邦ロック界で一二を争う映画論客とも言われるBase Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。
音楽映画に対して人一倍敏感に反応するアーティストたちが、『ボヘミアン・ラプソディ』を観たら……。予想以上に楽しんだようで、テンション高めに感想会がスタート。
みんなの映画部 活動第48回[前編]
『ボヘミアン・ラプソディ』
参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、福岡晃子、ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)、オカモトレイジ(OKAMOTO’S)
クイーンを通ってきた人も、そうでない人も
──『みんなの映画部』第48回は、伝説のロックバンド、クイーンの軌跡を描いた話題作『ボヘミアン・ラプソディ』でございます。まずは小出部長、ひと言よろしくお願いします。
小出 文句なしで素晴らしかったと思います。
全員 (拍手)
ハマ 素晴らしかったです。
福岡 泣いちゃった。
レイジ バンド映画として最高ですよね。実は俺、クイーンをまったく通ってきてないんですよ。そのぶん先入観なしで観られたのですが、不自然なところが一切なかった。
小出 世の中の音楽絡みの映画には、最後がライブシーンで終わる作品ってたくさんあるじゃないですか。そのすべての中でいちばん良いじゃないかとすら思いました。これ以上の説得力ってたぶんないと思うから。
本物の音声を使いつつ、完璧に時代考証されたライブ映像のステージセットと、それに至る前フリとしての物語も、ずっと素晴らしかった。
ハマ クライマックスにやってくる『ライヴ・エイド』(1985年7月31日に催されたチャリティコンサート。20世紀最大規模の音楽フェスと言われる)の再現が本当にすごくて、本当にびっくりしました。
──完コピに近かった。皆さん『ライヴ・エイド』はリアルタイム世代ではないですよね。実際の映像って観てます?
小出 & ハマ 観てます。
福岡 & レイジ 観てない。
小出 『ライヴ・エイド』はアフリカの飢餓を救うためにってことで開かれたイベントであることは劇中でも言ってたけど、アメリカとイギリスの同時開催で、クイーンが出てるのはイギリス側。
ちなみにフィル・コリンズは同日に両方出てるんだよね。昼にイギリスのステージに出て、夜はアメリカに出てる。
ハマ 国を越えてのステージまたぎ。
──コンコルドですぐ移動したっていう有名な逸話ですね。
福岡 すごい。
小出 夕方にフィラデルフィアの会場に着いて、エリック・クラプトンの後ろでドラム叩いてるとか。いろんな小ネタの宝庫のイベントですね。
で、この日のイギリス側のライブのベストアクトは、まさにクイーンだったって言われてるんだよ。ただいちばん歓声浴びてたのは、ワム!のジョージ・マイケルだったっていう(笑)。
ハマ そりゃもうワム!の全盛期ですから。
小出 そう、いちばんキテる時だから。クイーンが夕方のライブで、日が暮れてからエルトン・ジョンのライブで、そこにワム!が飛び入りするんだけど、その時の歓声がいちばんすごかったっていう。
──ナマで観てきた人みたいだね。
ハマ あははは。「俺、いたんだけど」というテンションですよね。
福岡 『ライヴ・エイド』のクイーンは何年ぶりのライブ演奏だったんだろ?
小出 劇中だと一回バンドが活動休止状態になって、すごい時間空いてるみたいな感じだったけど、実際はそこまで空いてないはずなんだよね。
福岡 そうなんだ。1~2年とか?
小出 たぶんそんなもんじゃないかな。
──1984年にアルバム(レディー・ガガの名前の由来として知られる名曲「レディオ・ガ・ガ」が収録されている『ザ・ワークス』)も出してますしね。構成としてはドラマチックに盛っている部分もあるかも。
ハマ 史実からすると、逆に結構はしょってる部分もありますよね。
小出 そういう再構成の巧みさも含めて、すごい映画的だよね。『ライヴ・エイド』のクイーンの後ろから捉えた、フレディ・マーキュリー越しの客席の画って、たぶん20世紀のロックのいろんな名シーンのなかで最も有名な一枚ってくらいのインパクトじゃないですか。
ロックがいちばん沸騰していた時代を象徴する画だと思う。その瞬間を映画全体の核になるイメージに持ってきている。
ハマ 最後の撮り方もすごかったです。あれ、ものすごく良かった。
小出 空撮からアップまでワンカットで行くっていう。
ハマ 中継スタッフの散らばりも超リアルでしたよね。しかもこの映画、『ライヴ・エイド』のシーンから撮影を始めたらしいです。初日にここまでに仕上げたおして、バンドの軌跡はあとから撮ったという。
レイジ えっ、これが撮影初日なの? それでこの完成度は、本当にハンパないですね。
今まで観た映画の中でも、バンド感がすごい全面に出てる
福岡 ギターの人、ヤバい。
小出 マジでまんま。
福岡 本物に似すぎだよ。
小出 ブライアン・メイね。メンバーはみんな似てるんだけど、特に彼は怖いくらい。ありえないくらい似てる。
ハマ ヤバかったです。観ていてまったく違和感がないというか。骨格は違うはずなのに、髪型とメイクだけでは補えないレベルに本物そっくりでした。
──演じているのはグウィリム・リーという役者さんで、イギリスの舞台やテレビで活躍しているものの、まだ日本ではほとんど知られていない人です。
ハマ しかも年々どんどん似ていくってのもさらにすごかった。ベースのジョン・ディーコンとかも最高。
小出 役者はジョー・マッゼロって人。髪が短くなってからえらい似てるんだよね。
ハマ そうそう、短くなってからまさしくジョン・ディーコンだなと思いました。
小出 演奏する時の動きもマネしてたじゃん。ネックをすごい傾けて持つ感じとか。あれ、すごいよね~。
ハマ ミュージシャンの形のマネをするのって、同じミュージシャンとして言うとかなり無理な領域じゃないですか。そのへん、役者さんはすごいなと思います。ブライアン・メイなんかも弾いてる形がものすごく特殊ですし。
小出 コインで弾いてるから。
ハマ 6ペンス硬貨で弾いてるんですよね。ピックじゃない。
福岡 へえ、そうなんだ。
小出 彼が愛用しているのはレッド・スペシャルっていうギターなんだけど、これも相当特殊なギターで。ブライアン・メイが自分で作ったのよ。
ハマ 暖炉用の薪でね。
小出 そう。100年物の古い木を使ってね。あの人、理系のインテリだから配線とかも自分でできちゃう。それでエンジニアだったお父さんと一緒に作ったの。
そのレッド・スペシャルがいつ出るのかなと思ったら、もう最初の「スマイル」(アマチュア時代のクイーンの前身バンド)の時点で使ってたんかい! って。完全に変態だよ(笑)。
ハマ あれも事実なんでしょうね。ジョン・ディーコンも電子工学系の大学を出ているので、機械関係にすごく強い。ブライアンがよく使ってたオリジナルのアンプだったり、バンドの機材も自分で作っていたそうです。
福岡 かしこいバンドやな(笑)。
ハマ このふたりのおかげでクイーンはレコーディングやサウンド面の実験をいろいろと試みることができたと言われてますよね。
──その点、今回の映画だとやっぱりフレディ・マーキュリーにスポットがガツンと当たっていて、その他3人感は多少あったかな?
ハマ でも個人的には、予想していたより全然“4人”って感じがしました。
福岡 私も今まで観た映画の中でも、バンド感がすごい前面に出てるなって思った。
レイジ みんなキャラがそれぞれ立ってる。ちゃんとバンドの青春物語になっていたのが良かったですね。
福岡 ほんまに。
ハマ さっき少し話した“はしょってる部分”ということで言うと、意外と前半ポンポン話が進むなと思って。実際のところは1974年に「キラー・クイーン」のヒットが出るまでの初期は、結構大変だったようなんです。
本で読んだぐらいの知識ですが、『戦慄の王女』っていうデビューアルバムを録音してからレコード会社のせいで1年くらいリリースが遅れて、いざ発売したら「古い」とメディアに叩かれて。
小出 1年前にちゃんと出てたら、わりとトレンディな作品なはずだったんだけどね。でも、だんだん時代とのタイミングが合ってくる。
ハマ 「キラー・クイーン」が入ってる『シアー・ハート・アタック』は3枚目のアルバム。
小出 4枚目がもう『オペラ座の夜』だから。ここから「ボヘミアン・ラプソディ」の大ヒットが生まれる。
ハマ 映画はブレイク後の波瀾万丈の作り込みがすごいので、最初は「展開早くね?」と感じたのですが、それは構成上必要な判断だったんだなと。
[後編]に続く
TEXT BY 森 直人(映画評論家/ライター)

今回は全国公開前の試写にて4人で観賞。感想会を行った会議室で、「もう一度、劇場の大スクリーンで観たい!」とテンション高まる4人でした。

実際の『ライヴ・エイド』映像を観て、映画での再現度に興奮するレイジくん。本編を観た人だけができる楽しみのひとつ。