青葉市子 ALBUM「0」ディスクレビュー

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ALBUM

青葉市子

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ビクターエンタテインメント

2013.10.23 release

<CD>


鉄壁の“純然”であり“超個性”。

 細野晴臣、坂本龍一、小山田圭吾、クラムボン、七尾旅人。セルフ・プロデュースにも長けた彼らが共演の条件として挙げるのは、どんな色にも混じりあうことのできる水のような純然と、どんな色にも埋没することのない超個性のどちらか。突き詰めればそういうことになるのだと思うのだが、その両方を兼ね備えた希有な存在こそが、青葉市子。ようやく届けられたメジャー第1弾を聴いて、そんな想いを強くした。

 本作に収められたのは8曲。ピンと張られた半透明のナイロン弦が、5枚の爪で弾かれることで、白く太り、冷たいブレスへと交わる。そんなクラシック・ギターでの弾き語りを基調に、トンネル内でのフィールド・レコーディング(野外録音)や、彼女の出発に多大なる影響を与えたというシンガー・ソングライターであり吟遊詩人=山田庵巳のカバーも2曲収録されている。

 冒頭「いきのこり●ぼくら」で歌われるのは、滅びゆく世界の小さな息吹。“どれが僕の血なのか/わからないね”“新しい亡骸を 峡谷へと落とす”……とヘビーな描写が続くが、彼女の歌声は、その先にある明るみや、リセットすることでしか生まれ得ない地の風までを掬い上げてゆく。続く「i am POD(0%)」は大切な人の記憶媒体であろうとする女性を歌ったSF的なラブ・ソング。個人的には星新一の“ショートショート”を思わせる設定の妙にやられた。空気の音(ね)を聴かせる美しいインターバルも魅力の「いりぐちでぐち」、消え入るハーモニクスと歌声が入れ替わる瞬間にハッとさせられる「機械仕掛乃宇宙」も、ちょっとどうかと思うほどに素晴らしい。

 青葉市子の楽曲すべてに共通するのは、凛としたミニマリズムであり、だからこその浸透力だ。本作と一緒に届けられた新しいアーティスト写真には、海の青と空の青を真横文字に分かつ、煙のような水平線。そこにはただひとつの人工物も見当たらないが、かえってその静寂は、空の向こうでの終焉や海の底での戦争を思わせたりもする。タイトルは“0”。アートワークはピンク1色。それらはどんな想像も抱き止めてくれるし、揺るぎがないのにしなやかで、柔らかいのに残酷ですらある、鉄壁の“純然”であり“超個性”なのだ。

 もしあなたが豊かな緑と暮らしているなら鳥の声を、線路沿いに住んでいるなら最終電車の音と一緒になりながら、歌のイメージは、どんどんと強固になる。青葉市子の色は、僕らの色を取り込みながら、いつしかもっとも濃く、深い色となってゆくのだ。

(祭蓮しずか)

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