桑田佳祐がNHK「SONGS」で見せた落語家の姿。実現したリスナーとの対話

“茅ヶ崎萬秘改メ 波乗亭米祐”という噺家に扮した桑田

桑田佳祐が12月1日放送のNHK総合「SONGS」第402回に出演した。この回では「~新境地! 落語で誘う桑田ワールド~」と銘打ち、“茅ヶ崎萬秘(ちがさきマンピー)改メ 波乗亭米祐(なみのりていべーすけ)”という噺家に扮した桑田が、「あなたへの手紙」という小噺を披露しながら、先頃リリースされたばかりのシングル「君への手紙」収録の全4曲を歌い上げた。

正直、放送を観る前までは“いくら器用な桑田でも落語なんて大丈夫なのか……”と少々不安も感じていた。しかし蓋を開けてみればレギュラーのラジオ番組やライブのMCで聞ける軽妙洒脱な語り口はそのままに、想像以上のハマり具合ではないか。流石の芸達者ぶりに思わず膝を打った。

古典落語のグラマーが要所に取り入れられ

そもそも桑田の口からは、自身のラジオ番組などでも古今亭志ん朝や立川談志の名がよく出てくることでもわかるように、落語好きを公言している。2012年の同「SONGS」でも共演した立川志の輔との交流も広く知られている。そう考えると、今回の高座は満を持してのチャレンジだったのかもしれない。

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(桑田の)お約束とも言える下ネタの“つかみ”から始まる波乗亭の噺は、全体としては創作落語や地噺に近いフリートークの形態をとりつつ、それでいて口上では「蝦蟇の油」、“夢が覚めてしまう”というサゲ(=オチ)では「芝浜」(“よそう。また夢になるといけねえ”)と、言わば古典落語のグラマーが要所に取り入れられており、奔放ななかにも桑田が抱く落語への愛情を感じさせた。

昭和の音楽バラエティの精神性が通底したアプローチにおける“新境地”

さらに前作シングル「ヨシ子さん」に繋がる初代林家三平の必殺ギャグや、やはり先頃リリースされたばかりのDVD&Blu-ray「THE ROOTS ~偉大なる歌謡曲に感謝~」で「新宿の女」をカバーした藤 圭子の名前など、自身の直近の活動とリンクする小ネタも巧妙に散りばめられていた。

とはいえ(大前提として音楽番組なので)間に曲を挟んでいたし、最終的なサゲはどちらかと言えばコント寄りだった。ここは桑田の落語への本格挑戦と捉えるよりも、これまでの「SONGS」出演時と同様、彼が幼少の頃に親しんだ「シャボン玉ホリデー」に代表される、昭和の音楽バラエティの精神性が通底したアプローチにおける“新境地”だったと捉えるほうが賢明だろう。

ハイブリッドの醍醐味こそが唯一にして無二な桑田サウンド

桑田自身、噺の途中で「いま思うと昭和とは実に不思議な時代だった」と語っていたが、周知の通り、彼の音楽ルーツには欧米のロックと日本の歌謡曲という2本の柱があり、そのハイブリッドの醍醐味こそが唯一にして無二な桑田サウンドのエッセンスだ。

歌謡曲や音楽バラエティ番組の隆盛期だった昭和に、桑田は来日したビートルズと歌番組から流れてくる歌謡曲をお茶の間で一緒くたに体験して、やがて自らもデビューしてブレイクを果たした。ポール・マッカートニーと前川 清と植木 等が桑田の中では等しくリスペクトの対象であり、彼らの音楽を浴びた魔法の源泉こそがテレビだったのだ。

桑田は過去の筆者のインタビューにおいて「かつては視聴者が音楽番組に自分の人生模様をダブらせてながら観ていた時代があった」と語ったことがある。また別のインタビューの場では「音楽を通してステージからお客さんと世間話をしている感じが気持ちいい」とも語っていた。

今回の番組内で、バラエティに富んだ新曲4曲を披露した演奏シーンでは、演出もスタジオセットも服装も曲になぞらえて4通りのものが用意された。昭和育ちのリスナーは楽曲の物語をビジュアルで押し出すというかつての音楽バラエティの味わいを思い出したかもしれない。この点は前述の「THE ROOTS」についても部分的に同様の感想が当て嵌まる。

自ら“異形のベテラン”という存在感を嬉々として担っている

彼のこうしたこだわりは今に始まったことではない。伝説の音楽特番「メリー・クリスマス・ショー」や「桑田佳祐の音楽寅さん ~MUSIC TIGER~」の実績はもとより、既存の音楽番組にゲスト出演する際も持ち前の旺盛なサービス精神を振りまいてきた。そして特に近年はそれが良い意味で過剰な傾向にあった。

しかも決して番組側が大御所である桑田に気を遣っているというような構図ではなく、どう見ても桑田自身が率先して番組内に独自のエンターテインメントを持ち込み、時にはゲリラをも仕掛け、自ら“異形のベテラン”という存在感を嬉々として担っているような局面さえ見て取れた。今年の「ヨシ子さん」リリース時のテレビ出演などはその象徴的な一例だったと言えよう。

もっと言えば、桑田はここにきて持ち前の奔放さをさらに爆発させている。繰り返しになるが、ニューシングル「君への手紙」に収録されている4曲も、日々を前向きに生きる者の背中を押すようなロッカバラードの「君への手紙」、前川 清を彷彿とさせるムード歌謡調の「悪戯されて」、1stソロアルバムの頃を思い出す瑞々しいメロディの「あなたの夢を見ています」、そして久々の“センスに裏打ちされたナンセンス”な歌詞をブルースの王道的コード進行に乗せて歌った「メンチカツ・ブルース」と、まあ見事にバラバラだった。でもその全てが紛うことなき桑田サウンドなのだから凄い。

リスナーとの積極的な“対話”を試みてきた

桑田は今年の3月には長年続けているレギュラーのラジオ番組を活用して、東日本大震災に見舞われた宮城県女川市のFM局を慰労に訪れ、電撃ライブを行った。そして初夏にはおフザケやエロが足らない昨今にフリースタイルよろしく「ヨシ子さん」を放ち、この師走には「THE ROOTS」と「君への手紙」と落語である。

つまり桑田はこの2016年という1年間をかけて、音楽面では持ち前の手札を次々と切り放ち、昔から思い入れのあるラジオとテレビという媒体を通じては、自身が内包するカルチャーをツールに用い、またそれを紹介しながら、これまで以上にリスナーとの積極的な“対話”を試みてきたのではなかろうか。そう見立てると、今回の「SONGS」においての落語とは、リスナー(=視聴者)との対話という点でさらに踏み込んだ領域でのコミュニケーションだったようにも思えてくる。

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洒落のめしても物事の肝心要は疎かにしない。そしてひたすら優しい

この年末、桑田はソロとしては4年ぶりとなる年越しライブを行い、ファンと共に2017年を迎える。そしてすでに予告している通り、現在『MUSICMAN』以来の新作ソロアルバムを鋭意製作中だ。ここに連ねた2016年のバック・トゥ・ルーツとリスナーとの対話を経て、来年どのようなアルバムがリリースされるのか期待が募る。

洒落のめしても物事の肝心要は疎かにしない。そしてひたすら優しい。そんな桑田一流のコメディセンス、つまりは“粋”(いき)が光った今回の「SONGS」だった。

波乗亭米祐はまた落語を聞かせてくれるだろうか? 創作落語でも古典でも、ぜひ彼の噺を一本通しで堪能してみたいものだが……おっと再会を信じればこそ、もうここいらで期待を記すのは止めておこう。だって“夢になるといけねえ”から。

TEXT BY 内田正樹


ライブ情報

桑田佳祐 年越しライブ2016「ヨシ子さんへの手紙 〜悪戯な年の瀬〜」Supported by UCC
12/27(火)神奈川・横浜アリーナ
12/28(水)神奈川・横浜アリーナ
12/30(金)神奈川・横浜アリーナ
12/31(土)神奈川・横浜アリーナ

締め切り間近!桑田佳祐 年越しライブ2016「ヨシ子さんへの手紙 ~悪戯な年の瀬~」 ライブ・ビューイング
12/31(土)全国の映画館

【応募方法】
対象商品封入の“ライブ・ビューイング参加応募券”に掲載のURLにアクセスし、受付ページに記載の手順に従ってご応募ください。

【応募締切】
12月4日(日)23:59

詳細はこちら


NHK「SONGS」番組サイト

サザンオールスターズ OFFICIALTE

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