話題沸騰のアニメ映画『音楽』を現役バンドマンがガチ観賞、そして堪能!

邦ロック界で一二を争う映画論客とも言われるBase Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。

今回の観賞映画はその名も『音楽』。不良高校生が音楽に触れていく様を描いた作品を、音楽を生業にしている部員たちはどう受け止めたのか。

みんなの映画部 活動第60回[前編]
音楽
参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、福岡晃子


あんまり観たことないタイプの映画

──『みんなの映画部』第60回でございます。今回はじわじわと盛り上がって話題沸騰中のアニメーション映画『音楽』。“ロック奇譚”の異名を取る大橋裕之さんのマンガを原作に、監督の岩井澤 健治さんがなんと7年かけて40,000枚以上の作画をスタッフと共に手描きした渾身の力作。

昨年9月にめでたくカナダのオタワ国際アニメーション映画祭でグランプリを獲得しております。まずは小出部長、恒例のひと言からお願いします。

小出 (しみじみ)めっちゃ良かったです。

福岡 そういうテンションね、わかる。

小出 尺が70分だったのも良かった。適切って意味でちょうどいい。人間、疲れずに集中できるのはやっぱね、90分までだよね。サクッと観終わったときってなんかうれしいよね(笑)。

福岡 あはは。

小出 ライブなんかもそうだと思うけど、適度な時間設定っていうのも良質なエンタメの条件だと思う。今日も満席だったんじゃない?

福岡 しっかり客席埋まってたよね。70分もちょうど良かったし、私はアニメっていう印象がまったくなかった。観終わったあとに、「あれ、アニメだったっけ?」って感じ。知ってる人がたくさん関わってる映画なんやけど、そういうのも忘れるぐらい入り込んだ。あんまり観たことないタイプの映画で。

小出 僕は大橋裕之さんのマンガはいくつか読んだことあったんですけど、『音楽』の原作は読んでなかったんですね。今回の映画化に合わせて『音楽 完全版』っていう書籍が出たので読んでみたら、すごく面白った。

大橋さんって、“間”で読ませる作家さんですよね。背景もあまり描きこまないし、セリフもそこまで多いわけじゃない。でも、ドラマティックだし、詩的だし。だから映画化と言っても「間をどう表現するんだろう?」「画をどうやって動かすのかな?」って思ってたら、さすが足かけ7年かけて作ってきた映画だけあって、まず、キャラクターがぬるぬる動いてすごいなと。この作画には驚きましたね!

──“ぬるぬる”って形容は抜群ですね(笑)。あっこちゃんが「アニメの印象がない」って言ったように、この映画は実写映像をまず撮影して、それを画にトレースする“ロトスコープ”という手法が使われています。

小出 背景は写実系ですもんね。その空間のなかで、原作より頭身を上げてもちゃんと大橋キャラクターだったのもすごいなと思ったし。

福岡 原作の大橋さん、チャットモンチーでも描いてくれてたことがあるんですよ。2008年の「風吹けば恋」っていうシングルの特典用でマンガを描いてくれた。それはうちのディレクターが中野ブロードウェイで大橋さんが自主制作のマンガを売ってたのをたまたま買って、この人と仕事したいって思ったらしくて。

その時に私も初めて大橋さんのマンガを見て、めっちゃ新鮮で面白い! って思って。そこでぜひお願いしようってことでやってもらったんです。その思い入れもあるから今回の映画はものすごく期待してたし、実際想像以上でした。

 

原作が持ってるグルーヴ感を大切にそのまま大きくしている

小出 原作では不良高校生バンド“古武術”の演奏シーンは「ボボボボ」としか音が書いてないんですよ。これをどう具体的な音にして鳴らすか、映画化に際して向き合わなきゃいけなかったことだと思うんです。こういう肝心な部分がいまいちだったらガックリきてしまうのは目に見えてるので、逃げちゃったりする場合もあるじゃないですか。“至上の歌声”を実際に再現するのは無理だから、いっそ無音で処理しちゃったり。

──そういう問題作もありましたよね(笑)。

小出 そうそう、僕は具体的に『BECK』(2010年/監督:堤 幸彦)のことを言ってるんですけど(笑)。あの無音処理は原作者のハロルド作石先生の意向だったらしいですが。今回の『音楽』は本当に原作通り、ベース2本とドラムだけでひたすらワンコードをひたすらステイっていう。

あの「ボボボボ」を原作で読みながらたしかにプリミティブで良いかも、みたいなことは思ってたけど、今日実音で聴いてみて、たしかにカッコ良いな! と実感しました。あと「ボボボボ」って音にしっかりしびれる登場人物たちの素養の高さね(笑)。

初めて触った楽器で音を出してみて「めちゃくちゃ気持ち良かった」って言ってる不良たち。それを聴いて「あんたたちらしくてカッコ良いじゃん」って声をかけるヒロイン。フォークバンドの“古美術”の人たちもその無骨な音の純度に打ちひしがれる。

「ボボボボ」を聴いて、古美術の音楽マニアのリーダーが頭のなかに、ロックの名盤ジャケットが飛んでくるじゃないですか。ピンクフロイドとか、彼はあの情報量の少ないミニマムな音からいろんなイメージを想起しているんです。いやもう、センスあるよそもそも! って。あはは。

──リアルヤンキーの音楽センスとはずいぶん違いますよね(笑)。コアな音楽好きの感性から逆算された、彼らが夢見る理想の“無垢な音”というか。

小出 本当に。登場人物たちの豊かでピュアな感受性よ。そういう意味でも大好きでしたね。すごい優しい世界だと思ったし。

福岡 ああ、たしかにめっちゃ優しい映画だなって。実際に観る前は、今すぐバンドやりたくなる感じの映画かなと思ってたんやけど、ちょっと違ったね。もちろん音楽をやってる人が観たら、「あ、こういう瞬間あるよな」っていうのがすごいわかるけど、『シング・ストリート 未来へのうた』(2015年/監督:ジョン・カーニー)とかああいう自分の体験や記憶と重なるバンド映画じゃなくて、ちょっとファンタジー的というか、優しい世界が進んでいくのが意外だった。それが新しい感覚ですごい良かったですね。

TEXT BY 森 直人(映画評論家/ライター)

ミュージシャンとしてこの映画に憧れた頃を語る[後編]へ続く

新宿武蔵野館内にある『音楽』のポップ。本文中で小出部長が言及していた原作の「ボボボボ」が用いられている。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

M-ON! MUSICの最新情報をお届けします。

この記事を書いた人