実際にあった“耳切り”誘拐事件を基にした映画を、アーティスト4人がガチ観賞!

邦ロック界で一二を争う映画論客とも言われるBase Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。今回は小出部長が大好きな監督“リドスコ”の最新作『ゲティ家の身代金』。話題の“耳切りシーン”を含め、アーティスト4人の反応は……。

みんなの映画部 活動第44回[前編]
『ゲティ家の身代金』

参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、福岡晃子(チャットモンチー)、オカモトレイジ(OKAMOTO’S)、ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)

俺の好きなリドリー・スコット作品でしたね

──「みんなの映画部」第44回です。今回は『ゲディ家の身代金』。1973年のローマで起こった大富豪の孫誘拐事件を、巨匠リドリー・スコット監督(80歳!)が映画化し、製作中のトラブルまである種おいしいネタとして出回った話題作でございます。では、リドスコ大好きな小出部長から、まずは恒例のひと言をどうぞ。

小出 面白かったです。俺の好きなリドスコでしたね。すっごいざっくり言うと、リドリー・スコットってSF撮って、歴史ものとか聖書関連のお話を撮って、事件や犯罪の映画撮って、みたいな波があると思ってて。

ひとつ前は『エイリアン:コヴェナント』(2017年)でしょ。その前も『オデッセイ』(2015年)ってSFだった。

レイジ 『オデッセイ』ってどんな映画でしたっけ?

小出 火星行くやつ。

福岡 ひとりで暮らすやつ。

レイジ ああ、ジェイソン・ボーンの人(マット・デイモン)が主演のやつですね。あれもリドスコか。

小出 で、さらにそのひとつ前が『エクソダス:神と王』(2014年)。旧約聖書系の歴史劇ね。だからもうそろそろ犯罪映画来る順番じゃねえかな? と思ってたら、やっぱり来たよ! って感じなのが今回。

ハマ なるほど。

福岡 犯罪ものといえば『ハンニバル』(2001年)もこの監督さんなんだ。

小出 猟奇殺人鬼のハンニバル・レクター博士を描く『羊たちの沈黙』(1990年/監督:ジョナサン・デミ)の続編ね。あれを撮ってるリドスコさんですから、まあそれは耳ぐらい切るよね。

福岡 そうだね。それは朝飯前だよね。

──読者用に説明しますと、この映画には誘拐された男の子の耳が切られちゃう閲覧注意のシーンが登場します!

小出 なんなら『悪の法則』(2013年)でもっとひどいことやってるから。

福岡 でも久々にああいうシーンでめっちゃ気持ち悪くなった。

ハマ しっかり気分悪くなりますよね。それはすごいことだなと。

レイジ 映画でグロいシーン自体は珍しくないですけど、これは持っていき方が本当にイヤじゃないですか。いよいよやられるんだ……っていう演出が。

小出 切ってる間、じい~っとカメラがその様子を捉えているんだよね。目を離さない。印象的な耳切る映画といえば『レザボア・ドッグス』(1991年/監督:クエンティン・タランティーノ)があるけど、しっかりは映ってないからさ、今回みたいに行程を丁寧に描かれると本当にやだやだっていう。

これは実話なんで、耳を切られたのも本当の話。海外版のポスターを見ると、切られた耳だけがドーンと真ん中にデザインされてるヤツがあるのよ。

ハマ 有名な話らしいですね。

小出 当時、世界中で報道されたすごい有名な事件なんで、映画的には“耳待ち”でもあるわけだよね。

福岡 “耳待ち”してる人たちの心の準備を超えて衝撃を喰らわすってのはすごい演出力だよね。

わざわざステーキ食べてるシーンとか入れてくるのヤバいじゃん。なんかもう、肉が人間と一緒に見えちゃうっていうか。

小出 わかるわかる。

ハマ 耳を切る医者も気持ち悪かったです。マフィアが呼んだ完全な闇医者。

小出 もう見るからに、こいつロクな医者じゃねえなっていう(笑)。

福岡 よれよれのカーディガンとかめっちゃヤバいよね。まさかクロロホルムみたいな麻酔だけで手術すると思わないから。しかも耳待ちのあともすっごい怖かった。

レイジ そこの構成の工夫は絶対してるでしょうね。耳がピークにならないように。人質になる場所が二段階あるのも怖いですよね。

小出 怖いね。2ステージ目があったっていう。

レイジ あれは意外と初めて観たかもしれない。監禁場所が変わることはあるけど、組織が変わるというのが。

小出 最初の犯人グループよりさらにヤバい上位グループが人質を買い取ってっていうね。こういうのがやっぱりリドスコさんの犯罪もの、マフィアものの怖さ。『悪の法則』もそうだけど、血も涙もないエゲツないことをいともたやすくやっちゃう世界が、一般の人の世界と隣接していることを知らしめるというか。

で、その世界は極めてドライでシステマチックで。なんの躊躇もなくどんどんエスカレートしていくっていうね。

──人間の冷たい本性みたいなものを見せてくれますね。

ハマ あと監禁場所のシーンになると、ほぼ100%ハエが飛んでいるのがすごく良かった。不衛生な状態がえらい生っぽく伝わってくるというか。

レイジ 単にリアルっていうより、ちょっと盛った感じがまた良いですよね。誘拐された男の子のお母さんが、犯人側と交渉しながら、身代金を断固払おうとしない大富豪ゲティとも対決する展開になるじゃないですか。

そこでドケチな大富豪を批判する新聞をどっさりゲティ家の前に置いていく。絶対ゲティ様は表に出て自分で新聞を見たりするわけないのに、風がバーって吹いて、帽子が飛ばされて。さすがにこれはゲティ様も喰らったぜ~みたいな。

ただのドキュメンタリーチックなルポものではなくて、フィクションならではの映画的な演出がすごく良かった。

 

セクハラ疑惑でケヴィン・スペイシーから急遽変更

小出 デンゼル・ワシントン主演の『マイ・ボディガード』(2004年)っていう映画があって、それも今回と同じゲティ家の誘拐事件がベースになっているんだよね。

まあそっちは事件に着想を得た小説(A・J・クィネル『燃える男』)の映画化なんで、話の内容はまた全然違うんだけど。これを監督したのがリドスコの弟なの。トニスコ(トニー・スコット)。『トップガン』(1986年)とか撮ってる人ね。

レイジ 兄弟そろってすごいですね。

小出 何年前だっけね、リドスコの『プロメテウス』(2012年)の公開ぐらいのころに自殺して亡くなっちゃったんだけど(編註:2012年8月19日)。

ハマ 自殺なんですね。

小出 うん。彼はデンゼル・ワシントンと何本か撮っていて、『デジャヴ』(2006年)っていうタイムリープもののすっげえ面白い映画あるんだけど。

福岡 それは観たいなあ。

ハマ デンゼル・ワシントンがものすごく良い時期ですよね。

小出 『デジャヴ』と『マイ・ボディガード』はぜひ観てほしいよ。デンゼル・ワシントンといえば最近『イコライザー』(2014年/監督:アントワーン・フークア)ってのがあったじゃん。

一見普通のおじさんなのにナメてたらめちゃくちゃ強かったっていう。『マイ・ボディガード』も近いパターンだから。ちなみに、こちらもまたハードな拷問シーンがあったりもする。

──作風としては弟のトニスコのほうが体育会的というか、パワフルな娯楽作の名手だったんですけど、意外に文化系の兄貴リドスコのほうが老いてもなお盛んな活動を継続しています。

小出 そうですよね。特に今回は前情報としてはすごい有名ですけど、製作から公開までがえらい大変だったと。ゴッタゴタだらけで。

ハマ まずゲティの役者が変わっちゃってますしね。

小出 そうそう。公開されたものはクリストファー・プラマーって人が演じているんだけど、最初はケヴィン・スペイシーがやってたの。しかも完全に撮り終わってたんだよ!

レイジ もう全部撮り終わってたんですか?

小出 うん。だけど全米公開の直前になって、ケヴィン・スペイシーが過去のセクハラ疑惑で訴えられたのよ。それが大問題になって、このままじゃ公開できないってことになった。

ところがリドスコはキャストを変更して、急きょ公開1ヵ月前に撮り直すことを決定したの。

レイジ 間に合ったんですか?

小出 間に合ったから公開されてる(笑)。

ハマ ゲティの出演した部分だけ撮り直したんですよね。その追加撮影、わずか9日間らしいですよ。

福岡 すごすぎ!

小出 それで無事映画は完成したんだけど、そしたら今度は、お母さん役の人(ミシェル・ウィリアムズ)が1000ドルぐらいの破格のギャランティで追加撮影やったのに、マーク・ウォールバーグ(元CIAの交渉人役)が150万ドルぐらいもらってたらしく、「おい待て!」と。これ男女差別じゃないか? ってことになって、またひと波乱あって。

ハマ そりゃ気の毒に。

小出 リドスコ自身は別にフェミニズムとかに熱心なわけじゃないけど、『エイリアン』シリーズとか『G.I.ジェーン』(1997年)とか女性が強い映画をずっと撮ってるイメージがある。

ハマ ちなみにマーク・ウォールバーグの追撮は5日だけらしいですよ。ちょうど他の作品の撮影中だったから、スケジュール的にこの映画には5日間しか入れなかった、と。相当な集中力ですね。

小出 元々リドスコさんは撮影速いことで有名だから。

──ずっと第一線に残ってるベテランはみんな撮影速いのかもね。スピルバーグもそうだし。

小出 そうだ、前回取り上げた『ペンタゴン・ペーパーズ』(活動第43回参照)も。そういえばリドスコさん、前回の話のなかに出た『ザ・シークレットマン』では製作を務めてた。

レイジ マジっすか。よく働きますよね、ほんと!

ハマ 80歳ですよ。カッコ良いね。

TEXT BY 森 直人(映画評論家/ライター)

今回は珍しく、昼間っから六本木で観賞。皆「平日の昼間から映画観られて良いね」と言っていましたが、一応お仕事ですよこれも。

[後編]へ続く

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