権力者の隠蔽を暴いたスピルバーグ監督映画。若きアーティストたちはこう反応した!

バンド界で一二を争う映画論客とも言われるBase Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。今回は巨匠・スピルバーグ監督の実録社会派作品。政治的でシリアスな内容にアーティスト4人はどう反応したのか。

活動第43回[後編] 『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書
参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、世武裕子、オカモトレイジ(OKAMOTO’S)ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)

「これを現代代風刺だと思わないとヤバい」
と声を上げた[前編]はこちら

 

エンタメ映画としても文句なく面白い

ハマ もちろんスピルバーグ監督なんで、エンタメ映画としても文句なく面白い。例えば「終わり方、最高!」というか。

レイジ あの終わり方ってどういうことなんですか?

ハマ ワシントン・ポスト絡みで、あの後、もう1回大きい事件が起こる。『大統領の陰謀』(1976年)という映画で描かれた事件で。

小出 1972年のウォーターゲート事件ね。今年公開された『ザ・シークレットマン』もそれが題材。当時のニクソン大統領が辞任に追い込まれた大スキャンダルだよ。

ハマ 『ペンタゴン・ペーパーズ』ではニクソンの後ろ姿だけ映ってた。

レイジ どういう事件なんですか?

小出 共和党のニクソン政権がライバルの民主党の事務所に盗聴をしかけたのよ。最初、犯人グループは政権とは無関係と思われていたんだけど、たどっていったらニクソン大統領に繋がった。

ハマ その隠蔽工作をワシントン・ポストの記者たちがまた暴く。

レイジ へえ~。

──だから『大統領の陰謀』と『ペンタゴン・ペーパーズ』を比べて観たら、登場人物が重なっているから面白いですよ(笑)。

小出 映画っぽく言うなら、「ウォーターゲート事件 ビギンズ」だよね。ニクソン大統領の辞任に繋がっていく一連の出来事なんだよ。

レイジ ただもう少し、映画の中でその社会背景を説明してほしかったですね。例えば自分のよく知らないスポーツを扱った映画でも、よくできたスポーツ映画って興奮したり泣けたりするじゃないですか。でも今回は、王道なアメリカ映画の作りのわりにビギナーには不親切だなって。

小出 あ、それはたしかに言えるかもね。あらかじめこの事件に関する文脈をある程度把握していないと、よくわかんない部分は結構あるかも。劇中、ペンタゴン・ペーパーズの報道が何に関するすっぱ抜きなのか、断片的にしか語られてない。

ハマ おしゃべり自体はものすごく多いんだけど、その情報量の多さがわかりやすい理解を邪魔しているところもあるのかもしれない。

レイジ そうなんですよ。こんなに世界史のことがわかってない俺でも、『ダンケルク』とかはすげぇ面白かったんですけどね(笑)。

 

 

世界の頂点に立つ人気監督のスピルバーグが問題提起した

──今回はスピルバーグのオピニオンとしての意識が前面化した一本なんでしょうね。『レディ・プレイヤー1』は映像主体の娯楽職人ぶりを存分に発揮していて、その振り幅はさすがです。

世武 両方できるのってすごいですよね。今の社会について自分は何を思っているのか、何を伝えたいのか……映画も音楽もそうですけど、芸術はその役割がすごい担えると思う。

ほら、こういう普段の現実の局面で「社会のことについて語ってください」っていうと、みんなすごい尻ごみするじゃないですか。自分の意見が正しいかどうかってことにもビクビクしちゃうし、それは私も自信ない。

だけど表現ってことを通すと、間違いか間違いじゃないか、“じゃない”ところで語れる部分が多いから。

小出 問題提起だよね。自分はこう思います、ってことを投げかけて、考えるきっかけになればうれしいっていう。今回は世界の頂点に立つ人気監督のスピルバーグがそれをやったっていうところに大きな意味がある。

ハマ 役者もものすごかった。みんな圧倒的でした。

小出 全員素晴らしかったね。もうなんか、どの人も顔がすげえなと思って。

ハマ 役への憑依のレベルが違うというか。

世武 芝居なんだけど、もう本気。その熱気に巻き込まれちゃうもん。

ハマ ある意味、ドキュメンタリーを観てるような気分になる。

小出 メリル・ストリープが電話口でさ、スクープを載せるか載せないかって最終的な決断を迫られている時の、葛藤の段階が顔だけでわかるんだよね。

ハマ キメのところでカメラが異常に寄りましたしね(笑)。

小出 あんなストロングスタイルのアップの仕方、やっぱメリル・ストリープだからできるんだろうね。感情の推移を顔だけで完璧に表現できる。

ハマ 電話での相槌もリアルでしたね。ちなみに顧問弁護士の人(ジェシー・プレモンス)、『ブラックミラー』のシーズン4の悪い船長役ですよね。

小出 俺もめっちゃ思った。

ハマ 『ブラック・ミラー』っていうNetflixで配信されているイギリスのSFドラマがあって、ものすごく面白いんです。

小出 僕もね、ハマに薦められて観たんですよ。

──ジェシー・プレモンスはマット・デイモンに似すぎってことをよくイジられている俳優さんなんですけど(笑)、今回の弁護士は存在感ありましたよね。

ハマ そう、すぐ引っ込むのかと思ったら、結構出ていて。かなり良い役だなと。あとテッパンですが、ジョン・ウィリアムズの音楽はやっぱり良かったです。

世武 途中の和音の展開が完全に『ジュラシック・パーク』でしたけど(笑)。

ハマ たしかに(笑)。

世武 でもやっぱね、あれ聴いたらみんな泣けるから。だからこういう意味のある映画に、みんなが大好きになれる音楽がついていることはすごく大切ですね。この映画を観たら余計そう思うけど、人間の良心を信じたいっていうか。世界が泥沼になっちゃう前に食い止める良心が人間には残ってると信じたいな。

TEXT BY 森 直人(映画評論家/ライター)

狙ったわけじゃないのですが、感想会となったお店で語る風景がペンタゴン・ペーパーズ的でした。

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