岡村靖幸 SINGLE「彼氏になって優しくなって」ディスクレビュー

彼氏になって優しくなって

SINGLE

岡村靖幸

彼氏になって優しくなって

V4 Record

2014.11.12 release

<CD>


バブルと恋と岡村靖幸

 改めて岡村靖幸の経歴を調べてみると、彼のデビューは1986年。私が生まれた頃に、そのキャリアをスタートさせている。昨今では、Base Ball Bearの小出祐介とのコラボ・シングルのリリースや、アニメの主題歌を手がけるなどして、岡村靖幸の全盛期を知らない世代もその魅力に触れることとなった。かと言って、彼がその世代へフォーカスを寄せた楽曲を打ち出してきたかといえば、そうではないだろう。岡村靖幸の音楽はいつの世でも、クラブでA.M.3:00に人々を踊り狂わせる、煌びやかな’80年代後半から’90年代初頭の、あのバブルにうってつけな極上のポップスだ。

 バブルという時代は、ひとつの見方をすれば、恋という現象の特徴を当て込んだような時代でもある。傲慢と自己愛に満ちていて、ロマンチックで刹那的。一方で、恋を歌わせれば誰しも右に出ることができない存在が岡村靖幸だ。まさに、恋のような時代=バブルに愛されたアーティスト。いやむしろ、彼が時代を愛した、というほうがシックリくる気がする。岡村靖幸は、彼の音楽を作る上で最適であり、かつその音楽が、最も絶妙なスポットライトを浴びる時代に照準を合わせて、その経歴をスタートさせたのではないか? ぶっ飛んだ運命論だとは思うけれど、だって、彼の音はこんなにもバブリーで、今風なわけではないのに、古臭くない。彼の音楽は、流行のような一過性のものの、さらにその上のレイヤーに存在している。時代さえも飲み込んだ、恋と青春の偶像。ああ、もはや絶対的すぎて、神々しいぞ岡村靖幸。

 なぜ、こんな非科学的な解説を論じたかと言うと、そんな存在が作り出した音楽なんて、私が論ずるにも評するにもおこがましいからだ。圧倒的すぎるのだ。表題曲の「彼氏になって優しくなって」は、イントロを聴けば一瞬で、スーツに眼鏡姿でキレキレに踊る岡村靖幸の姿が眼前に浮かぶ、最高のポップス。では、そういうバブリーな歌しか作れないのか? というような愚問を、クールに払拭するのがカップリングの「ちぎれた夜」だ。アコースティック編成で優しく歌いあげられるこの3分弱のバラッドを聴けば、彼の卓越した音楽的センスと歌唱力は、万能であることがわかるだろう。その才能とギャップに、ベイベたちはまたやられてしまう。

 彼がこういったダンサブルな楽曲を作り出すのは、やはりライブというものに重きを置いているからだろう。その歴史を考えれば、抑圧されていた時期のブーストを解放する欲求は当然であろうし、奇しくもそれが重要なエネルギー源になっているとも思う。岡村靖幸と言えば、やはり生だ。今作も、ぜひ汗まみれで踊りながら、彼の生を味わいたい。

(小島双葉)

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