映画『来る』はなんでこうなっちゃった……。原作を敬愛していたアーティストが2回観てからのガチ感想

邦ロック界で一二を争う映画論客とも言われるBase Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。

本連載史上最大の物議を醸した『渇き。』から4年。中島哲也監督最新作『来る』に、今やホラー映画通としても知られるようになった小出部長が挑むことになったが……。

みんなの映画部 活動第49回[前編]
『来る』
参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、オカモトレイジ(OKAMOTO’S)


残念ではあった。良いと思ってる点も結構ある

──『みんなの映画部』第49回、2018年の締めは『来る』でございます。小出部長は2回目の観賞、レイジくんは初見ということになります。まずは部長、恒例のひと言からどうぞ!

小出 中島哲也監督作品。っていう感じでした……。

──中島監督に関しては前作『渇き。』の際、映画部史上に残るメンバーのいろいろなご意見が出た伝説の回がありまして、リンクを貼っておきます(活動第4回)。

小出 それを読んでいただくとして。

レイジ 『渇き。』って何年前でしたっけ?

小出 2014年の映画だから、4年前だね。まず原作について話しますと、澤村伊智さんの『ぼぎわんが、来る』(角川ホラー文庫)っていう小説(持参した本を見せて)。

これ僕、初版で買ってるんですけれども。澤村さんのデビュー作なんですけど、2015年に日本ホラー小説大賞を受賞した作品。審査員の綾辻行人さん、貴志祐介さん、宮部みゆきさんがみんな絶賛して、ぶっちぎりで大賞を獲った。前評判に「次の『リング』が出た!」みたいな声もあったので、本が出るのを楽しみにしてたんですよ。で、読んでみたら実際すごい面白くて。

ちょうどその頃、自分がやってる番組で白石晃士監督と初めて会ったんですね。放送終わりで『ぼぎわんが、来る』っていう傑作ホラー小説があるんですけど、きっと映画化の話が持ち上がるだろうから、僕は白石さんに撮ってほしいです、撮るべきですよ! みたいなことを話していたりして。

レイジ となると、白石監督の手に回らなかった時点で……。

小出 いや、これはまあ僕の白石さんへの勝手な思い入れなんだけどね。やっぱり残念ではあった。でもこの中島哲也監督作も、良いと思ってる点は結構あるんです。

まず、キャラクター造形はすごく良かったです。原作ファン的としても「なるほど」と思えました。

原作の『ぼぎわんが、来る』は「比嘉姉妹シリーズ」っていう連作に展開していくんですけど、映画にも出てきた比嘉琴子・真琴という霊能力者の姉妹に加えて、原作シリーズの2作目『ずうのめ人形』ではもうひとり、琴子の妹で真琴の姉にあたる美晴が出てくる。でも、美晴はある事件ですでに命を落としているんですよ。

レイジ へえ、3姉妹だったんですね。

小出 ……と、思ったら3姉妹に加えてもっと兄弟がいて、全部で確か7人かな。彼らは霊能家系ではあるんだけど、そのなかで琴子が爆裂に強い霊能力を持っていて、早くから「仕事」を始めていた。それがきっかけで家族が不幸になっちゃってるんですよ。

というのも、家族が彼女に追従する形で商売を始めて、仕事中に命を落としたり、妹ふたりは彼女への憧れや嫉妬を抱いたりするようになる。

妹の真琴は独学で厳しい修行をして、どうにか相応の霊能力をつけたんだけど、やっぱり琴子の天才性には到底及ばないわけ。桁が違う。ドラゴンボールで言うと、悟空と天津飯ぐらいの違い。

──天津飯もそこそこ強いけど、所詮スーパーサイヤ人にはかなわないという。

小出 そう、人間ではいちばん強いけど。

レイジ ヤムチャとかね。

小出 ヤムチャよりは天津飯のほうが強いかな(笑)。真琴はナメック星人のピッコロでもいいかもしれない。それくらい真琴も人間離れした能力を持っているけど、やっぱり超えられない壁がある。

それは琴子と真琴の関係性にも影響していて、真琴は琴子に対して尊敬の気持ちもあるし、同時に畏怖の念もあって。

この姉妹は何年も連絡を取ってなかったんだけど、第1作目の『ぼぎわんが、来る』の時に久々にお姉ちゃんに再会するっていうのが物語上の時系列。

レイジ なるほど。

小出 それでね、映画版で小松奈菜さんが演じた真琴はもうばっちりで、小説読んでて思い浮かべる姿そのまんまっていう感じ。

一方で、松たか子さんが演じた琴子は原作からアレンジされてるのね。年齢も違うし、ポニーテールで地味な格好して黒手袋をしてるみたいなキャラクターだから。ただ松たか子さんのパンチある感じ、「すげぇ強そう」っていう迫力があったんで、全然アリだなと。

レイジ 「只者じゃない」感は一発で伝わってきますよね。

小出 あとタレント霊媒師・逢坂セツ子役の柴田理恵さんもすごい良かった。逢坂セツ子は原作だとすぐ死ぬんですよ。それを映画では生かしといて、最後決戦まで連れて行くのもよかったと思うし。

レイジ たしかに役者さんはみんな良い演技をしてますよね。

 

ミステリーの面白さ、ホラーの快楽を大切にしてほしかった

小出 とにかくキャラクター造形は全般的に良かった。あと脚色ですよね。終盤の印象的な公園での「お祓いフェス」。あれは原作に一切出てきません。

レイジ そうなんですか?

小出 一切ない。完全に映画オリジナル。でもすごく良いアイデアですよね。非常にスクリーンで映える展開だなと。いい脚色。映像化する際にどうするかっていう判断や改変がよく考え抜かれている。よく考えられているなと。共同脚本には劇作家・俳優の岩井秀人さんが入ってるんですよね。

役者としては『桐島、部活やめるってよ』(2012年/監督:吉田大八)で顧問の先生役をやってらした方で。たぶん岩井さんの功績は大きいんじゃないかなと。

──こう聞いていくと、だいぶ絶賛してる感じだけど。

小出 いや、それが……映画を観終わった時の僕の気持ちというのは、率直に言うとかなり落ち込んでました。良いと思える面もたくさんあったから、余計悲しい感じでしたね。つまり、もっとやれただろうと。

原作『ぼぎわんが、来る』って、ホラーでありながらもミステリー小説していて、さらにエンタメしてるんです。だから、読んでてすっごく楽しいんですよ。民俗学ミステリーな謎解きパートも最高で、「ぼぎわん」っていう言葉は何が語源なのかって言ったら、実は海外から伝わってきたものでね。

レイジ もしかして……ブギーマン?

小出 正解。海外でいうところの「おばけ」である、ブギーマンっていう言葉が宣教師によって伝えられて、それが訛ってぼぎわん。名前のない化け物だったんだけど、それに名前をぼぎわんってつけた。で、ぼぎわんが発生したその村では口減らしがかつてあって。

レイジ 口減らしってなんですか?

小出 いわゆる姥捨て山だよね。貧しくてお年寄りを食べさせられなくなって、山に置いてくる。残酷だけど、その村の場合は、ぼぎわんと共存関係にあって、口減らしのために子供や老人を山に持っていく代わりにぼぎわんも村を襲わない。そんな、ぼぎわんが現代に、なぜ襲って「来る」のか? っていう謎があるわけ。

レイジ なんか恐ろしくてワクワクする部分もありますね。

小出 もちろん原作至上主義みたいなことを言っちゃうとキリないんだけど、映画版もミステリーとしての面白さ、あるいはホラーとしての快楽をもっと大切にしてほしかった。原作みたいにハンパないエンタメに仕上げてほしかった。

いろんなものに満遍なく手を付けましたっていう印象にまとまっていたんで、映画が終わったあと「結局、何の話だったの?」って途方に暮れる人はきっと多いんじゃないかな。

TEXT BY 森 直人(映画評論家/ライター)

感想会会場に向かうふたり。足取りはいつもより重い……。

 


お知らせ

我が『みんなの映画部』メンバーであるハマ・オカモトがMCを務めるJ-WAVEの年越しスペシャル番組のなかで「みんなの映画部[ラジオ版]」を放送予定。小出祐介、福岡晃子、世武裕子、ハマ・オカモト、オカモトレイジの全部員が集合して、2018年の映画部活動を総決算します。

『J-WAVE YEAR END & NEW YEAR SPECIAL TIME FOR MUSIC』
12/31(月)23:00~27:00

詳細はこちら

[後編]に続く

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