バラバラに来る音を生でいじる喜び。サウンドクリエイター・新野 実【舞台の袖から】

ステージの“袖”で活躍する人々のドキュメンタリー『舞台の袖から』。第3弾は、サウンドクリエイター・新野 実。高校時代から、何十年にもわたりステージを見つめ続けても、いまだに「緊張感がある」と語る新野の仕事論とは?

初めてライブを観に行った時、舞台の上の大好きなアーティストが大好きな曲を演奏していた。このフェンスの向こう側へ行きたい。そう思った瞬間、客席とは別の場所から舞台を見る人の存在に気づいた。これは、客席からではなく、袖から舞台を見つめる者たちの物語。


【舞台の袖から】
サウンドクリエイター 新野 実

歌舞伎の鳴物演奏者の父を持ち、6歳にして舞台デビュー。

洋楽に目覚めたことをきっかけに、高校時代からライブハウスのテクニカルのアルバイトを始める。

東放学園音響専門学校卒業後は音響会社へ入社。現在はバンド・IMOCD!やMONORALのサウンドクリエーター、Culture of AsiaのPAエンジニア/オペレーター、スタジオ運営など、幅広く音楽業界に精通している。

 

父親は歌舞伎の鳴物の演奏者。自然と近くに音楽があった

育ちは埼玉の川口なんですけど、何もないところなんですよね。近くにあるといえばオートレース、競艇、競輪。だから、やることもないし全部回るんですね。お客さんの子供のフリして入ってみたりとかして(笑)。

まあ、地域的には相当ヤバかったですからね。どこから来たのかわからない外国の人とかもいっぱいいたし。多感な時期になってやることといえば、暴走族も全盛期だったし、バイク、車、バンドくらいでしたね。早い人はコンピューターとかやっている人もいたけど、やっぱりその3つでした。

僕は普通の4人家族だったんですけど、ちょっと変わっていたのは親父が笛吹きなんですよ。長唄とか歌舞伎のバックで演奏するミュージシャン。だから、ベイビーミュージックも笛だったし、調子に合わせてちょっと踊ってみたり、とにかく明るい人だったんだけど、少し変わってましたよね。

その影響を自覚する部分もあって、音楽は幼い頃からもちろん近くにあったし、親父の“人を楽しませるのが好き”っていう感覚は受け継いでるのかなって思います。

 

映画『小さな恋のメロディ』に衝撃を受けて洋楽へ

子供の頃は、父親のやっている邦楽が苦手だったんですよ。無理矢理やらされていたんで(笑)。笛とか嫌でしたね、鳴らないし、鳴らないと怒られるから。

で、太鼓をやったんですよね、太鼓なら叩けば鳴るから(笑)。そしたら「おまえ、できるじゃねぇか」とか言われて、6歳くらいの時に三井劇場で初舞台踏んだりしましたけどね。やっぱり好きになれなくて。

当時1970年代は小学校低学年で、普通に歌謡曲とかも聴いてましたけど、衝撃を受けたのは映画『小さな恋のメロディ』なんです。同じくらいの年齢の子が主人公だってこともあったんですけど、バックで流れる音楽に心奪われちゃったんですよね。

ヒットした曲といえばビージーズでしたけど、もうサントラのメランコリックな世界観にドバーンとやられちゃって。そこからはひたすら洋楽を漁る日々です。

中学でバンドを始めた頃、同年代だとキャロルとかツイストなんかから始める人が多かったかな。あとはKISS、チープ・トリック。ちょっとうまい人なんかだと、ディープ・パープルやるみたいな感じで。

僕もそれなりに、矢沢永吉の『成り上がり』なんか読んで感化される部分もありましたよ。男の生き様として(笑)。上京してバンド組むみたいなところとか。で、矢沢永吉をちゃんと聴くと「あ、やっぱりビートルズのポールとかジョンが好きなんだな」って思ったり。

 

好きな事がリンクして、それが必然になった

高校ぐらいの時ですよね。バンドを続けていくと、まわりにすごいやつがいっぱい出てきて「あ、これは適わないな」ってなってくるんですよ。

そして、時を同じくして、進路のことを考えなくちゃならないって時に、どうしても音楽ってことになるんですよ。全部リンクしてるんです。

バンドもやってたけど、オーディオも好きだったし。いつもデカい音で好きな音楽を聴きたいって思って、ヘッドフォンでボリューム上げても、何か違う。だから今度はスピーカーを耳元に持ってきて……みたいなことをやってたら、必然的にこの道に来るしかないという感じで。

僕は専門学校に行くことを選んだけど、飛び込みの叩き上げでやっていく人もいる。ただ順番はどうあれ、ベーシックな部分っていうのはどうしても通らなくちゃならないと思いますよ。でも、その世界に飛び込む入り口っていうのはいくつもあると思います。やりたいって気持ちがあるなら、まず飛び込んで、見て盗んでほしいですね。

自分は専門学校入る前の、高校生くらいの頃からバイトとしてこの世界に入って、最初はとにかく掃除ですよね(笑)。モニターマンのそばにべったりくっついて、「何やってるんだろう? こうやるのか」みたいな感じで。実際現場を見て体験して、俺バンドも好きだし、これは良い仕事だと思いましたね。

 

根拠のない自信は意外な展開で気づきへと変わった

専門学校行きつつライブハウスで現場を踏みながら、実際は掃除したり、ドリンクやったりって日々が続くなかで、当時生意気だったんで「俺はできるのに」って思っていろいろ言ってたんです。

でも、実際はそう簡単にやらせてもらえないんですよ。で、1回チャンス貰った時に失敗して、「お前音出てないじゃねぇか」と。

それでも当時19歳。とにかく生意気だったんで、上の人に「ちょっと現場について来い」って言われて、行ったら郷ひろみさんの現場なんですよ。強面の大人がズラーと並んでいるなかで「お前この中でもできるか?」って言われて。「イケますイケます、なんなら全部ぶっ飛ばします」なんて言ってイキがってたら、「よしわかった」って言われて、なぜかいきなり解体屋の仕事にぶっ込まれるんですよ(笑)。仕事見て全部盗んでこいと。

それでも生意気だったんで言われたとおりにやって(笑)。訳ありの人たちと不法就労の外国人に囲まれて、作業着着て水撒きながら「なんでこんなことやってるんだろう?」って思いながらも、作業手順とかその仕事の関係性を全部盗みましたよ。

そして、いろんなこと教わりました。特に不法就労の外国人の人から教わったことは忘れられないですね。ただでさえ勝手によその国に来て働いてるって、不思議じゃないですか? だから聞いたんです。「どうやってここまで来たの?」ってストレートに。

そしたら教えてくれましたよ。「スマイルだ」って。笑ってりゃなんとかなるんだって(笑)。すごいでしょ? でも間違いなく正解だなって今でも思いますよ。

解体屋の仕事を通して、いろんな学びがあったし合点がいきました。生意気っていうか、甘ったれてたんだなと。

そこからは大概のことが平気になりましたね。同じ位の世代のやつらが次々と辞めていくなかで、郷ひろみさんの現場もこなして、「お前なら大丈夫だ」って言われて。

次に連れてかれたのが、一世風靡セピアの現場で。そこではステージマンをまかされました。うるさがたが多いなかで、「お前ならやれるだろう」と。もちろん「大丈夫です、やれます!」って言って、ファイナルツアーを全部仕切りました(笑)。

 

その都度、真摯に受け止めてやるということ

PA卓にひとりで座るっていうのは、ちょこちょこ音楽以外の仕事なんかではこなしてたんですよ。例えばイベントの仕事とか。8chくらいのミキサーで。あとは結婚式場の音出しとかに自ら志願していって、その緊張感を体験したり。ベーシックな物をむさぼるようにこなしてました。必要だと思ったし、良い経験をたくさんできたなって思います。

例えば、こういうたくさんのツマミをいじってオペレートするってことは、覚えればできるじゃないですか? でも、学ぶことはもっと別にあるような気がして。

初めてひとりでバンドをオペレートしたのは、大宮のフリークスってライブハウスで。アマチュアバンドでしたけど。その時は自分からやりたいっていうより、周りから「やりなよ」っていうウェルカムな感じだったんで、真摯に受け止めてやりましたね。

ライブを楽しみに来ているお客さんとか、これでバンドが解散するっていうライブだとか、いろいろあるじゃないですか。今でもそうです。真摯に。

 

認めてもらえたうれしさ。若いバンドに食らった衝撃

この仕事をしていて幸せだなって思うことはたくさんありますよ。そうじゃなくたって、基本毎日好きな音楽をデカい音で聴いていたくて、それをできる環境を独占できるなんて感謝しかないですよね。

それが今も続いてますけど、いちばんうれしかったのは、28歳くらいの時ですね。ニューオリンズのJAZZフェスの仕事をしている時に、小さなブースで実験的なことをやってたら、そこにピーター・ガブリエルがフラッと現れて、「君、最高だね」って言われたんです。自分の作った音を認めてもらえて、こういうシステムで音を作ってるんだって説明して、もう死んでもいいって思いましたね。

あとは、ケーシー・ランキンさん(SHOGUN)に言われたことかな。「こんな音聴いたことないよ、やり続けろ」って言われたことがうれしかった。チャレンジしてた人じゃないですか?

坂本 九の「スキヤキ」から始まって、SHOGUNも矢沢永吉も、近いところならCROSSFAITH、coldrain、今関わっているIMOCD!も。すごく刺激受けますよ。

CROSSFAITHなんかは当時18歳とかかな? スタッフの子から噂は聞いてたんですけど、学校があるからリハ無し(笑)。簡単なサウンドチェックだけだったのに、キック一発にしてもシーケンスにしても、出る音が全然違うんですよ。何コレ何コレって感じで、そんで本番始まったらドーンって感じで。18歳でこの音? みたいな。僕はあの日の衝撃忘れられないです。

いろんな音響屋さんがいるなかで、僕はいろいろやりたがりなんです。だから完成されたバンドを、そのまま聴かせるのは不得手というか。そのまま音出せばいいから。

でも、下手なバンドを上手く聴かせるのは得意だし、好きなんです。一緒にいろんな工夫ができるから。経験を積んで、これからいくぞってバンドとばかり仕事をしてるからかもしれないですけどね。だから一緒にやってきたバンドが、完成してドーンとブレイクしたときには「他の人にお願いします」って言う。もう普通に音出せばいいからって(笑)。

 

この業界を目指す若者へ

今や教える立場になって、これからこの仕事を目指してやろうとしてる若い人がいるなら、いろんなタイプの音響屋があるし、自分に合ったところを選べばいいと思うけど、迷ってるならまず飛び込んでほしいですね。

今こCulture of Asiaにしてもつねにテクニカルの募集はしてるし、まずは3年。いろんな理不尽なこともあると思うんですよ、それはやっぱり人との対話、コミュニケーションだからね。そこを超えたところで何かあると思うんです。だってそれは愛だから。

厳しいことも言うし、ある時なんかは厳しく言ったことをSNSでつぶやかれて(笑)。会社的にちょっと問題になったこともありましたけど、続けていればみんないつかはそれぞれの道に巣立っていくわけですよ。

で、ある時後輩にちょっと飲みませんか? って誘われて行ったら、サプライズで、巣立っていった子たちがたくさん集まってくれていたんです。音響から映像の道にシフトチェンジした子とかもいたりして。それでも繋がってるって思ったら、なんか感極まっちゃって、恥ずかしくなって、気持ち悪くなっちゃって、「俺、帰る」って帰っちゃいました(笑)。

その後集まってくれた子たちから手紙が送られてきたんですけど、みんなに同じこと言ってたんですよね。それをひと回りして改めて教えてもらったというか。うれしかったですね。ちゃんとやんなきゃなって思いました。

まあ、ちゃんとするって言っても、僕なんかはちゃんとしたくないからこういう仕事を選んだわけで(笑)。カッコつけちゃいましたけど。その場で来た音を良くするってことだけだから。だって音が出るまでわかんないんだもん(笑)。

現場は毎回違うし、緊張感もある。でも“最高の仕事”

僕にとってこの仕事はホント最高です。音を生でいじれるんですよ。いろんな音がバラバラに来るのを「え〜、何コレ〜、信じられないなぁ」とか言いながらニヤニヤしちゃうっていうね(笑)。

当たり前だけど、毎回違うし、緊張感があるんですよ。なけなしのお金を払って来てくれている人に、どういう気持ちで帰ってもらえるかな? とか。同じ空間でそれを共有できるっていうのも含めてね。

あなたもCulure of Asiaで一緒にやりませんか? なんか宣伝ぽくなっちゃったけど(笑)。


番組情報

舞台の袖から#3 新野 実

[OA日時]

12/03(月)27:00
12/04(火)10:00/21:00
12/05(水)10:45/22:45
12/06(木)13:00/24:30
12/07(金)15:30/22:15
12/08(土)17:00/28:15
12/09(日)19:00/25:45

12/10(月)14:30/21:15
12/11(火)22:00
12/12(水)10:15/23:15
12/13(木)13:00/24:30
12/14(金)13:30/27:00
12/15(土)17:00/28:15
12/16(日)19:00

12/17(月)24:30
12/18(火)14:30/21:15
12/19(水)15:30/22:30
12/20(木)10:00/17:15
12/21(金)13:15/27:00
12/22(土)17:45/25:15
12/23(日)23:30/29:15

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※dTVチャンネル(TM)内『iBEYA』にて配信中。
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