ヒトリエ – 待望の1stフル・アルバム『WONDER and WONDER』。今作が完成するまでに起こった様々な出来事を話してくれた。

ヒトリエ

ヒトリエが1stフル・アルバム『WONDER and WONDER』をリリースする。
改めて唯一無二のバンドだと痛感させられる一枚だ。とにかく、ビリビリと痺れるような切迫感が全編にみなぎっている。否応なしに興奮のスイッチを押されるような全12曲。斬り込んでくる角度は様々だが、ひたすら鋭角的なリフとキャッチーなメロディが飛び込んでくる。
メンバー4人に話を聞いたところによると、どうやら今回のアルバムはすんなりと完成したものではなかったよう。かなりの難産だったようだ。当初の曲作りの方法論すら全部かなぐり捨てるような制作過程だったという。
でも、それはヒトリエというバンドが本当の意味でスタート地点に立ったということなのだろう。もともとボカロPとして人気を得ていたwowakaを中心に“バンドで、身体を通して音楽を表現したい”と始まったのが、このバンドだ。メンバーの一人ひとりがぶつかり合って鳴らす塊のようなロック。まさに、その衝動が形になっている。

INTERVIEW & TEXT BY 柴 那典


進んでた道が行き止まりになってしまった

──アルバム、聴いててかなりアドレナリンが出た。かなり素晴らしいと思います、これ。

イガラシ うれしいです!

──かなり照準を絞って、研ぎ澄まして綿密に作った一枚という印象があるんですけれども。これ、どういうところがスタート地点になったんでしょう?

イガラシ 実はですね、今回、いろんな紆余曲折があったんです。
wowaka 最初はそういう綿密なものを作ろうと思ってたんですよ。前回のミニ・アルバムを2月にリリースして、その次はコンセプトを持って、やりたいことを詰め込みまくって、極端なものを作ろうっていう意思を固く持っていたんですよね。

──そこから紆余曲折があった?

wowaka そうですね。かなり大変でした。簡単に言うと、最初に決めたそのモード、その感じで曲が全然作れなくなっちゃった時期があって。最初その感じで2曲を書いて、レコーディングして、でもその段階で自分の中でいろんなものの整合性がとれなくなって。どうにもこうにもならなくなっちゃった時期が2ヵ月くらいあって。それが5月とか6月くらいだったかな。

──4月はワンマン・ツアーもありましたよね。リキッドルームでのライブも観ましたけど、相当盛り上がってたし、バンドの調子も良さそうだったけど。

wowaka 今思うと、そこでモードが変わってたんですよね。今年に入って、ライブの数がめちゃめちゃ増えて。お客さんの数も格段に増えたんですよ。それで、まず自分が弾いて歌うことがすごく楽しくなってきた。その集大成が4月のワンマンだったんですね。作品を作るよりも先にバンドで演奏して、僕が僕として歌うことのほうが飲み込めるようになった。でも、今までそういう方法論で制作を全然していなかったんです。

──前のインタビューでも言ってましたよね。架空の女の子を立てて、その子に喋らせるようにして曲を書いているって。

wowaka そうです。架空の女の子を立てて、その子に喋らせたり、その子が思うことを想像するなりして、そういうフィルターを通して書いていた。言葉も音もそういう作り方で、いわば俯瞰した目線で作ったんです。

──箱庭を作るような感覚だった。

wowaka そういう作り方でした。でも、ライブをやっていくなかで、自分の気持ちの持ち方も含めて、そのやり方と整合性が取れなくなってきた。それで、ワケがわからなくなっちゃったんですよね。“これはなんだ?”と。で、ひとりでごちゃごちゃ考える時間が長くなって、制作がストップしちゃったんですね。

──それが紆余曲折の要因だった。

イガラシ 最初にそれがありました。2月に作り始めたんですけれど、当初の指針通りに進んでた道が行き止まりになってしまったという。

──でも、それって明らかにヒトリエが“バンド”になったからですよね?

wowaka そうそう、そうだと思います。
イガラシ 当時は全然そんなこともわかってなかったけどね。
ゆーまお それどころじゃなかった。“どうしよう! 曲ができないぞ!”みたいな(笑)。
wowaka それで、無理矢理にでも、ケツ叩かれてでも曲を作るっていう道にシフトしていったんですよね。にっちもさっちもいかない状態だったから。そこで、みんなが真剣になってくれていて。当たり前だけど(笑)。
イガラシ なってた、なってた(笑)。
wowaka 当初はそういうことをするのはどうかと思ってたんです。でも、迷惑をを垂れ流しまくってる状態でもあったんで、そういうのはさておきやったんですよ。やっていく中で、自分ができること、得意なこと、無理なことも飲み込みながら生み落としていった。だから、最初に柴さんが言ったような“研ぎ澄まして、綿密に作っていった”というものとは真逆なんですよ。

──なるほど。状況からして真逆だった。

wowaka そうです。勢いと切迫感とヤバイぞっていうムードと、そういう中で生まれたもので。でもその結果、そういうものとして受け取られるっていうのはバンドとしての成長の証でもあるのかなって思います。ただそれは今だから言えることですけどね。本当にヤバかったので(笑)。

底のほうにある快楽、原始的な快楽を
演奏で形にできるのがいちばんかっこいい

──ヒトリエは今年夏フェスにもたくさん出ましたよね。その体験には今までになかったと思うんですけれど。

wowaka そうですね。初めてでした。

──それを経て見えてくるものはどういうものでした?

ゆーまお 自分の印象としては、予想以上でしたね。“なんだ、これ”みたいな感じ。北海道に行ったときも、みんなギャンギャンに楽しんでて、クソうるさくて(笑)。
シノダ 意外でしたね。初めて行った場所だったのにこんなに盛り上がるんだって。

──そこでバンド・シーンの現状、お客さんの盛り上がり方も目の当たりにした。

イガラシ しました。

──それはどういうインプットになりましたか?

イガラシ 一言で言うと、バンドがお客さんに親切だなっていうことを思いましたね。特にフェスだと、親切に提示された形で盛り上がってる。でも俺らって、そういう感じじゃないんですよね。ポップでキャッチーなラインを目指して作ってますけど、曲もライブのやり方も親切じゃなくて。でも、それでいきたいなって思いました。

──なるほど。確かにヒトリエの音楽は刺激に満ちてるけれど、お客さんにそれをわかりやすく提示するタイプじゃない。

wowaka そうなんです。難しいんですけど、すごく享楽主義的なバンドが多いじゃないですか? そういうことは意識として僕らは出来ないし、やるべきではないと思うし。その中で勝手に生まれるもうちょっと底のほうにある快楽、原始的な快楽を演奏で形にできるのがいちばんかっこいいと思ってるんですよ。そういうところにこのバンドの役割を持っていきたいと思うし。
ゆーまお そこで勝負していきたいよね。

──結果論ですけど、制作において当初のコンセプチュアルな方法論が行き詰まったこと、フェスでのほかのバンドの盛り上げ方を目の当たりにしたことが、ヒトリエのアイデンティティを浮き彫りにしたんじゃないかと思うんです。それがこのアルバムに結実したんじゃないか、と。

wowaka 定義し直した感じがしますね。結果的にですけど。
イガラシ でもそれは今だから思えることですね。当時そんなこと考える余裕もなかったんですよ。曲が作れなくなったっていう話になってから、あらゆる曲の作り方を試したんで。全部やろうみたいな。曲と呼べる単位じゃないですけど、30曲くらいは書いたんで。

──とにかく反射神経で作っていった?

イガラシ そうですね。スタジオに集まって反射神経で作るっていうこともやったし、あとは細かく期限を定めて今までどおりデモを作ってもらうっていうこともやったし。デモを作ってる現場に俺も行って、後ろからヤイヤイ言いながらやったり。とにかく24時間ずっと曲を作ろうみたいな感じでした。
シノダ フェスに出ても翌日にもまた作曲みたいな。作曲、作曲、作曲、フェス、作曲みたいな。ぎゅうぎゅうの状態でした。
ゆーまお で、結果的に入れたいけど入れられない曲が出てきたんですよ。
イガラシ 作りすぎたっていう(笑)。

──アルバムの全体像が見えてきたのはいつ頃のことでした?

wowaka 本当に最後のほうだと思いますね。12曲が揃ってからかな。

──なるほどね。前に話を聞いたとき、“ヒトリエっていうバンドでやりたいことは何ですか?”ってwowakaさんに聞いたことがあったんです。そうしたら「ヒリヒリしたもの、メンバーが一人ひとりぶつかっているもの」って言っていた。そして、今回は実際にそういう状況になった。

wowaka 確かに。意図してやったじゃないですけどね(笑)。もしそうだったらみんな怒っていいと思う(笑)。

──『WONDER and WONDER』っていうアルバム・タイトルは最後に付けた?

wowaka そうですね、完全に最後です。

──この言葉は、どういう象徴なんですか?

wowaka 言いたいことを迷ってる、どうにもならないっていう感じですね。そもそも「センスレス・ワンダー」のときもそうですけど、ワンダーっていう言葉がものすごく好きで。いろんなことに対して疑問を投げかけて、それが解決しない感じとか。結局、こういう切羽詰まった状況で12曲作ったわけで。いろんな方法論、いろんな状態で頑張って曲を作ってたんですよ。でも、振り返ったら、言ってることは正直何も変わってない。そもそも自分がテーマにしていることは変わってなかった。そういうことを再確認したという意味もあって、タイトルにつけようと思ったんです。言葉の持ってるポップさもすごく好きで、ポジティブな意味を自分は捉えてるんですよね。“ワンダフル”という言葉にもなるし、結果的にキャッチーでオープンなものになっている認識もあったんで。

──なるほど。そういう話を聞いてから「センスレス・ワンダー」の“どうしたいの? ねえ、どうしたい?”って歌詞を読むと、まるで伏線を張っていたかのように思える。

イガラシ もし伏線張ってたんだよとか言われたら、ぶん殴りますけどね(笑)。
一同 ははははは!
イガラシ いろんなものを犠牲にしすぎだよ、っていう(笑)。

──でもそういう、“答えが出ない”っていうことがwowakaさんの創作の根底にあるテーマでもある、と。

wowaka そうですね。そうだし、出なかった結果そういうモードになったんだろうし、出ないなかでもがいた結果これができたし。答えは出なくていいものだと思うしっていうところの結実です。

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