古川本舗 ALBUM「SOUP」ディスクレビュー

SOUP

ALBUM

古川本舗

SOUP

SPACE SHOWER NETWORK

2013.11.06 release

<CD>

 

真っ白なキャンパスに描かれた色とりどりの景色

幕開けの「SKIRT」は、郷愁を覚えるオルガンめいたシンセの音とノイジーなギターが、ゆったりとしたメロディを歌う草食系ボーカルを彩る、起伏に富んだ曲。様々なイメージを投げかけてくる歌のシーンによりアコギが入ったりコーラスが重なったりと、変幻自在なアレンジになっているのが面白い。ほかの曲もエレクトロニカを取り入れたオーガニックなサウンドが多く、控えめながらしっかりと伝わるものがある水彩画のような10曲が並んだ作品だ。

本当は、何の前情報もなくこの作品は聴いたほうがいい。実は私もまったくノー・チェックだったのだが、”古川本舗”がボカロPとして知られており、それ以前はバンドをやったこともあると聞いて驚きながらも納得した。ボーカロイドも音楽作成ソフトのひとつなのだから、楽器をやったり曲を作った人があらたな表現方法としてボカロを選択するのもわかる。そしてボカロを叩き台に作品の幅を広げていくのも当然アリだ。文字通り、P=プロデューサーとして自身の曲を完成させ発表していく。経路は違うけれど、例えばCorneliusやトクマルシューゴとも通じる方法ではないかと思う。

フル・アルバムとしては本作が3作目。過去の作品では野宮真貴やカヒミ・カリィ、空気公団の山崎ゆかりやSpangle call Lilli lineの大坪加奈など個性的な女性ボーカリストをフィーチャーして曲を開花させてきた。これは初音ミクから”リアル”なボーカルへの移行とも捉えられるが、今回はソロとして活動している21才のキクチリョウタを起用したことで、より古川自身に近い作品になったと言えるのではなかろうか。実際、六本木スーパーデラックスでのレコ発ライブでは、キクチが歌う新曲と、古川自身が歌う以前の曲とが自然に並んでいた。ちなみにライブでの編成は、古川とキクチがギター&ボーカル、レコーディングにも参加している和田たけあき(g)、ちびた(vo)、ボーカル&ピアノ、ベース。背景には曲毎に映像が流れ、その中には映画監督の岩井俊二によるMV「HOME」もあったことは言うまでもない。

古川本舗としての音楽的な経歴以外は明かされていないが、ライブでのMCを聴く限りは秘密主義というわけでもないようで、落ち着いた佇まいからは33才の人生経験が感じられた。こうした作品は、じっくりと評判になっていってほしいと思う。

(今井智子)

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