きのこ帝国 – アルバム『フェイクワールドワンダーランド』を引っ提げ開催されたツアー“CITY GIRL CITY BOY”のファイナルをレポート。

きのこ帝国

きのこ帝国にとって大きな転換点となった2ndフル・アルバム『フェイクワールドワンダーランド』のリリースを記念して開催されたツアー“CITY GIRL CITY BOY”。最終日の赤坂BLITZ公演で彼らが見せてくれたのは、現行の日本のロック・シーンにおける“聖域”としてのサウンドと歌が、その美学を貫きながら解放され、広がっていく感動的なライブだった。

TEXT BY 三宅正一/PHOTOGRAPHY BY Yuki Kawamoto

“人と出会って救われるということを表現したい” という思い

 きのこ帝国のライブで現出するムードが、あきらかに変様していた。このバンドのサウンドと歌が不特定多数の個々人に深く刺さり、それぞれの人生が背負う悲喜こもごもの物語と同化し、そして解放する瞬間までをもともに見届けるような、本当に素晴らしいライブだった。今さら言うまでもなく、きのこ帝国が体現する深淵な音像は、触れる者を陶酔させ、徹底的に自己内観を促すようなあり方を示してきた。その焦点深度や浸透度の高さは不変だが、1st EP『ロンググッドバイ』と1stシングル「東京」を経て、昨年10月にリリースした2ndフル・アルバム『フェイクワールドワンダーランド』で、きのこ帝国の音楽性は格段に光量を増していった。それは「東京」という記念碑的な楽曲から端を発した、佐藤の“人と出会って救われるということを表現したい” という思いが大きい。彼女の至極シンプルで切実な思いが必然的に導いたバンドの開かれたマインド。それが結実したからこそ、『フェイクワールドワンダーランド』というアルバムで強い光と、その光を射し込む窓を開くことができたのは間違いない。そして、きのこ帝国の音楽は忘れがたい過去の痛みを閉じ込めていた記憶や部屋、または誰もいない海やただ果てしなく広がる空といったイメージにとどまることなく街へ飛び出した。街にはいくつもの人生が交差する出会いがある。このツアーのタイトルに“CITY GIRL CITY BOY”と冠されていたのが何より象徴的だ。そう、すべては「東京」という楽曲から始まった。そんな今のきのこ帝国に赤坂BLITZというハコはよく似合っていたし、ここからどこまでも行けると思わせてくれた。

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自由で気高い美学をつかんで離さないロック・バンド

 開演間近の会場に入ると、Pete Kuzma & Bilalがレディオヘッドの「High & Dry」をR&Bアレンジでカバーしたトラックが流れていた(この曲が収録されているネオ・ソウルのコンピレーション・アルバム『LOST & FOUND 2』は充実の内容なのでぜひ)。
開演時間を迎え、ステージに現れた4人はまず静謐な美しさをたたえた「intro」を鳴らし、佐藤の「こんばんは、きのこ帝国です」という挨拶から「海と花束」へ。その瞬間からフロアのオーディエンスはそれぞれのあり方でステージから放たれるサウンドと歌を享受していた。ある者は目を瞑り恍惚の表情を浮かべ、ある者は佐藤とともにメロディを口ずさみ、ある者は拳を上げ、ある者はサウンドに身を任せ揺れていた。
 静寂のなかで轟音がたゆたう楽曲が重なっていた前半。これまで、きのこ帝国のライブで、楽曲に“食らった”オーディエンスがその場に倒れ込むシーンを幾度となく目撃したが、この日は僕が見たかぎり終演までそういう状態になっている人はいなかった。それはおそらく、きのこ帝国のライブ自体がオーディエンスにとって“深呼吸”するものになっているからだと思うのだ。そういう意味でも佐藤がヒップホップっぽいデモトラックを作ったことから派生したという「クロノスタシス」のように軽やかなリズムを軸にメロディを踊らせる楽曲がセットリストに加わっているのは大きい。シューゲイザーやポストロックの文脈を完全に超越した、自由で気高い美学をつかんで離さないロック・バンドとして、今のきのこ帝国はある。

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きのこ帝国はどこまでも行けるし、どこまでも見届けたい

「年明け東京1本目が今日ということで、ワンマンライブでこんなに赤坂BLITZが人でいっぱいになって、私たちはとてもうれしく思ってます。今日、ここに来てくれた皆さん本当にありがとうございます」
 佐藤が少し照れくさそうにそう言うと、大きな拍手がフロアから上がる。そんなMCを経て鳴らされた「風化する教室」は切なくもささやかな幸福感に満ちていた。きのこ帝国ならではの美意識をもって4つ打ちを取り入れた「You outside my window」に続き、最もストレートにギター・ロック然としたサウンドを走らせる「国道スロープ」で一気に解放的なムードが広がっていった。こういった解放があるからこそ、その後の「ユーリカ」や「夜鷹」といったダークなサイケデリアが浮遊する楽曲の気配にもより刺激的なコントラストがつく。「退屈しのぎ」と「夜が明けたら」という初期のきのこ帝国を代表する楽曲を、まるで真夜中から夜明けの移り変わりを描くように響かせたのもとても印象的だった。終盤を過ぎて、深いリバーブがかかったドラムをバックに佐藤が口を開く。
「きのこ帝国はあと2曲で終わります。今日来てくれた皆さん、本当にありがとうございました。心を込めてこの曲を歌います」
 そして、披露された「東京」。本編ラストの「フェイクワールドワンダーランド」。アンコールの「Telepathy/Overdrive」。その歌たちは、まるでこの日のライブと今のきのこ帝国の実相を映し出すようだった。ここから、きのこ帝国はどこまでも行けるし、どこまでも見届けたい。心からそう思わせてくれるこのバンドに、僕は今とても感謝している。

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SETLIST

01.Intro
02.海と花束
03.WHIRLPOOL
04.ラストデイ
05.クロノスタシス
06.ヴァージン・スーサイド
07.あるゆえ
08.風化する教室
09.You outside my window
10.国道スロープ
11.パラノイドパレード
12.ユーリカ
13.夜鷹
14.退屈しのぎ
15.夜が明けたら
16.疾走
17.明日にはすべてが終わるとして
18.東京
19.フェイクワールドワンダーランド
—Encore—
20.Telepathy/Overdrive

PROFILE

キノコテイコク/佐藤(vo、g)、あーちゃん(g)、谷口滋昭(b)、西村“コン”(ds)の4人組。2007年結成。結成翌年から下北沢、渋谷を中心にライブ活動を開始し、2枚のデモ音源『1st demo』『夜が明けたら』をリリース。2012年5月にデビュー・アルバム『渦になる』、2013年2月には1stフル・アルバム『eureka』、12月には1st EP『ロンググッドバイ』を発表。2014年には枚数限定で初のシングル「東京」を、そして同曲を収めた2ndフル・アルバム『フェイクワールドワンダーランド』をリリースしている。

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