宮沢氷魚、藤原季節主演の映画『his』。良いところと腑に落ちないところ、アーティストふたりでガチ感想会

邦ロック界で一二を争う映画論客とも言われるBase Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。

俊英・今泉力哉監督の新作『his』は同性愛のふたりが主人公だが、これはフラットに恋愛映画として観ればいいのだろう。ただ……。LGBTQへの社会的理解が進むなか、それぞれの立ち位置が映画の感想に違いをもたらしているのかもしれません。

みんなの映画部 活動第61回[後編]
his
参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、オカモトレイジ(OKAMOTO’S)


小出部長が感想ひと言目に困り、レイジくんが親目線で話す[前編]はこちら

泣けたレイジと腑に落ちなかった小出部長

小出 今、LGBTQの映画は世界的にすごく多いですよね。知識や情報という面ではだいぶ啓蒙が広くおよんでいるけど、まだ僕らが知らないことだったり、実感が追いついていない部分もたくさんある。

例えば『ある少年の告白』(2018年/監督:ジョエル・エドガートン)っていうアメリカ映画があったんだけど、舞台が中西部のゲイ矯正セラピーなのね。別にそんな昔話じゃない。教官が聖書で殴ったりして「治れ治れ!」って信じられないことをしてる。このセラピーを禁止する州もあるものの、宗教と政治の関係性もあってまだ存在してる州もある。そういうところに子供を入れてしまった夫婦と、当事者の少年の葛藤の話なんだけど。

こういう問題が現在進行系で依然続いているのに比べると、『his』は良くも悪くもライトではあったなと。

レイジ ライト。さくっと。俺はそこが良かったんですよ。重くなりそうな題材をなんてことなく調理するっていう。

小出 だったらね、いっそ最初からあの3人(迅と渚と空ちゃん)が当たり前に生活してほしかったな。田舎であの3人で何ごともなく生活してて。

レイジ そっからスタートする?

小出 そうそう。当たり前に3人が暮らしていて、「あ、このほんわかムード良いなあ」っていうさ。自給自足の生活で野菜とって料理して、空ちゃんがしゃぼん玉飛ばしてるのをふたりが見てる。そういう日常の続きで母親がやってくる、みたいなドラマが起こってきたほうが、むしろ展開としては納得いくのかなと。あくまで自分の好みの話ね(笑)。

あとはやっぱりキャラクターの魅力とか、日常のディテールをもっと詰めてほしいってとこかな。例えば、バカリズムさん原作・脚本・主演の『架空OL日記』の劇場版(監督:住田 崇)を観てきたんですけど、あれすごいんですよ。だって劇場版の尺100分だよ。でもドラマらしいドラマは全然ないわけ。OLの日常が続いていくだけなの。ハロゲンヒーター壊れてどうしよう~みたいな他愛ない出来事だけでワンエピソード押し切っちゃう。でもずっと観てたいって思えるところまで連れていかれる。すごいオフビートなようでグルーヴィー。ってことはやっぱりキャラクターがイキイキしているからかな、とかね。

『his』もオフビートめではあるじゃない。だったらもっとキャラクター造形や役者さんが魅せてくれないと、なんて思いながら観てたんだけど、でも俺の隣の席の人、ずっと泣いてたんだよなあ。

レイジ 俺もめっちゃ泣いてましたよ(笑)。

 

宮沢氷魚は10年に一度出てくる逸材

──この映画がリアルかファンタジーかでいうと、田舎の描写はかなりファンタジー寄りかなと思います。保守的な慣習が根強い場所で、あれだけ素敵な距離感でヨソ者を受け入れてくれるコミュニティって実際なかなか難しいんじゃないかと。だからこれに関しては希望や理想として描いたというか。根岸季衣さん演じる村のおばちゃんが「この年齢(トシ)になったらもう、男も女もワケわからんで。どっちでもええわ!」とか、すごく解放力のある台詞ですよね。

小出 そうですね。そうしたところに価値観やリテラシーのアップデートを望んでいるっていうのが見えるかなとは思います。

──“普通”の水準を引き上げようとしている意図は感じます。

小出 その意味で言うと、レイジがさっき言ってた一対一で夫婦ふたりが向き合う部分、その物語の着地は大好きなんです。あれで空ちゃんのお母さんを突き放すことはいくらでもできるけど、そうではなくお母さんも含めて、じゃあこのあとどういう風にしていけばいいんだろうって未来を考える、というのはすごくいい着地だと思う。親権がどっちか? って結論はゴールじゃないよっていう。典型的な裁判ものにしなかったのは素敵だと思います。

レイジ 最後に付け加えていいですか? あと単純に、俺は宮沢氷魚さんが好きなタイプのイケメンなんですよね(笑)。顔が好きなタイプ。スタイルもシルエットとして完璧だし、おしゃれ顔に転じることもできる正統派イケメンというか。やっぱああいう役者さんって10年に一回ぐらい定期的に出てくるんですね。永瀬正敏さんや加瀬 亮さんみたいな系譜のあらたな大物じゃないですか? これからも期待しています!

TEXT BY 森 直人(映画評論家/ライター)

 

前回の『音楽』に続き、新宿武蔵野館で観賞してきました。平日の昼間にも関わらずほぼ満席。

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