三谷幸喜ファンのアーティストも高評価!『記憶にございません!』をみんなでガチ観賞してきた

邦ロック界で一二を争う映画論客とも言われるBase Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。

かねてより三谷幸喜ファンを公言していた小出部長が迷わず『記憶にございません!』をチョイス。記憶をなくした歴代最低人気の総理を描いた喜劇映画を、アーティストたちはどう楽しんだのか。

みんなの映画部 活動第57回[前編]
記憶にございません!
参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、世武裕子、ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)、オカモトレイジ(OKAMOTO’S)


喜劇の巨匠・三谷幸喜が最新作で描いたのは“内閣総理大臣”

──『みんなの映画部』第57回。今回は目下大ヒット中、三谷幸喜監督の新作『記憶にございません!』でございます。

まずは世田谷区池尻にある古畑病院を見て「この病院がね……」と解説を始めるくらい(三谷さんは同病院の看板がきっかけで『古畑任三郎』というネーミングを思いついたという逸話)、三谷幸喜好きの小出部長からまずはひと言お願いします。

小出 いや~、ほんとに面白かったです(しみじみ)。

ハマ 毎回こいちゃんの「最初のひと言」のバリエーションいいねえ。

レイジ 今回は「面白かった」を噛み締めてる感じですね(笑)。

世武 映画監督としての三谷さんの新作って、ちょっと久しぶりなんだっけ?

小出 前が『ギャラクシー街道』(2015年)だから4年ぶりですね。三谷幸喜さんを映画監督とだけ見るのって実はすごい難しくて、この方の本業というか出自は演劇。そこからテレビドラマの脚本家として国民的な人気作家になられて。近年はNHK大河ドラマをやったり、歌舞伎をやったり、いろいろ挑戦されている多彩な活動のなかに、何年かに一回、映画が挟まれる、みたいな。

だからフィルモグラフィーだけを見て三谷幸喜について語るのはちょっと危険だなと思うんですけど、とはいえ『ギャラクシー街道』や、そのひとつ前の『清須会議』(2013年)がいまひとつだったんですよね。ところが『記憶にございません!』はまさに三谷さんにしか作れない喜劇だったので、溜飲を下げました。

今回すごいなと思ったのは、劇中で「日本」ってことがまったく語られないんですよ。

ハマ そう、国の名前が出てこない。

小出 国旗も出てこない。もちろん登場人物の名前とかは日本人でしかないんだけど、「日本風の架空の国」が舞台って見方もできるんだよね。内閣総理大臣が題材なのに、これだけイデオロギー臭を消して、喜劇として面白くすることができるなんてさすがすぎるなと。

ハマ 「風刺じゃない」ってことは三谷さんご自身も公言されてますよね。ただ僕としては、風刺じゃないっていうのが結果的に風刺的になってるところがすごい面白いなと。だって「記憶にございません!」って言葉自体も実際に日本の政治家の常套句じゃないですか。

小出 風刺じゃないって言って風刺になってるのが最高の風刺だよ。

ハマ この映画のテーマ的な根幹って、たぶん主人公の黒田総理(中井貴一)の小学校の卒業文集ですよね。「僕は大きくなったら総理大臣になりたい」っていうピュアな気持ち。昔は「総理大臣になりたい」っていうのが子供の頃の夢だった。

小出 クラスに5人はいたよ。

ハマ みんなに憧れられる存在だったよねって。今の政治がどうこうっていうよりか、そっちが本質なんだなって。だからポップに観られる。僕も三谷作品が好きで、こいちゃんほどじゃないかもしれないですけどたくさん観てきてるから、今回は三谷さんらしさも充分あって、非常に満足しましたね。

 

三谷幸喜作品が初めての人にもお薦め

小出 あと三谷作品は全部俳優さんへの当て書きと言われてますけど、もう中井貴一さんが主演っていう段階で勝ってる。ずっと面白いもん、演技が。

レイジ 顔がめっちゃ面白い。

小出 記憶を失った序盤の演技とかすごいですよね。脇を固める人たちも、これこそ適材適所で。小池栄子さんも良かったし、ディーン・フジオカさんも。こんなにも機能的にディーン・フジオカを使ってるの初めてなんじゃないか? って。

世武 今まで観たディーンさんでいちばん良かった。

小出 過去最高の「おディーン」(笑)。やっぱりシチュエーションコメディこそが三谷さんのお家芸だから、くっきりしたキャラクター作りは最高の成果を示しますよね。

もちろん『ギャラクシー街道』とかもシチュエーションコメディって言っていいんだと思うんだけど、シュールすぎたんだと思うんですよ。どこで笑ったらいいのかわかんない、みたいなことになってた。

『清須会議』は場面転換が多すぎて、タイトな内容と噛み合っていないように感じた。その点、今回は「総理大臣が記憶を失った」というシチュエーションを、総理官邸を軸足に見せることで、あらゆる出来事が面白おかしくなってる。

世武 レイジくんもめちゃめちゃ笑ってたよね。

レイジ めっちゃ面白かったっすよ。やっぱり「面白いだけ」っていうのは娯楽として最高だなと思ったし、こういう題材なのに重くなってないのもすごいと思うし。

ただ「時代感」ってことで言うと、この映画は不思議な感覚ですよね。「ネガがあるのか?」「古いな、メモリースティックだよ」みたいなかけ合いのくだりがあったり、テレビも薄型が出てきてたけど、全然現代の話に見えないっていうのが結構すごいなと思って。頭に残ってるイメージが昔の画なんですよ。ほとんど90年代ぽいムードっていうか。

──携帯電話が全部ガラケーでしたよね。構想13年ってのと関わってる部分なのかな?

レイジ そうそう。

小出 “リアル”かと言えば全然違いますよね。だって絶対、総理官邸あんなじゃないし。

ハマ あれはいわゆる“三谷幸喜セット”ですよね。

レイジ ただ、あそこは良かったですね。総理が奥さんに向けた演説をして、それで国民の支持率がぐっと上がるかと思いきや、「ちょっとしか上がりませんでした」って。そのあと、テレビニュースの画面が突然全部そのまんまスクリーンに映ったじゃないですか。あそこは結局テレビでどうにでもなるっていうことなのかなって。

総理がどうとか政界で起こってることよりも、それをテレビがどう報じてるかっていうところで世論が動いちゃう。ここは“リアル”だなって。

ハマ たしかに“リアルにチクチク”は随所にあるよね。

小出 イメージ戦略の風刺みたいなことで言うと、僕があのシーンで思ったのは、ここまでの行いは一瞬じゃ覆らないよ、と。政治家は一回の演説だけじゃなく、自分が変わったっていうことをちゃんとこれからずっと継続的に見せとかないと国民は納得しないよ、ってことなのかなと。

──どこか寓話仕立てなぶん、解釈としてもいろんな受け取り方ができそうですね。世武さんはいかがでしたか?

世武 私も面白かった。初めて三谷幸喜さんの映画観たんですよね。

小出 マジで? じゃあ最初がこれで本当に良かったよ。

ハマ ヘタなのを観ちゃうと、世武さんだったら永久にシャッターが降りて……(笑)。

世武 私はいわゆる喜劇ってほとんど観ることなくて、日本のお笑いでも好きな人って限られてる。でも今回は役者さんを観ているだけで楽しめました。

上手いとか下手とはちょっと違うのかもしれないけど、例えば中井貴一さんとか、わざと振付のように演技してるところもあると思うんですけど、普通だったらトゥーマッチになりそうなところが全然イヤじゃなかった。

正直キャストによっては、この演出に向いている人と向いていない人の差があからさまに出ているなとは思ったんだけど、普段自分が興味なかった役者さんも面白いと思った人が結構いた。

ハマ なるほど。たしかに三谷ワールドって、役者さんの資質との相性は結構ハッキリ出る気がしますね。

世武 あと今回も音楽的な部分でコメントすると、こんなに劇伴でオクターブのユニゾン使う人いるんやって、逆に攻めてる! と思った。3オクターブぐらいで、めっちゃユニゾンするやんって思わなかった?

小出 全部ユニゾンだなって思った。

世武 ちょっと滑稽な風にしたかったから、わざとそういう風にしたんかな。結構気になる存在感だった。

──オクターブをユニゾンすると滑稽感が出る?

レイジ シンプルっていうか深みがない感じになる。複雑な感じになんない。画でいったらクレヨンのタッチみたいなことじゃないですか。

小出 重ね塗りみたいなね。

世武 ハーモニーが書けない人みたいな感じになっちゃう。めちゃくちゃ曲が書ける人があれをやるのは、結構計算してるっていうか、遊び心というか。

小出 複雑なアンサンブルではないからね。主旋律を聴かせたいやつね。

世武 それをわざとやってるんだったらすごい大人だなと思った。ちょっと興味が湧いたから、三谷さんが監督した他の映画も観てみたい。

TEXT BY 森 直人(映画評論家)

中井貴一と草刈正雄の魅力語りが止まらない[後編]に続く

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