『女王陛下のお気に入り』を観て、アーティストたちのテンションが上がりっぱなし!

邦ロック界で一二を争う映画論客とも言われるBase Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。

先日発表されたアカデミー賞で賞レース軸になった『女王陛下のお気に入り』を観賞、そして激賞。いつもは映画の好みが異なるアーティストふたりが、思い余って感想が止まらなくなってる様をご堪能ください。

みんなの映画部 活動第50回[前編]
『女王陛下のお気に入り』
参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、世武裕子


好みの異なるアーティストふたりが、こぞって賞賛!

──「みんなの映画部」第50回。年間ベストムービー発表の回を挟みまして、今年一発目となります。

小出 おお、記念すべき50回目。

世武 すごい。何年目になるんですか?

──スタートは2014年4月ですね。

小出 もうすぐ丸5年じゃん。もう長寿連載の域ですね。ありがたいことでございます。

──今回は小出部長と世武さんのコンビで、祝・アカデミー賞主演女優賞!(オリヴィア・コールマン)の『女王陛下のお気に入り』を観てきました。まずは恒例の部長のひと言からお願いします。

小出 めっちゃ良かった。最高でした!

世武 (拍手)

小出 そろって絶賛、ふたりともお気に入りという。でもこれって実はレアケースなんですよね。

世武 そうそう。連載を振り返っていただければわかると思うけど、普段、こいちゃんと私は映画の意見や好みが合わないことが多いんです。そのふたりの組み合わせっていうのは結構危ないパターンだから(笑)。基本、(感想が)割れる前提なんですよね。

小出 なぜ今回『女王陛下のお気に入り』にしたかというと、去年の世武さんの年間ベストムービーが『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』。これがギリシャ出身の奇才、ヨルゴス・ランティモス監督の前作なんですよ。

世武 こいちゃんが「タイミング的にこれじゃない?」って言ってくれた時に、なんて優しいんだと思った。結構ぐっときました。

小出 ところがね、世武さんはこの監督の『聖なる鹿殺し』は大好きだけど、そのひとつ前の『ロブスター』(2015年)が全然合わなかったんでしょ?

世武 全然合わない。『聖なる鹿殺し』が本当にハマったので、『ロブスター』がダメだったのって私の勘違いなんじゃないかと。本当は好きなんじゃないかと。

小出 こんなに『聖なる鹿』と『女王陛下』が好きだから(笑)。

世武 そう。『ロブスター』は映画館で2回観て撃沈。しかも寝落ちたうえに、起きてからも苦痛で早く外の空気を吸いたいっていうのは、最近だと『アンダー・ザ・シルバーレイク』(2018年/監督:デヴィッド・ロバート・ミッチェル)と『ロブスター』ぐらいです。今のは飛び火だけど。

小出 『アンダー・ザ・シルバーレイク』は完全に巻き込み(笑)。

──逆にハマってる人はものすごくハマってる映画ですよね。

世武 そうなんですよ。そっちはNetflixで観始めたんだけど、30分ぐらいでほんとつらくて。何回も観直しても無理で、「視聴中のあなたの映画」みたいな履歴がずっと残ってる(笑)。

 

ヨルゴス・ランティモス監督お決まりの性描写も重要な作家性

小出 そんな前提がありつつ、ヨルゴス・ランティモス監督の作品は『ロブスター』の前に『籠の中の乙女』(2009年)ってやつがあるんですよ。これが日本で公開されたものでは彼の最初の映画(トータルでは長編第2作)なんですけど、世武さん観てない?

世武 観てないです。

小出 『籠の中の乙女』から『女王陛下のお気に入り』まで順番に追っかけていくと、まずはこの監督の作家性みたいなものが最初から仕上がってるのがよくわかるんです。

もう『籠の中の乙女』の時点で、画角の作り方とかテンポとか、どういう作劇をしたいのかとか、自分独自のスタイルがしっかりしていて。「毎度おなじみの」みたいな、お決まりのシーンすらすでにある。もちろん予算的には『籠の中』と『女王陛下』って桁違いだろうから、画のスケール感は全然違うんだけどね。

世武 出世街道まっしぐらだもんね。

小出 美術とか衣装に関しては『女王陛下』は圧倒的にゴージャス。だけど低予算の初期作品もメジャーになった今回も、画の作り方、テンポとか間の感じは同じと言っていいと思う。

劇そのものに欲することも通底するものがあるよね。ブラックな笑いとか、シュールって言ってしまうと平たいけど、どの作品観ても結構ずっと笑わせようとしてるんじゃないかと思う。

世武 だって『女王陛下』でも、またロブスター出てくるんかい! って思った。

小出 そうそう。

──ジョン・ウー監督のハトみたいな(笑)。

世武 次作でも“ロブスター待ち”しちゃうくらいの(笑)。

小出 しかも単なるアイテムじゃなくて、監督の世界観の中のシンボルというか。ちゃんと意味を持たせてるよね。『ロブスター』って映画は近未来の話で、その世界では自分の配偶者を見つけだせなかった人間は、動物に転生させられちゃうっていう……いま自分で説明してて意味がわかんないんだけど(笑)。

で、主人公は配偶者を見つけられなかったら、ロブスターになるって言って、ロブスターがどういう生き物なのか説明するくだりがあるんだよね。ロブスターは寿命がすごく長い。100年以上生きられて、貴族みたいに由緒がある生き物なんだって。

ちなみに、その話を主人公から聞くのも、オリヴィア・コールマンだったりするんだけど。それを受けて『女王陛下』を観ると、英国のロイヤルな宮廷劇で、皇族の話の中でロブスター遊びが出てくる。自分ネタなのかもしれないね。

あと画作りとしては、歩いてる人物を後ろから移動撮影で追っかけるショットがよく出てくるんだけど、今回はなんといっても魚眼レンズを使った撮影がすごく印象的だった。

世武 頻度的なバランスも良いし、ものすごく効果的だったよね。普通、歴史もので魚眼って使わないと思う。でもこれはあえて使うことで、めっちゃ現代の話を観てるみたいな気持ちになった。

小出 そのミスマッチさがいちいち面白い。クラシカルな宮廷劇だったら、絶対あんな撮り方はしないよね。画が俗っぽくなってしまうから。でも宮廷劇こそ、露骨で下世話な欲望まみれの貶め合いだったりするわけで。格式高いシチュエーションを、あえて魚眼で撮ることで、とてもシニカルな視点が生まれてると思う。あと、この監督お決まりの性描写も良かった(笑)。

世武 いや、この人、ほんと好きだよね。

小出 クンニリングスと手コキがめっちゃ出てくる。『女王陛下』に関しては、クンニきっかけで本格的に話が転がり始めるからね。

世武 ちょっと大丈夫? って思うくらい(笑)。そこのフォーカスすごいよね。私、それに関しては「ちょっとまた?」って思っちゃった。

──いわゆるセックスシーンも多いんだけど、小技の描写がすごい(笑)。

世武 たぶんそっちのほうに取り憑かれている人なんだと思う。

小出 『鹿殺し』ではニコール・キッドマンに手コキさせ、『女王陛下』ではエマ・ストーンに手コキさせ。

世武 『ロブスター』だって初めのほうからしてんじゃん。

小出 『ロブスター』は尻コキですね(笑)。

世武 バカだねー(笑)。それと“動物”ね。毎回、人間と動物の関わりをすっごい変な形で出してくる。あとそんなに孤独かっていうぐらい孤独な感じ。その三大要素には異常に取り憑かれていると思う。

TEXT BY 森 直人(映画評論家/ライター)

観賞を終え、感想会会場(喫茶店)へ向かうふたり。小出部長と世武さんのふたりで観賞するというのは、連載始まって以来初でした。

本作の音楽面についても話が止まらない
[後編](2019.03.04配信予定)へつづく

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