「俺って何者なんだろう?」とアーティストが考えさせられた映画「何者」のガチ感想

Base Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。今回は、朝井リョウの直木賞作を映画化した「何者」。胸が詰まるほどに描かれた“就活”のドラマをミュージシャンのふたりはどう受けとめたのか。


活動第29回[後編]「何者」
参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、福岡晃子(チャットモンチー)

朝井リョウ小説が好きな小出部長が、原作と映画の比較を話す[前編]はコチラ

みんなどこかに身に覚えのある胸の痛さがうまく描いてある

──原作から映画へ、っていう移植作業でいうと、小説より表現として親切になっていた気がする。とにかくわかりやすい映画じゃないかと。

小出 そう思います。たぶん、それが顕著に表れたのって例の終盤の論破シーンなんですよ。あそこでホラーとかミステリーみたいな演出を挟むことで、グッと敷居を下げたな、と僕は思いました。観ている人に「ショッキングなことが起きているシーンなのでゾッとしていいですよ」ってわかりやすく伝えてるんじゃないかって。

福岡 怖いよね~。確かにホラーやわ。

小出 原作でももちろん衝撃の展開ではあるんですけど、どちらかというと「リーガル・ハイ」みたいな法廷ドラマに近いそれを感じるシーンなんですよ。もっと言うと、バカリズムさんのコントで童話「金の斧」の川の女神を論破するっていうコントがあるんですけど、感覚的にはそれがいちばん近い(笑)。

自分が論破されていくのをただただ聞いているしかない、みたいな。そんな、台詞で圧倒するシーンを映画でどう見せようかと考えたときに、ホラー的演出に舵を切ることで、よりわかりやすく「ガーン!」と思えるようにしたのかなと思ったの。

福岡 だって私もめっちゃ怖かったもん(笑)。若い子ってこんな喧嘩するんや~と思って。

──ある種、隠されていた真相を振り返るわけじゃん。「実は私こうでした」って。

小出 そうそう。あれも「世にも奇妙な物語」ですよ。

福岡 怖い怖い(笑)。

小出 舞台を感じさせる演出が多い中で、ここがいちばん映画的アレンジだったんじゃないかと思いましたね。

福岡 あと、私が好きやったのは、出てきたバンドや演劇が、その世界にしかわからない空気感が絶妙に出ていて。観ていてちょっと胸が痛くなる感じ。「……頑張っているんだけど」みたいな感じの出し方がめっちゃうまくて。

拓人にしろ、今は演劇を辞めちゃったけど、以前は本気で一生懸命やっていた。決して単なる趣味ではやってなかったっていう感じがすごい伝わってきた。あと舞台を観た光太郎(菅田将暉)が「難しくてわかんなかったよ」って言う感じも、演劇の外側にいる人間としてはめっちゃわかるやん。

小出 光太郎は素直でいい奴だなぁとは思いつつも、リアルな反応だよね。

福岡 リアル。あとSNSに関してもそうだったの。ずっぽりハマってる人も、シニカルに構えてる人も、両方とも根っ子からは批判せずに、そのちょっと痛いところを見せてきたというか。微妙なラインにいた人は「これ、自分もそうかも?」ってちょっと思っちゃうような、みんなどこかに身に覚えのある胸の痛さがうまく描いてあるなあと。

小出 そうだね。

 

僕らもずっと「俺らは何者なんだ問題」が付きまとっている

──就活大作戦っていうのがメインの題材なんだけど、音楽や演劇を辞めちゃうことの切なさとか、あるいは成功するかどうかわからずに自分のやりたいことを続ける不安っていうのもサブテーマとしてありますね。

小出 “自己表現免許”([前編]参照)ってことに関して言うと、僕らは表現が仕事ですから、一応、免許というか級は持ってると思っていいんじゃないかと。1級か2級ぐらいは持ってる、と思ってる。段にはまだいってないかもしれないけど(笑)。でも、プロという責任と矜持を持っていなきゃいけないと思うし。

──少なくとも仕事にしている時点で、「やっていいですよ」という社会的な場所にはいるということだから。

小出 とはいえ、僕らもずっと「俺らは何者なんだ問題」がつねに付きまとっているんですよ。例えば「今、制作やってます」ってツイートするとき、頭の中では自分たちのファンの方に向けて、バンドはこういうふうに動いてますよとアピールしていることにはなっているけど、僕らのことを全然知らない人がそれを見たら「こいつ、なにを自分のこと偉そうに語っとんねん!」「どんだけ大そうなもん作っとんねん!」って思うかもしれない。そういうこと本当にあるよなと意識しながらツイートしてる。

福岡 あると思う。そのへんをちゃんと自覚しておくことが、戒めっていうか。

──今日の「みんなの映画部」は、初の渋谷で観たわけですが、普通にオシャレしてたようなあの子たちはどう思ったのかな。

福岡 一緒に観に来ていた友達と交わした感想とは、ホンマは違うことを思っていたりしそうだけどね(笑)。

小出 そうだよね(笑)。でもこの映画を観て、初めてその視点が加わったかもしれない。

福岡 そうそう。加わっていてほしい。これは上から目線で言うんじゃなくて、ひとつの“気づき”として、本当にそう思う。

TEXT BY 森 直人(映画評論家/ライター)

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当連載初の渋谷での鑑賞。終演後に感想会会場の喫茶店探しが難航しました。途中、レイジくんからLINEで「やりたいことが仕事になって、その熱量が維持できてる現状がとても幸せなことだと再認識しました」という感想が届きました。

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