椎名林檎 – 昨年末に開催された“椎名林檎アリーナツアー「林檎博’14 -年女の逆襲-」”のマリンメッセ福岡ファイナル公演からみる音楽家・椎名林檎。

椎名林檎

昨年11月にリリースされた5年半ぶりのオリジナル・アルバム『日出処』を携えて開催された椎名林檎のアリーナ・ツアー“—年女の逆襲—”が、2014年12月21日の福岡マリンメッセ公演でファイナルを迎えた。その模様をレポートしながら、椎名がこのツアーで何を体現しようとしたのかを考察する。

TEXT BY 三宅正一 / PHOTOGRAPHY BY 荒井俊哉

妥協なき創造性をもって
時代の鏡となるポップ・ミュージックをクリエイトする

 ああ、このコンサートは何度も観たい。せめてあと1回は目撃せねば。昨年11月29日にスタートした椎名林檎のアリーナ・ツアー“林檎博’14 -年女の逆襲-”。2日目のさいたまスーパーアリーナ公演の終演と同時に真っ先に思ったのは、そんなことだった。率直に、はっきりと、そう思った。
 今回のツアーは3会場5本のみ。さいたまスーパーアリーナで2本、大阪城ホールで2本、そしてファイナルは椎名の地元であるマリンメッセ福岡で開催された。であれば、ファイナルの福岡公演に足を運ぶしかないと思い立った。
 椎名が昨年11月にリリースした約5年半ぶりのオリジナル・アルバム『日出処』。本作は、これまで彼女が大衆音楽家として歩んできた道のりを総括し、また絶え間なく更新している豊潤かつ刺激的なサウンドと歌の贅を尽くしながら、鮮烈な最新の声明を掲げる問答無用の大傑作だった。本作に触れる度に目が覚めるとはまさにこういう感覚なのだろう、と実感させられる。妥協なき創造性をもって時代の鏡となるポップ・ミュージックをクリエイトするという行為、その地平はかくも果てしないということ。椎名はそこに身を置くことが自身の宿命だと悟っている。だからこそ、彼女は様々なジャンルのメソッドを独創的な方法論で煮詰め、昇華し、総合音楽としての歌謡を極める。さらに、シンメトリックな構成で楽曲群を編むことで、徹底的にニュートラルな態度と所信を表明する。『日出処』という作品は、そういった椎名林檎の矜持がまざまざと示されていた。そして、今回のツアー“-年女の逆襲-”はその矜持を余すところなく体現し、観る者に体感させるものだった。

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“今”という概念を擬人化した至上の愛の歌が、会場に響く

 オープニングを飾ったのは「今」だった。すでに過去のコンサートでも披露されていたこの楽曲は、『日出処』の真ん中に位置する。歌とアコーディオンのみで始まる演奏とともに紗幕に映像が映し出される。映画さながらのクレジット・タイトルが流れ、次いでビッグバン後の宇宙と生命が誕生する起源を思わせる壮大な映像が映し出される。過去と未来のあいだで身をすくめながら、しかしそれに抗おうとしてない“今”という概念を擬人化した至上の愛の歌が、会場に響く。
 紗幕が落ち、ストリングスやホーンセクションを含むビッグ・バンドのメンバーの姿は確認できるが、そこに椎名はいない。観客の誰もが椎名の姿を確認しようとしていると、アリーナの中央頭上に射す青のレーザー光線に導かれるように、花道から小舟に乗って歌いながら主役が現れる。序盤の演出からもう、いきなりやられた。
 椎名の歌声は、明らかにさいたまスーパーアリーナ公演よりも張りがあり、伸びやかだ。続く「葬列」はシタール風の音色が鳴る浮雲(長岡亮介/ペトロールズ)のギターがサウンド全体を覆い、エキゾチックでありながら厳格なムードが会場を支配する。ちなみにこのツアーでは、浮雲の歌唱やコーラス、ラップまでもが随所でフィーチャーされており、彼のみクレジット上で“事変ネーム”をまとっていたのも印象的だった。時間軸が前後してしまうが、東京事変の「能動的三分間」もプレイされたことに観客は歓喜した。

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最新の最高は今、ここにある

 ここでやはり、と思う。椎名はこのツアーで自身の特別な立ち位置を決定的なものにした『無罪モラトリアム』と『勝訴ストリップ』の収録曲を意図的に排除したうえで観客の耳目を魅了するという明確な意図があったのではないだろうか。それは、パブリック・イメージや音楽的なアプローチも含めて“脱ロック屋”(東京事変はバンド形態で極上のポップ・ミュージックを追求するのが命題であって、決して“ロック・バンド”をやるのが目的ではない)を果たしてからの椎名林檎と言ってもいい。だからこそ、今の椎名が絶好の局面でエレキギターをストロークしながら歌唱する姿を見ると余計にグッとくる。最新の最高は今、ここにある。セットリストからも椎名のそんな自負を感じた。

“お顔を。さあ、拝見させて下さい。”

 椎名が「葬列」の最後の一節を締めると、「赤道を越えたら」へ。ここからステージは一気に開放的な様相を見せていく。『日出処』の収録曲を軸に意外性に富んだ、しかしなるほどと合点がいく楽曲が連なっていった。
 総勢37人から成る“銀河帝国楽団”と名付けられた豪奢な楽隊は、間違いなく国内ポピュラー・ミュージック・シーンの最高峰と言える調べと響きで観客を悦楽に浸らせた。そのなかにあって、Aya Bambiというふたりのダンサーの存在感はまさに目を引くものがあった。性差を超越した色気で肉体を躍動させるAya Bambiは、ステージの中央で女のすごみを放出する椎名ととても相性がいい。 

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椎名某が林檎林檎の人生を綴る一代記のよう

 椎名はブロックごとに衣装チェンジをし、まるで音楽に人生を捧げるためにこの世に生れ落ちたひとりの女が、やがて愛を誓った異性と契りを交わし、離別を経て、華やかな舞台で人々を熱狂させるまでのドラマを描くようにして歌を紡いだ。それは、椎名某が林檎林檎の人生を綴る一代記のようでもあった。そういえば「JL005便で」の演奏中。椎名がハンドマイクを落とし、“ゴンッ!”という鈍い音が会場に鳴り響いた瞬間があった。しかし、椎名はそんなハプニングにまったく動じず、なんともクールに、どこか挑発的にも見える所作でマイクのコードをたぐり寄せ、何もなかったかのようにふたたび歌い始めたのだ。これにはシビれた。
 終盤。「NIPPON」を皮切りに椎名の歌とバンドの演奏はエモーショナルに振り切れていく。「自由へ道連れ」ではアリーナの花道をスケボーに乗って駆け抜け、「流行」では“キャバレーBON VOYAGE” を出現させた。そして、本編ラストは『日出処』の1曲目「静かなる逆襲」。ゴールドのハイレグルックに身を包み背中に大きな翼をつけた椎名の不敵な仕草と歌唱に観客は気圧され、感嘆の声を上げるしかなかった。

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果たして椎名にとっての“逆襲”とは何か?

「ただいま帰りました。来年からはもっと頻繁にお目にかかりたいと思ってます」

 アンコール。大ラスの「ありきたりな女」の前に用意された唯一のMCでは、福岡の観客と“来年の逢瀬”を約束した。今回のツアーを目撃して、もしかしたら椎名は近い将来に表舞台から姿を消すことを念頭に浮かべているのではないか? と懸念したファンも少なくないと思う。もちろん、椎名自身はまだまだ幕引きするつもりなどないだろうし、事実、ニュー・シングル「至上の人生」のリリースも発表されたばかりだ。だが、「—年女の逆襲—」はそれほどの説得力と集大成感に満ちた内容だった。ここまでやらなければ『日出処』の実演は完結しなかったし、ここまでやってこその“逆襲”だった。
 では、果たして椎名にとっての“逆襲”とは何か? それは、日本の音楽シーンの現状に対して打ち鳴らす警鐘とも捉えられるが、しかしそのもっと奥には、この国の市井に生きるすべての民よ、誰にもスポイルされることなく精一杯その命を燃やし、一度きりの人生を謳歌しようではないか——そんな声が聴こえる。それは、今回のツアーのセットリストに入らなかった『日出処』のラスト・ナンバー「ありあまる富」で歌われているメッセージとも重なる。きっと、椎名林檎の“逆襲”はまだまだ続く。

SETLIST

01. 今
02. 葬列
03. 赤道を越えたら
04. 都合のいい身体
05. やっつけ仕事
06. 走れゎナンバー
07. 渦中の女
08. 遭難
09. JL005便で
10. 私の愛するひと
11. 禁じられた遊び
12. 暗夜の心中立て
13. Between today and tomorrow
14. 決定的三分間
15. 能動的三分間
16. ちちんぷいぷい
17. 密偵物語
18. 殺し屋危機一髪
19. 望遠鏡の外の景色
20. 最果てが見たい
21. NIPPON
22. 自由へ道連れ
23. 流行
24. 主演の女
25. 静かなる逆襲
<アンコール>
26. マヤカシ優男
27. ありきたりな女

DISC INFORMATION

DVD&Blu-ray 2015.3.18 release
「(生)林檎博’14 —年女の逆襲—」
Virgin Records

<DVD>
<Blu-ray>
※ともにケース付き3Dレンチキュラー・ハードカバー・ブック仕様/年女のパンフ付

<収録曲>
今/葬列/赤道を越えたら/都合のいい身体/やっつけ仕事/走れゎナンバー/渦中の男/遭難/JL005便で
/私の愛するひと/禁じられた遊び/暗夜の心中立て/BETWEEN TODAY AND TOMORROW/決定的三分間
/能動的三分間/ちちんぷいぷい/密偵物語/殺し屋危機一髪/望遠鏡の外の景色/最果てが見たい
/NIPPON/自由へ道連れ/流行/主演の女/静かなる逆襲/マヤカシ優男/ありきたりな女

※作品の正式タイトルは「生」の文字を○で囲む

SINGLE 2015.2.25 On Sale
「至上の人生」
Virgin Records
<CD>
全2曲収録予定

PROFILE

シイナリンゴ/1978年生まれ、福岡出身。1998年シングル「幸福論」でメジャーデ・ビュー。1999年に発表した1stアルバム「無罪モラトリアム」、2ndアルバム「勝訴ストリップ」が共にミリオン・セールスを記録。2004~2012年は東京事変の活動も並行。日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞した「さくらん」、NODA・MAP「エッグ」を始め、映画、舞台、テレビ・ドラマの主題歌など幅広く手がけている。2009年、文化庁主催芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。2013年、デビュー15周年を記念してコラボレーション・ベスト・アルバム「浮き名」とライブ・ベスト・アルバム「蜜月抄」、2014年にセルフ・カバー・アルバム「逆輸入 ~港湾局~」を発表。6月にはNHKサッカーテーマのシングル「NIPPON」を、11月にはアルバム『日出処』を発表。今年2月25日には日本テレビ系 新水曜ドラマ「○○妻」主題歌のニュー・シングル「至上の人生」が届く。

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