怨2』(2003年)まで全部話が繋がって、いろいろ因果関係が説明されていきます。だから皆さんは、ここからあと3本続けて楽しめるってことですね(笑)。
希代のホラーマニア・小出部長が解説する『呪怨』の呪いシステム
小出 あっこはどうでした?
福岡 めちゃめちゃ怖かった。しかも今、誰もいない部屋でしゃべってるから、余計にめっちゃ怖いんですけど。なんか通信遅れてるし(編注:Wi-Fi環境が悪いらしく、途中で4G回線に切り替えました)。さっき一瞬止まっちゃって、全然動かなかったから超怖かった。
小出 回線切れちゃう前に感想言って!(笑)
福岡 いや本当、何度も言うけどめっちゃ怖かった。今回はご飯食べながら観てたんですよ。
小出 うわあ、よく食べられたね。
福岡 食べられなくなった、途中で。気持ち悪くなっちゃって。
レイジ それは観てるときのシチュエーションも関係してそうですね。
福岡 特に伽椰子の旦那が袋をめっちゃぶつけてたやん。あれがヤバかった……。
小出 あれはリアルにしんどい。
福岡 しんどすぎた。俊雄(小山僚太)が汚い家に放置されてるのもめちゃくちゃ気持ち悪くなっちゃった。いろんなことを想像しちゃって。実際グロテスクなところよりも、想像力で気持ち悪くなったところが大きいね。みんなで前に観た『残穢【ざんえ】-住んではいけない部屋-』(活動第23回参照)って映画にちょっと似てるかな。
小出 そうなんですよ!
ハマ 呪われた家ね。
福岡 作り方も『残穢』ぽかったなって思った。
ハマ なるほどなあ。よく覚えてますね、あっこびんは。
小出 『残穢』と『呪怨』は呪いのシステムが似てるんだよね。
福岡 システムが似てるんだ(笑)。
ハマ 家ってことですか。
小出 そう。作品冒頭でも、強い恨みを抱いて死んだ者の呪いが、生前に接していた場所に蓄積され“業”となるって文言が出てくるじゃない? それを『残穢』は“穢れ(けがれ)”っていう言葉で説明してたの。根本的な考え方が同じだよね。
ハマ なるほどね。
福岡 この1作目だけ見たら、死ぬほど小林くんのことを呪ってああなったっていうことになってるじゃない。
小出 その取り方は合ってもいるけど、ちょっと違うかな?
福岡 そうなんだ。なんの呪いだったわけ、じゃあ。
小出 そのへん説明するか。『呪怨2』の範囲にやや入るんだけど……。
(ここで小出部長が1作目のネタバレ部分から2作目への流れを細かく解説)
ハマ すげえな。
レイジ 超面白そう。
福岡 めっちゃ怖い……。
小出 映画の『呪怨』『呪怨2』はさらにその後の話。
福岡 言われて結びついた点がいっぱいあったな。すごい細かいところまで緻密に組み立ててるんだね。
TEXT BY 森 直人(映画評論家)