邦ロック界で一二を争う映画論客とも言われるBase Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。
無類の特撮好き……もちろんゴジラマニアでもある小出部長が、伊福部 昭好きの福岡晃子、特撮系無縁のオカモトレイジ(OKAMOTO’S)と共に、ハリウッド版ゴジラの最新作を初日に劇場で観賞しました!
みんなの映画部 活動第53回[前編]
『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』
参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、福岡晃子、オカモトレイジ(OKAMOTO’S)
『モンスターバース』という連作シリーズの最新作
──『みんなの映画部』第53回です。『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の公開初日にやってまいりました。ではまず、大のゴジラマニアでもある小出部長のひと言からお願いします。
小出 うーん……今回はねえ、なんか複雑な気持ちなんですよ。感想がまとまってなくて。話してるうちに見えてくるかなあ。
福岡 珍しいね。
レイジ それはゴジラが好きすぎるから、ってことですか?
小出 だと思う。過去シリーズを観すぎてるっていうのはあると思うのよ。あと、どんなベクトルでゴジラが好きなのかってことかな。僕は怪獣も特撮も好きなんだけど、まず精神が好きっていう感じだから。
今回の映画は『モンスターバース』っていう連作シリーズの最新作で。最初が2014年、ギャレス・エドワーズ監督版『GODZILLA ゴジラ』。次が2017年、この映画部でも観に行った『キングコング:髑髏島の巨神』(監督:ジョーダン・ヴォート=ロバーツ)ね(活動第34回参照)。
──あの回は大絶賛でしたよね。
小出 そして今回が第3作目。ちなみに次作は『Godzilla vs. Kong』(原題)なんですよ。ゴジラとキングコングが戦うっていう流れは、もう決まってる。
レイジ 「MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)」みたいなもんか。日米レジェンドの怪獣たちを交ぜて戦わせちゃおうってことなんですね。
小出 東宝が作った日本版のゴジラで、『キングコング対ゴジラ』(1962年/監督:本多 猪四郎)っていう日米対決作品はすでにあるのね。それが日本国内だけで観客動員数1,000万人超え。ゴジラシリーズの歴代記録を打ち立てた。
レイジ じゃあそのプロジェクトごとまるっとリブートしてるってことなんですか?
小出 いや、リブートっていうか、ハリウッド版っていう風に考えてもらえればいいのかな。ちなみに『キングコング対ゴジラ』ではどっちが勝ったのかわかんないんです。引き分けみたいな感じ。だけど『Godzilla vs. Kong』は勝ち負けの決着をつけるらしいですよ。白黒はっきりつけるって明言されてるんで、先に。
福岡 それは観たくなるな(笑)。
レイジ 今回の『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』に出てきたのは、みんな日本の怪獣ですよね?
小出 メインどころ以外はオリジナルの怪獣なんだよね。東宝怪獣は使用料の都合で絞らなきゃいけなかったらしい(笑)。
ゴジラシリーズの歴史をひもとくと、1954年に初代『ゴジラ』(監督:本多 猪四郎)があって、その次の第2作『ゴジラの逆襲』(1955年/監督:小田基義)で、ゴジラはアンギラスっていう怪獣と戦うんですよ。ゴジラにとっての初めての対決でありながら、日本初の怪獣同士の対決。
いっぽうその裏で、『空の大怪獣ラドン』(1956年/監督:本多 猪四郎)っていうラドン単体の映画が作られる。
レイジ ラドンって今回出てきたヤツですね。
小出 デカい怪鳥ね。『空の大怪獣ラドン』では、そいつが超音速で飛び回って、ソニックブームを起こして街を破壊しちゃう。この映画の特撮がまあすごいんですよ。特にラストシーン。ラドンを吊るしてたピアノ線が切れるハプニングでそうなったらしいんだけど、噴火する阿蘇山の溶岩に飲まれていくラドンの儚さと美しさね。
そのあとに『モスラ』(1961年/監督:本多 猪四郎)です。ゴジラはシリアスな出自の怪獣だけど、対してモスラは母性を感じさせる、温かいファミリー向けのキャラクター造形。その『モスラ』が人気を博したのを受けて、『モスラ対ゴジラ』(1964年/監督:本多 猪四郎)っていう対決ものが公開されるんですね。
『モスラ対ゴジラ』におけるゴジラは、ヒールなんですよ。そしてモスラに負ける。これが昭和シリーズで唯一の黒星。のちに平成シリーズの『ゴジラVSモスラ』(1992年/監督:大河原 孝夫)でも、ゴジラはモスラとバトラによって封印される。
レイジ へえ~。モスラって一見弱そうだけど、なんであんなに強いんですか?
小出 結構真面目に母性なのかなぁとか思うよ。守るものがある強さというかね。平成版『モスラ』(1996年/監督:米田興弘)とか、ちょっと泣いちゃう。作品によっても設定が微妙に違うんだけど、基本的に人間寄りの怪獣なんだよね。インファント島で守護神として祀られてる。
で、『モスラ対ゴジラ』の続きにあたるのが『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964年/監督:本多 猪四郎)なんだけど、ここでキングギドラが初登場。こいつは宇宙超怪獣でね。5,000年前に金星を滅ぼしたとんでもないやつが、地球に飛来してきちゃった。
このヤバいやつにどうやって対抗したらいいか? やっぱ怪獣しかないって、モスラにお願いするんだけど、『モスラ対ゴジラ』で生き残った幼虫モスラ単体じゃさすがに無理だと。じゃあゴジラとラドンを説得して、トリオで頑張ればキングギドラを倒せるかもしれないっていうことで、三大怪獣が集まることになる。
福岡 なるほど。じゃあその『三大怪獣 地球最大の決戦』を基にしたのが『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』ってことか。
小出 ざーっくり言うとそうだね。ちなみにキングギドラが自分の意思で地球に飛来して暴れまくったのは最初のと、平成版『モスラ3 キングギドラ来襲』(1998年/監督:米田興弘)くらいで、その他では宇宙人や未来人にマインドコントロールされがちという(笑)。
一同 (笑)。
キングギドラは完全にヒール。今後の覇権争い展開は楽しみだが……
小出 でね、今回の映画もキングギドラを地球外の怪獣で、完全なヒールに設定してる。まさに『三大怪獣 地球最大の決戦』と同じく。
実は過去シリーズのなかで、キングギドラが敵じゃなくて地球の守護神だったっていうパターンが一個あるんですよ。『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』(2001年/監督:金子修介)。この作品が僕は歴代ゴジラのベスト3に入るくらい好きで。
これと同じ感じで、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の予告ではキングギドラが氷漬けになってたし、今回は守護神パターンか!? と思ってたんだけど、真逆だった。
むしろゴジラは、古代から人類に崇拝されていた生物だったと。この点は、ひとつ前のギャレス・エドワーズ版のゴジラではわからなかったんだけど、ここが明らかになったんで、今後の覇権争いが楽しみになってきた。
──今回の監督はマイケル・ドハティという人ですけど、東宝ゴジラのガチオタなのは間違いないですね。やたらマニアックなオマージュが随所に込められている。
小出 そうなんですよ。テンション上がったのは、最初にキングギドラのことを“モンスターゼロ”って呼んだところ。あれは『三大怪獣〜』の次の『怪獣大戦争』(1965年/監督:本多 猪四郎)が元ネタなんです。
X星人っていうゴジラシリーズでは有名な宇宙人が、キングギドラを操っていて、さらにゴジラとラドンを手中に収めて地球を植民地にしようとしてくる。ビジュアル検索してもらいたいんだけど、X星人のコスプレ、たぶんレイジ似合うと思うんだよな。
レイジ え? 似合う系?
小出 似合う似合う。
(一同、検索中)
レイジ おお~! たしかに似合うかも。っていうか、俺の家にあるものでX星人のコスプレできそう(笑)。
福岡 すごい、スターマン(ゲーム『MOTHER』登場キャラクター)みたい。
レイジ 今日帰ったらX星人の格好してみようかな。
小出 その『怪獣大戦争』でね、X星人は電子計算機によって統制されてる連中で、女性はみんな同じ顔だし、すべての物質をナンバーで呼ぶ。キングギドラのことも“怪物ゼロ”って呼んでるんですよ。
福岡 なるほど、それで“モンスターゼロ”。
小出 完全にオマージュだね。わざわざ“モンスターゼロ”って呼んだのはそういうことだった。ちなみにゴジラは“怪物01(ゼロワン)”、ラドンが“怪物02(ゼロツー)”。こういう小ネタが効いてるところが、自分的には好きだった。
──ゴジラファンとしては目配せが効いてるなと。
小出 ただね、同じ部分でイヤだったことが、実は一個あったんだよなあ……。
TEXT BY 森 直人(映画評論家)
ゴジラマニアがゆえに小出部長が解せなかったことを話す[後編]に続く

愛蔵書『ゴジラ大辞典[新装版]』を持参した小出部長。Amazonプライム・ビデオにて期間限定で観られる歴代ゴジラ作品を強く推していました。

ゴジラ初心者のレイジくんに『ゴジラ大辞典[新装版]』に掲載されていた年表を使って解説する小出部長。感想の語り口はアツいけど、初心者には優しいのでした。