田中茉裕 ALBUM「I’m Here」ディスクレビュー

I’m Here

ALBUM

田中茉裕

I’m Here

グレートハンティング

2014.11.12 release

<CD>


つらいことにもちゃんと向き合いそれでも明日を探してる

 ミニ・アルバム『小さなリンジー』を聴いたときは心が踊った。規範にとらわれない大きなメロディと、それまであまり聞いたことなかった、ビブラートがよりラウドな声の容積を引き出すかのような歌声、そして丹精なピアノの響きに魅了されたのだ(演奏が達者だと思ったらピアノを本格的に学んでいる人だった)。さっそくライブにお邪魔して、インタビューもさせていただいた。当時の彼女はまだ高校生。物静かな女の子だった。 しかしその後、体調のこともあり創作活動をお休みしていたらしい。でも今回、復活する。制作半ばだったアルバムも見事完成し、これが期待に違わぬ出来映えであった。その際、大きな力となったのが鈴木慶一の存在だ。彼のブロデュースなくしてこのクオリティはなかった。

 “リンジー”と比べてみる。まず前作は、あっけらかんとしてて無邪気な側面もあった。あの頃の彼女は“それなりに”という言葉を結論に代えモノゴトを解決できたりもした(「それなりに」)。しかし今回は、成長過程で感じるようになる人生の不条理にも触れ、辛いことにもちゃんと向き合い、それでも明日を探している。

 誰にも似てないメロディ感覚は1曲目の「夕日のリリー」から際立っている。サビから始まったのかと思うのだけど、でも聴き終わるとそうとも言いきれない新鮮な構成だとわかる。冒頭の歌詞の小さな女の子の描写と終盤の“ずっと抱っこ”したいと願う人物は同一なのだろうか、と、イメージがどんどん広がる歌詞の世界観も素敵だ。2曲目「5月の太陽」はプログラミングによる軽快なリズム・アレンジ。これまでは弾き語りの印象が強かった。クレジットを見ると、鈴木“師匠”のもと、彼女自身もより音作りに積極的に関わっている様子。4曲目「ゆるして」はラストにデモ音源もあるが、もちろんこちらのほうが断然いい。声を張ったとき、感情が無軌道に迸るかのような彼女の声の瞬間こそにぐっと来る、というファンもいるだろうけど、適度の抑制はより多くの人によりたくさんのものを届けると信じている。低く垂れ込める雲の隙間に光りを感じるかのようなストリングス・アレンジが実にリリカルな5曲目「あの風は」は、彼女流の応援ソング、だろうか。圧巻は8曲目「夕焼け色の風」。疑心暗鬼になりがちなとき、こんな歌が聞えてきたら、きっと心に何種類もの栄養をもたらしてくれるだろう。これまた冒頭から実に彫りの深いメロディが魅力である。これからも自分のペースで音楽活動を続けていってほしい。なぜならそこには、唯一無二の“マヒロ・ワールド”があるのだから。

(小貫信昭 )

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