話題作『ブラック・クランズマン』をアーティストがガチ観賞。偏見や差別ってなんなのさ……

邦ロック界で一二を争う映画論客とも言われるBase Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。

今回は、実話を基にブラックムービーの巨匠が監督した問題作『ブラック・クランズマン』を観てきました。原作も読んだ小出部長による解説込みの感想なので、時代背景がわからなくてもこれを読めば大丈夫!

みんなの映画部 活動第51回[後編]
ブラック・クランズマン
参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、福岡晃子


ブラックスプロイテーション映画やKKKについて
小出部長が教えてくれる[前編]はこちら

悪いけどこれだけは本気で言っとくよ、っていうスパイク・リーの姿勢

福岡 私はKKKの歴史や詳しい背景も今こいちゃんが説明してくれるまで知らなかったし、内容的には質量が多くてどっしりした映画なんだろうけど。でもノリとしてはそれこそめっちゃファンキーっていうか、映画として単純に面白いよね。実際観ている感触としてはそんなに重くないのが良かった。

小出 軽やかなんですよ。そこはやっぱりブラックスプロイテーション映画のノリだから。

──娯楽映画としても上等に仕上げているのがイイですよね。

小出 そのぶん、実話がベースっていうところを厳密に考えていくと、そこそこ怪しい気もするけどね(笑)。原作自体も多少盛ってるんじゃないかなぁ……? だって、具体的には別に何をしてたか証拠もないのに、電話勧誘に引っかかったってだけで潜入捜査を警察が始めちゃっていいの?

福岡 そうだよね。

小出 当時、最高幹部だったデービッド・デュークはメディアに出てガンガン広報活動してたし、公に広告も出しているわけだし、法律で禁止された集団ってわけではないからね。

福岡 勝手に潜入捜査したら違法捜査になるわけね。

小出 原作にもあるんだけど、潜入捜査のルールとして、こっちから向こうに犯罪を起こすようにけしかけるのはNGなんですよ。当然、KKKに加担してもいけないし、非常に難易度の高い仕事。でも劇中でも言ってるけど、ブラックスプロイテーション映画っていうのはファンタジーだからさ。この映画もその精神に則っている。

福岡 確かにファンタジーって言われたら、いかにも娯楽映画っぽいタッチのところはいっぱいあったな。でもその本編に人種差別の現場のドキュメント映像をくっつけちゃうっていうのは、手法としてはだいぶトリッキーやね。

小出 娯楽的だけど、メッセージは本物。主張ははっきりあるから、悪いけどこれだけは本気で言っとくよ、っていうのがスパイク・リーの姿勢ってことじゃないかな。

あともうひとつ音楽面で言えば、エンディングの曲「Mary Don’t You Weep」はプリンスでしたね。去年の暮れぐらいに出た未発表音源集(『ピアノ&ア・マイクロフォン1983』)に収録されているトラックなんだけど、カセットテープで録音していたスタジオでの弾き語りなんですよ。

この曲は元々スピリチュアル(霊歌)なわけですけど、1960年代にピート・シーガーが歌って、公民権運動を支えるモチベーションにもなった。それが映画の最後を飾る主題歌になってるっていうことも、完全にスパイク・リーのメッセージの表明だよね。

アレサ・フランクリンも以前から歌っていて、72年の「Amazing Grace」っていう超名盤のライブ盤にも収録されてるんだけど、この曲をスワン・シルバートーンズがレコーディングした際にアドリブで入れたフレーズにインスパイアされてできたのが、サイモン&ガーファンクル「明日に架ける橋」で、この曲をまたアレサがカバーしてるっていう。アレサ・フランクリンやばすぎ(笑)。

 

映画から人種隔離時代の背景や歴史を学べる

──政治的な戦闘性は確かに強い映画なんだけど、それでもスパイク・リーも若い頃よりはだいぶニュートラルになった気がします。『マルコムX』なんかは彼の視点自体が暴力革命路線に寄っていて、ブラックパワーの啓蒙映画のノリに近かった。その点、今回は主人公のロンはだいぶフラットだし、乱暴に白人を敵視しているわけではない。そこに変化というか成熟も感じました。

福岡 単純に「白人はひどい」ではなくて、この映画はもっと個人の意識が揺れているように描いてるよね。だから常に自分も差別心がないか疑ったほうがええなって。絶対自分も無意識に、どっかそういう偏見があったりするじゃないですか。

小出 人種問題じゃないところでもね。

福岡 そう、もっとちっちゃいことでも。この映画を観て、そういうことを考えるきっかけにもなるかなとは思いました。絶対自分が正しいって思っちゃいけないっていうか。

──その辺、アメリカ映画って最良のテキストになりますよね。本だともうちょっとハードルが高いし、テレビだとそこまで表現してるものに出会いにくい。楽しくわかりやすく学べるのは映画のおかげ。

小出 そうですね。さっき言った今年のアカデミー賞にしても、受賞結果を見れば今の世界で何が問題になっているかの大まかな傾向がわかるっていう。

ちなみにスパイク・リーは『グリーンブック』を批判してるんですよ。内容は1962年を舞台に、米南部への旅を通してイタリア系の白人ドライバーと黒人のピアニストが友情を結ぶ話なんだけど、白人側の視点で描いてるじゃん、と。

──白人の良心を満足させる黒人映画の典型のように批判する向きは多いですね。実際それもわからなくもない。

小出 ただ我々のように海を隔てた島国に住んでる人間からすれば、かつてのアメリカにはグリーンブックっていう、黒人が泊まれるモーテルだけをわざわざ紹介している旅行ガイドブックなんかがあったってことだけでもかなり衝撃的。差別問題の時代背景とか、歴史、その根深さを学べるってことだけでも、映画ってありがたいですよ。

福岡 なるほど……これは私もマジでもっと勉強せなあかんな。

小出 総括すると、勉強って大事だなって。

福岡 本当そうやね。今回の映画部は俳優より監督をフィーチャーしましたね。

小出 『スター・ウォーズ』のカイロ・レン(アダム・ドライバー)も出てるけど(笑)。ちなみに主人公ロン役のジョン・デヴィッド・ワシントンは、僕の大好きなデンゼル・ワシントンの息子さんです。

福岡 へえ、あんま似てなくない? お母さん似なのかな?

TEXT BY 森 直人(映画評論家/ライター)

お腹ペコペコの小出部長に切れ味ある映画の話をしてもらうべく、今回は寿司店で感想会! あっこちゃんはパンフレットを読み込んで、マグロの存在に気付いていない……。

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