椎名林檎 ALBUM「浮き名」ディスクレビュー

浮き名

ALBUM

椎名林檎

浮き名

EMI Records Japan

2013.11.13 release

初回限定生産盤 ケース付きハードカバー・ブック仕様 <CD>
通常盤 <CD>


色恋沙汰のごとく官能的な“コラボ”集

初めて椎名林檎を取材した際、彼女がパブリック・イメージのような姫系アーティストではない事実にとても驚いた。自己主張するよりもむしろ一歩引いて相手を立てるような、そんな古風な女性のイメージ。その後、マボロシの坂間大介(Mummy-D)がラップ参加した「流行」の1節を聴いて、それが彼女の女性観なのだと改めて気づいた。

“女の…私に個性は要らない”

自作自演家として強烈な個性を放つ彼女だからこそのアイロニーとしても受け取れるが、才能ある音楽家たちに自らを委ね、あらたなものを生み出す競演(コラボレーション)という作業の数々。それを色恋沙汰に例え、“浮き名”と名付けられた今作を聴いて、『加爾基 精液 栗ノ花』のジャケットに映る美しい磁器を思い出した。確かあれは男性を受け止めてこそ機能する女性の体をイメージしたものと聞いた記憶があるが、『浮き名』に収められた楽曲の数々で彼女は、冨田ラボ、斎藤ネコ、SOIL&”PIMP”SESSIONS、TOWA TEI、マボロシ、レキシなどといったアクの強い男たちと互角に張り合い主張する………のではなく、自身の声や調べをそっくり彼らに委ねてみせる。例えば、向井秀徳や百々和宏、浅井健一の楽曲では純粋にコーラスや鍵盤演奏家に徹して彼らの楽曲を楚々と支え、谷口 崇の楽曲では彼の色にすっかり染まってみせる。まさに、相手次第でいかようにも変われる女性特有の驚異的な柔軟性で。

そんな今作には、ポップス界の巨匠、バート・バカラックが詞曲を書き下ろし、斎藤ネコが芳醇な1曲に仕上げた「IT WAS YOU」と、中田ヤスタカによるミレーヌ・ファルメール級のデカダン・エレポップ「熱愛発覚中」もあらたに収録。ちなみにその「熱愛発覚中」では、林檎版CAPSULEとでも言いたくなるコケットな歌声を聴かせる。一糸まとわぬ姿を目の当たりにするよりも、薄衣の狭間からなめらかな白肌を盗み見たときのほうが欲望をそそられるように、誰かの楽曲と視点を通して感じる椎名林檎は、いつにも増して可憐で、ぞくぞくするほど官能的だ。

(早川加奈子)

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