息を吸ったり、吐いたりするだけで音楽を奏でることができる楽器、ハーモニカ。かつては小学校の音楽教育にこぞって採用されるなど、一世を風靡したハーモニカだが、今やそのポジションは鍵盤ハーモニカに完全に取って代わられ、その姿を見たこともない子供も少なくないようだ。
さらに、その演奏の容易さから、やや低く見られがち(=ナメられがち)な楽器の代表格でもあるハーモニカ。今「そうだよね」と納得したアナタ。そんなアナタに、ひとりの男を紹介したい。
コハ・ラ・スマート。
名前から醸し出される胡散臭さには、とりあえず目をつむっていただきつつ、まずはコハ・ラ氏率いるバンド、スマートソウルコネクションの最新アルバム『ニューアクション』から「ブギークラッカー」を聴いていただきたい。
ハーモニカはどんな楽器よりもラウドで猥雑!
どうよ、このラウドで猥雑なサウンド! 過剰なエネルギーを撒き散らしながら、ブロウしまくるハーモニカ。なお、コハ・ラ氏が使用するハーモニカは“ブルースハープ”(※注1)と呼ばれるタイプのものだが、ここではハーモニカの名称で統一させていただく。
昭和のガキンチョがプープー吹いていたあの手軽な楽器で、失禁もののグルーヴィーなブルースやファンクが奏でられてしまうというミラクル! 文部科学省は、今すぐハーモニカの復活を検討したほうがイイゼ!(余計ダメか)
※注1
“ブルースハープ”は ドイツのホーナー社が、1890年代に発表した単音10穴ハーモニカの製品名。以降、10穴ハーモニカ=ブルースハープという呼称(通称)が現在まで定着している。ちなみに学校用のハーモニカは15穴のタイプが中心だった。
“タイトルを歌う”という特異なスタイル
「ブギークラッカー」のミュージックビデオで、楽曲のアタマと最後に「ブギークラッカー!」という唐突なタイトルコールが入っていることに気づいた人が多いはず。この、“タイトルを歌う”というスタイルは、ラウドなハーモニカプレイと並ぶコハ・ラ氏の特徴的な表現手法として、特にビギナーを驚かせるポイントのひとつとなっている。
コハ・ラ氏のかつてのバンド、“バーレスクエンジン”で確立されたこの手法は、現スマートソウルコネクションで完全復活(※注2)。
音楽から、歌詞(「説明」と言い換えてもいいかもしれない)という概念を切り離し、しかしその一方で、完全なインストゥルメンタルとはせずに、楽曲の世界観の入り口となる「ワード」を“歌”として提示するという独自のスタイル。限られた情報であるがゆえに、聴き手のイマジネーションが掻き立てられ、スリリングなバンドサウンドがさらにそれを増幅していく。
※注2
スマートソウルコネクション結成当初は、いわゆる“歌モノ”に接近する姿勢を見せていた時期も。決して「歌詞」を否定しているわけではない。
世界で類を見ないパフォーマンス
スマートソウルコネクションのライブは、タイトスーツに身を包んだコハ・ラ氏が、キレッキレのダンスを披露しながら、豪快にハーモニカを吹きまくり、時にその美声でシャウトするというエキサイティングなもの。腰のホルスターには、キーの異なる4〜5本のハーモニカが、拳銃のように収まっている。
シュールな味わいのMCも、一度ツボに入ったら二度と抜け出せない、中毒性に満ちたもの。ちなみにコハ・ラ氏は、その美声を活かした“ナレーター”としてのキャリアも超一級! 日本テレビ「ダウンタウンDX」、ニッポン放送「知ってる?24時。」などのテレビやラジオ番組のナレーション、クレイジーケンバンドのライブや「続ナニワ・サリバンショー」の司会など、その活動は多岐にわたる。
1950〜60年代のシカゴブルース全盛期ならともかく、今の時代に、あくまでもハーモニカを軸に、ブルースをベースにしたグルーヴィーなソウルミュージックを展開していくスマートソウルコネクションの音楽性は、世界的に見ても類を見ない、極めてオリジナリティに富んだものと言える。
歌詞に頼らないスタイルも含めて、タランティーノあたりの耳に届けば、かなり面白い展開になるのでは……というのはただの妄想だが、そんなワクワクを感じさせてくれるだけの魅力が、スマートソウルコネクションの音楽にはある。
中毒性アリ! シュール&不条理を極めたナゾの“紙芝居動画”「新国際ドラマ」
そんなコハ・ラ氏が、現在、音楽活動よりも力を入れているらしい(笑)コンテンツが、YouTube上で展開されている「新国際ドラマ」と名付けられた動画シリーズ。
「新国際ドラマ」では、原画とすべてのアテレコをコハ・ラ氏が担当。音楽はスマコネの新作『ニューアクション』収録曲が使用されている。
ラジオドラマと紙芝居を掛け合わせたような独自性に溢れたルック。シュールなストーリー。ジワジワと来るユーモア。まさしく表現者コハ・ラ・スマートの真骨頂がここにある。ドラマと組み合わされることによる楽曲の聴こえ方の違いも、裏の大きなポイントだ。
「新国際ドラマ」は現在、第5話までがYouTubeで公開中。ただし、第4話(ラストで椅子からずり落ちること請け合いの傑作!)のみ、アルバム『ニューアクション』初回盤付属の特典DVDへの収録となっている。
なんだかよくわからないがスゲエ
ハーモニカは、シンプルな演奏性(口笛を吹くのとほぼ大差ない)に加えて、その単純な構造ゆえ、楽器自体にはほとんど差が存在しない。だが、出てくるサウンドは十人十色! そこでは演奏者の個性や感性がむき出しとなり、さらに言うならその表現は“人間性”や“感情”に直結したものとなる。
そのハーモニカを体の一部のように自在に操るコハ・ラ・スマート、そして彼が率いるスマートソウルコネクション。言葉で言い表せない思いや、説明のつかない何かを聴き手に伝えるための音楽から、歌詞が削ぎ落とされていったのは、ある種の必然でもある。
秀逸な映像も含め、我々の胸を最高にザワつかせる作品の数々とパフォーマンス。なんだかよくわからないがスゲエ、というこの感覚を、ひとりでも多くの人に共有してほしい。
<おまけ>
一部で目撃情報が相次いでいる、スマートソウルコネクションの楽曲が無断使用(?)された、“ありもしないインド映画”の予告編。ほかにもこの種の動画が、いくつか流出しているようだ。この件に関して、バンド側は一切のコメントを発表していない。
リリース情報
2016.01.20 ON SALE
スマートソウルコネクション
ALBUM『ニューアクション』
ENOUGH-HO RECORDS/GLOBAL TWIST INC.
ライブ情報
スマートソウルコネクション ALBUM「ニューアクション」発売記念特別ライブ FINAL!! ワンマンライブ!!
07/02(土)東京・新宿レッドクロス
スマートソウルコネクション OFFICIAL WEBSITE
http://smartsoulconnection.com/