グサリと胸に刺さる就活映画「何者」をアーティストふたりがガチ観賞してきた!

Base Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。今回は、朝井リョウの直木賞作を映画化した「何者」。胸が詰まるほどに描かれた“就活”のドラマをミュージシャンのふたりはどう受けとめたのか。


活動第29回[前編]「何者」
参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、福岡晃子(チャットモンチー)

軸も全然ブレてない“忠実な映画化”

──約2ヵ月半ぶりの映画部でございます。まだ「シン・ゴジラ」と「君の名は。」旋風が吹き荒れている現在ですが、今回取り上げるのは青春映画「何者」。朝井リョウさんの直木賞小説を、演劇界の鬼才・三浦大輔監督(ポツドール主宰)が映画化した話題作です。では部長の恒例のひと言からお願いします。

小出 すごくよかったんですけど、まずは「お、原作から全然はみ出てない」という印象ですかね。展開もほぼそのままですし。同じ朝井リョウ作品だと「桐島、部活やめるってよ」は映画独自のアレンジがかなり加えてあったじゃないですか。

福岡 こいちゃんは朝井リョウさんの小説ってだいたい読んでるんだよね?

小出 ほぼ全部読んでるね。その中でも「何者」はかなりじっくり読んだから、はみ出てない感がすごかった(笑)。

あと、演劇出身である三浦大輔監督だからこそ、演劇的な要素を組み込んだ演出がメタに効いてくるのが好みだったなぁと。劇中劇もあるし、後半、舞台のイメージで複数の部屋の様子を見せたり、世界観、というか世界を舞台に置き換えることで解体してみせたりとか。

映像の撮り方も空間性を意識したものになっていましたよね。部屋にいる人物と人物の間が立体的に捉えられているから、特にペターっとなりそうな部屋のシーンでも没入感が感じられて。そういう、三浦監督の持ち味というか、出自をも踏まえた作りになっているんじゃないかなと思いました。あっこはどうだった?

福岡 面白かったです! 私は原作読んでないですけど、なんか自分の受験のときを思い出した(笑)。

──本作は就活が題材ですが……就活してませんよね、 ふたりとも。

福岡 そうなんですよ。だからバンドをやっていなかったら、こういう中におったんかなと思うと……すごい世界やなと思う。

小出 こうなんだ! って感じでだよね。就活についてはまったく語れないよな、俺ら(笑)。何も知らないもん。

福岡 いちばんダメだよね、語ったら(笑)。知った風なことをコメントしても「お前が言うな!」って怒られるよ。

 

「何者」以前と以後で朝井リョウは小説の書き方がすごく変わる

小出 この映画のテーマもそうだし、朝井君の作品のテーマというのは、なんならずーっと“何者?”だとも言えると思っていて。デビュー作の「桐島~」もそうだし、テレビドラマになった「武道館」もそうだし。言い換えると“アイデンティティへの意識”ということですよね。

登場人物たちは「自分らしさ」と向き合って葛藤するけど、“他者とのコミュニケーション”によってそれが対象化されて浮かび上がってくる。そういう作劇が「何者」あたりから顕著になるんですよ。「何者」以前と以後では小説の構成が変わってくるんです。

──発表順でいうと「何者」は朝井さんの第6作。「チア男子!!」などは“以前”で、先ほど出た「武道館」は“以後”ですね。

小出 で、原作の「何者」ですごく印象的だったのは、見せ場が“論破”であるっていうこと。映画でもそれはしっかり描かれているけど、原作を初めて読んだときはショッキングでしたよね。こんなに登場人物を論破する小説ってある? って(笑)。

でも、自意識を打ち砕かれるのって、世界が崩壊するような出来事だけど、そこで初めて「自分は何者なんだ?」「何者になりたいんだ?」っていう、原始的な部分と向き合えるようにもなる。「何者」って、題材は就活だけど、 自己実現や自己表現に触れながら自意識へと迫っていく作品ですね。

──承認欲求だったりね。

小出 そうそう。僕とかあっこは音楽に打ち込むことで、“自己表現免許”みたいなものを頑張って取得して、今では幸福にもそれを生業にできている。僕らは普段、楽器を練習して、歌詞や曲を書き、 CDを作ってライブをやって……っていう面倒臭い手順を踏んで表現をしているわけですけど、SNSはそういう自己表現の敷居を一気に下げましたよね。

Twitterなら誰でも140字で世界発信が可能になった。それで自己承認欲求や、その奥にある自意識が満たされていく。ここまでSNSが広まったのは、「自分が自分である」ことを確認したい気持ちが誰にでもあるからだと思うんですよ。

──そこをインスタントに満たせることで、今は逆に自分が「何者でもない」という現実的な感覚に耐えられなくなってきているのかもしれない。

小出 でもSNSって見方を変えれば、世界中の自意識でビタビタに浸っているわけですよね。そんな“SNS上での自意識への意識”って、特に近年、求められている感じがしませんか? そこまでリテラシーに含まれているような気がしますよね。

で、朝井君がすごいのは、原作小説を出したの2012年なんですよ。日本では東日本大震災の際にTwitterが大きく広まったと言われていますけど、その翌年に、“アイデンティティをSNSへ投影していく人を論破する”作品を書いちゃった。ちょっと早すぎる。

福岡 だからウチらの世代だと、自分の思春期とか青春期の自己表現にSNSが入ってきてなかったことが、ある種ラッキーというか。この映画は「今の若者は大変やなぁ」っていう(笑)、そのあり方を改めてわかりやすく教えてくれた感じがする。裏アカウントを持ってたりするのを情報として知ってはいたけど、あれだけ具体的につぶやかれてたらキツいわ~って。

小出 本当だよね。想像してみるとめっちゃ怖い。

福岡 私自身は裏アカを使おうと思ったことがなかったから。だから登場人物が学生だけで完結しているのも良かったなと思って。大人が交じってないのはすごくリアリティーがあった。

 

三浦監督による舞台的なやり方はすごく正しい演出だと思う

── いちばん年上がサワ先輩(山田孝之)で、彼はツイッターをやらないというポジション。

小出 SNSと距離を置いている大学院生ですね。あと、今年出た小説「ままならないから私とあなた」や、「何者」のスピンオフ「何様」もそうだったんですけど、人とのコミュニケーションで物語が転がっていく最近の朝井君の作品って、演劇的だとずっと思っていたんですよ。

世界そのものが動いていくんじゃなくて、人とのコミュニケーションによって何かが生まれ、何かが壊れ、何かが再構築される。だからこの作品を三浦監督が手掛けたということも納得だし、演出もバッチリとハマっているなと思いました。

ただその一方で、もっと映画的に描くのであればどうなるのかなっていうのを観たかった気もしましたね。過不足ないっていうところが同時に食い足りなさでもあって。

福岡 なるほどね~。

TEXT BY 森 直人(映画評論家/ライター)

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今回はふたりでしが、OKAMOTO’Sの全国都道府県ツアーが無事終了したので、来月以降はまた賑やかになることでしょう。

[後編](10月31日配信)につづく

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