リアルミュージシャンも憧れた、アニメーション映画『音楽』が描く音楽

邦ロック界で一二を争う映画論客とも言われるBase Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。

今回の観賞映画はその名も『音楽』。不良高校生が音楽に触れていく様を描いた作品を、音楽を生業にしている部員たちはどう受け止めたのか。※後半、少しネタバレあります。

みんなの映画部 活動第60回[後編]
音楽
参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、福岡晃子


福岡晃子がチャントモンチー時代の大橋裕之先生とのエピソードを語った[前編]はこちら

坂本慎太郎、岡村靖幸ら錚々たるアーティストが声優として参加

福岡 単純にさ、この声優陣を集めたのすごいなって。

小出 すごいね。元ゆらゆら帝国の坂本慎太郎さんが音楽担当じゃなく、主人公の声優役っていう(笑)。そして岡村靖幸さんね。

──岡村ちゃんの声がどのように使われるかは、一応“観てのお楽しみ”案件として伏せておくのが望ましいようです。

小出 坂本さんも岡村さんも好きみたいですね、大橋さんのマンガ。坂本さんはタマビ(多摩美術大学)の出身で、自分で絵を描いたりされますよね。

福岡 ゆら帝のジャケットとか。ミュージックビデオも作ってるもんね。

小出 そうそう。画集も出てる。ある対談記事で読んだんですけど、坂本さんから見ても、大橋さんのキャラクターの画の作り方ってすごいって。とりわけ特徴的な“目”。あの目の描き方、他にないですよね。

実際、大橋さんの自伝的なマンガ『遠浅の部屋』によると、目の描き方に関してかなり試行錯誤されたみたいで。あの目の表現が核になって、情報量を削ぎ落とした画の中でも表情が豊かですらある。最小公倍数で伝える力をすごく感じますよね。映画版は拡大解釈してはいるんだけど、変質させずに伝えることに成功している。

──ともすると、ちょっと難解というか、大きなわかりやすいオチがあるわけじゃないものを、お客さんがちゃんと受け止めて。満足感にあふれてるムードが劇場にも感じられました。

福岡 確かに。この人気ってなんなんですかね。

小出 音楽の本当にグッとくる部分って、実はすごくプリミティブなことでさ。曲がどうとか、歌詞がどうとかの前に、グルーヴとエモーションやパッションが訴えかけてくるものが正体なんじゃないかと。僕はよく“佇まい”とか“生き様”って言ったりしてるけど。

バンド映画、特に中学生や高校生がバンド組む青春映画って、ドラマ作りのパターンは多くはないじゃないですか。学園祭とかバンドコンテストに向けてのメンバー間のやり取りとか、ヒロインとの恋とか。この『音楽』もそれなんだよね。

でも決定的に違うのは、いちばんシンプルで原初的な“音楽ヤバい”みたいな実感だけで最後まで引っ張っていくってこと。

──「ボボボボ」が象徴的ですけど、本当に余計なものを一切混ぜてない感じがしますね。

小出 特にすごいなと思ったのは、“古武術”のメンバーが自分たちの出した「ボボボボ」の音をテープで聴いて、「これ最高だと思うんだけど」っていきなり全面肯定しちゃうところ。

福岡 そう! あれ黙って聴いてる時に、「そこで反省しないで!」って思った。本当に反省してくれなくて良かった。バンドやってるとね、「デモテープ聴いたほうが良いよ」ってことは必ず言われるんです。

小出 100パー言われる。

福岡 「テープ聴いて反省して次のライブに活かせ」っていうのは絶対言われるんですけど。だけど「ボボボボ」を聴いた時に、めっちゃカッコ良いと思うんだけど、って自分の初期衝動から出てきた表現を信じるっていうのは、たぶん大橋さんの気持ちが大きく乗っかってるところだよね。

小出 きっとそうだろうね。そしてあの「ボボボボ」からの展開もまた面白い。その時点で「マジで文句ない」って思うメンバーふたりの一方、リーダー格の主人公・研二は「もうバンド飽きた」って(笑)。本当にあっさりベースを折っちゃうし(笑)。

福岡 クラッシュの『ロンドン・コーリング』のジャケ風に(笑)。

小出 あれはもう研二にとっては「到達してる」っていうか、もうわかったからいいや、みたいな感じなのかなって思って。で、唐突にリコーダーを吹き出すんですね。

リズム楽器しかここまでなかったところに、リコーダーが上物として乗っかってくるわけじゃないですか。ベースとドラマというリズム楽器だけで構成されていた「ボボボボ」っていう音は、ある種ダンスミュージック的に聴こえてたわけです。だけど、あそこにリコーダーが乗ってきたところで旋律を追い出すわけじゃないですか、僕らは。メロディーを聴いてしまう。

さらに、ギターも乗ってきたりとかして、演奏が“形”になっていくんだけど、途中からインプロビゼーション的に発展していって。すると、旋律も形がどんどん溶けて、塊になっていく。

同時に画がサイケデリックになっていって、あのへんはめっちゃ気持ち良かった。そのあと、他のパートは止まったのにリコーダーだけ残って深追いするっていう気持ちもすごいわかったし。研二だけ演奏の向こう側に行ってた感じがして。最後は笛とか関係なしに歌って終わる。言葉のない歌をうたって終わる。あ、もうこれ彼岸の話だと思って。

──彼岸。あっち側の世界。

小出 到達した世界って感じ。僕らは歌詞があってメロディーがあって、っていう形の楽曲をバンドで日ごろやってるから、『音楽』の音楽はなかなか到達しえない領域の話なんですね。

僕はずっとそこに憧れがあるし、そういう世界を垣間見られたら良いなとかって思ってる側だから、正直うらやましいなとも思った。っていうミュージシャンとしての真面目な話。

 

音楽を生業にしている人たちが観ても、そこには“全部あった”

──おふたりのようなガチなバンドの当事者、音楽をやってる人たちに対しても説得力というか、ちゃんと伝わる。「それ違うじゃん」ってことがない映画だと受け取って大丈夫ですか?

小出 大丈夫です。ちゃんと全部ある。

福岡 うん、全部あった。納得しちゃった、すごく。

小出 音やディテールもさることながら、画の力も大きいですよね。この『音楽』の世界では何が起きてもおかしくない。でもかといって別にシュールとも思わない。『ピューと吹く!ジャガー』になってないのもすごい。。

福岡 あははは。たしかに。

小出 『ピューと吹く!ジャガー』大好きだけど(笑)、『音楽』はバンド映画として着地してるのは不思議。

福岡 不思議だった、ホンマに。やっぱり初期衝動っていうのが自然な形で日常にあるんだなっていうのを思い出した。あとなんかキャラ画がスケバンだったりとか、モヒカンだったりで昔の不良のビジュアルなんだけど、触感がすごく今風だった。

小出 ずっとタバコ吸ってるし、ケータイもスマホも出てこないのにね。

福岡 なぜか今っぽかった。もしかしたら何年後かに観ても「今っぽい」って思うのかもしれないけど。

──非常に洗練されていて、同時に親しみやすさもある。誰でも共感っていったら変だけど、入り込める。お客さんの年齢層も幅広かったですよね。

福岡 みんな笑ってたしね。

小出 うん。それこそ音楽の普遍性みたいなものを感じてるのかもしれない。

TEXT BY 森 直人(映画評論家/ライター)

めずらしくサングラス姿で写真に収まる小出部長。その理由を聞くと、「大橋裕之先生の作品をくまなく読んでいたら睡眠時間を削ってしまい、クマがひどいから」とのこと。いつものこの連載への準備に余念がなくて恐れ入ります。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

M-ON! MUSICの最新情報をお届けします。

この記事を書いた人