桑田佳祐とAct Against AIDSの歩みで再確認した“音楽で勝負する”ことのカッコ良さ

エイズについてひとりでも多くの人に関心を持ってもらうこと、正しい知識を持ってもらうことを目的としたエイズ啓発運動、Act Against AIDS=AAA。桑田佳祐はAAAの活動がスタートした1993年から約25年もの間、啓発運動に関わってきたが、2020年7月末にAAAの活動終了がすることを受け、この“ひとり紅白歌合戦”も終わりを迎えることとなった。そもそも、どうしてAAAの活動で“ひとり紅白歌合戦”なのか? 僕はその理由がずっとわからずにいた。ライブを観て、自分なりの解釈を見つけることができたらと『桑田佳祐 Act Against AIDS 2018「平成三十年度! 第三回ひとり紅白歌合戦」』の最終公演へと向かう。

【ライブオトネタ】
桑田佳祐

桑田佳祐 Act Against AIDS 2018「平成三十年度! 第三回ひとり紅白歌合戦」
2018年12月2日@パシフィコ横浜 国立大ホール

開演時間になり、スクリーンには総合司会“内村照代”に扮した桑田が登場。昭和23年に発表された岡 晴夫の「憧れのハワイ航路」から、序盤は江利チエミの「テネシー・ワルツ」、坂本 九の「涙くんさよなら」など、戦後歌謡を立て続けに披露。続く、フォーク&ニューミュージック対決では「今年、大きな地震があった北海道。皆さんへ歌でエール!」とナレーションが流れて、松山千春の「大空と大地の中で」や加藤登紀子の「知床旅情」を歌い災害地へエールを届けた。

中盤に突入すると、薬師丸ひろ子の「セーラー服と機関銃」、いしだあゆみの「あなたならどうする」、山口百恵の「プレイバックpart2」など、女性アーティストの曲が多く披露されたが、特に印象的だったのが沢田知可子の「会いたい」だった。スポットライトが桑田ひとりを照らす中、優しくハスキーな声でバラードを熱唱。大きなホールで何人もの、すすり泣く声も聴こえるほどだった。

ここで特別枠コーナーへ。桑田の「8時だョ!全員集合」のかけ声と共にスペシャルゲストのサザンオールスターズが登場。結成40周年を迎えた5人が揃ってSMAPの「世界に一つだけの花」、ザ・ドリフターズの「いい湯だな」を歌うと、観客全員が立ち上がり一緒に熱唱。曲に聴き入りライブを楽しむ姿から、気づけば観客も共にライブを生み出す一員となっていた。

“平成生まれの曲対決”になると、「本当に難しいんですよ……」の前置きから中島美嘉の「雪の華」を歌い上げ、壮大な冬景色を表現し、浦島太郎(桐谷健太)の「海の声」では対照的に沖縄の夏景色を彷彿とさせる。

ここまで、ほとんど休憩を挟まずに歌い続ける桑田。改めて40年間も日本音楽界の第一線を走り続ける男の風格をまざまざと見せつけられた。48曲目でカミラ・カベロのヒット曲「Havana」を歌うと、フレーズを替えて“真剣に もっと大切に愛し合い パートナーを大切に”“性はもっと豊かなもので思いやりの気持ちを持って互いの命を守ろうよ、それが愛というものなんだ”と啓発のメッセージを訴え、本編が終了。

桑田が「ありがとう!」とステージを去った後、会場には不思議な余韻が漂っていた。“それが愛というものなんだ”この言葉が脳内をぐるぐるとループしている。そして、場内に桑田のナレーションが流れてきた。

「流行歌。ヒット曲。大衆はいつの世もそれを求めている、と私は思っていた。しかし、近年は何かが違う。“歌は世につれ世は歌につれ”と言うが、世はあまり歌につれなくなったのだ。本来、大衆とは欲望を露わにし、非常識というものをエサに逞しく生きながらえようとする生き物であり、怪物である。流行歌とは、ヒット曲とは、それを証明する魂の雄たけびであり、非常識や夢物語を声に出すための道具であった。弱さ・醜さ・ズルさ……それら人間の業を肯定するものが流行歌なのだとしたら、私たち大衆音楽作家はここ数年一体なにをやってきたのだろう。Act Against AIDSのテーマも、その根幹には人間の弱さをどう乗り越えていくかという課題があったように思う。AAA(Act Against AIDS)の活動自体は2020年に終焉を迎えるが、世の中にはその他にも様々な問題が山積みとなっている。流行歌。ヒット曲。大衆と、ほどよくがっぷり四つに組み、あらたな音楽を作り続けていくことを、私は辞めないだろう。そして、そうした問題にこれからも向き合っていこうと思う」

そんなメッセージの後にアンコールへ。54曲目は世界に誇る日本の歌姫・美空ひばりの「愛燦燦」。曲が流れ出すと本家『紅白歌合戦』に匹敵する壮大な衣装に身を包み登場。歌声・演出とともに神々しいステージだった。桑田の歌声だからこそ、絶対的な説得力を放っていたと思う。

これで終焉かと思いきや、大きな足音が場内に響き渡る。ジャンボ猪木、ジャンボ裕也、そして男と女を超越した存在・和田アキ男がステージ後方から現れた。そんなカオスな状況の中、最後に和田アキ子の「古い日記」を歌った。5,000人もの観客がスダンディングオベーションする中、最後にサザンオールスターズのメンバーが舞台上に再度登場し、原由子が桑田に向かって「AAA、25年間お疲れ様でした」と花束を渡して活動を讃えた。

この日、我々は昭和20年代から平成の今日に至るまでの日本歌謡を桑田の歌声とともに振り返ってきた。いつの時代も音楽が人の業を肯定し、認めてきた。エイズも同じく、その問題を避けるのではなく向き合っていくのが重要ではないかと思う。MCでエイズについて多くを語らなかったのは、AAAの活動をアーティストとしての伝達方法で訴えたいという意思が込められていたように思う。最後まで自分の歌声のみで勝負した桑田佳祐は本当にカッコ良かった。

TEXT BY 真貝 聡
PHOTO BY 西槇太一

SETLIST

01.(白)憧れのハワイ航路 / 岡晴夫
02.(紅)テネシー・ワルツ / 江利チエミ
03.(紅)学生時代 / ペギー葉山
04.(白)涙くんさよなら / 坂本九
05.(白)あの時君は若かった / ザ・スパイダース
06.(紅)雲にのりたい / 黛じゅん
07.(白)想い出の渚 / ザ・ワイルド・ワンズ
08.(紅)さすらいのギター / 小山ルミ
09.(白)純愛 / ザ・テンプターズ
10.(紅)雨に濡れた慕情 / ちあきなおみ
11.(白)愛する君に / ザ・ゴールデン・カップス
12.(紅)人形の家 / 弘田三枝子
13.(白)大空と大地の中で / 松山千春
14.(紅)知床旅情 / 加藤登紀子
15.(白)ふれあい / 中村雅俊
16.(紅)翼をください / 山本潤子
17.(白)落陽 / 吉田拓郎
18.(白)夢の中へ / 井上陽水
19.(紅)なのにあなたは京都へゆくの / チェリッシュ
20.(紅)地上の星 / 中島みゆき
21.(白)世界の国からこんにちは / 三波春夫
22.(紅)三百六十五歩のマーチ / 水前寺清子
23.(白)時の過ぎゆくままに / 沢田研二
24.(紅)まちぶせ / 石川ひとみ
25.(白)ある日渚に / 加山雄三
26.(紅)セーラー服と機関銃 / 薬師丸ひろ子
27.(白)桜坂 / 福山雅治
28.(紅)異邦人 / 久保田早紀
29.(白)夢芝居 / 梅沢富美男
30.(紅)愛の水中花 / 松坂慶子
31.(白)北国の春 / 千昌夫
32.(紅)あなたならどうする / いしだあゆみ
33.(白)中の島ブルース / ヅラ山田洋とクール・ファイブ  ※原曲「中の島ブルース / 内山田洋とクール・ファイブ」
34.(紅 プレイバックpart2 / 山口百恵
35.(紅)会いたい / 沢田知可子
36.(白)さよならをもう一度 / 尾崎紀世彦
37.(特別枠)世界に一つだけの花 / SMAP
38.(特別枠)いい湯だな / ザ・ドリフターズ
39.(紅)雪の華 / 中島美嘉
40.(白)海の声 / 浦島太郎(桐谷健太)
41.(紅)ハナミズキ / 一青窈
42.(白)どんなときも。 / 槇原敬之
43.(白)君に、胸キュン。 / YELLOW MAGIC ORCHESTRA
44.(紅)赤道小町ドキッ / 山下久美子
45.(紅)真夏の夜の夢 ~ ひこうき雲 / 松任谷由実 ~ 荒井由実
46.(白)YOUNG MAN(Y.M.C.A) / 西城秀樹
47.(白)100万年の幸せ!! / 桑田佳祐
48.(紅)Havana(ダメなバナナ) / 神良壁郎 ※原曲「Havana / カミラ・カベロ」
49.(白)熱き心に / 小林旭
50.(紅)つぐない / テレサ・テン
51.(紅)伊勢佐木町ブルース / 青江三奈
52.(白)雪が降る / アダモ
53.(白)与作 / 北島三郎
54.(紅)愛燦燦 / 美空ひばり
55.(特別枠) 古い日記 / 和田アキ男 ※原曲「古い日記 / 和田アキ子」


リリース情報

■桑田佳祐 & The Pin Boys
2019.01.01 ON SALE
SINGLE「レッツゴーボウリング」

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