奇妙礼太郎トラベルスイング楽団 ALBUM「東京ブギウギ」ディスクレビュー

東京ブギウギ

ALBUM

奇妙礼太郎トラベルスイング楽団

東京ブギウギ

P-VINE RECORDS

2014.10.02 release

<CD>


リアル・ソウル・シンガーは名曲泥棒

 奇妙礼太郎とは、リアル・ソウル・シンガーである——。そんなことを本人に言ったら、きっと一笑に付されると思う。“何を言うてはるんですか”と。でも、事実だから仕方がない。今、この国でこんなに自由に音楽と生きて、こんなに自由に名曲の旋律を、言葉を、自分のものにしてしまう歌うたいがほかにいるだろうか。奇妙礼太郎の歌にはつまり、本能と魂しか宿っていない。技巧も背景も時間軸も超越した場所で奇妙礼太郎は歌を体現している。人が人を好きになり、触れたいと思い、互いの欲求が通じ合えばキスをし、やがてセックスする。それと同じように奇妙礼太郎は理屈抜きに愛した歌をうたい、その歌に愛されている。積極的に人が書いた歌をうたう。長らく彼の代表曲だと思われていた「君が誰かの彼女になりくさっても」が、実はSundayカミデ(ワンダフルボーイズ、天才バンド)の楽曲だったということは最近になってよく知られるようになったが、それほど奇妙礼太郎があの曲を完璧に自分のものにしていたということだ。そして、奇妙礼太郎がCMソングで歌う「ラジオ体操の歌」や「LOVE」「オー・シャンゼリゼ」などに顕著だが、とにかくオールディーズやタイムレスな名曲との相性が抜群にいい。15秒なり30秒なりで聴く者の耳を掌握してみせる。

 昨年、本媒体で奇妙礼太郎にインタビューしたときに彼はあっけらかんとこう言ってみせた。

「基本的には自分で曲を書きたくないんですよ。いつも誰かに書いてもらいたいと思っていて(笑)。好きな作家さんはたくさんいますから。(中略)人の曲を歌うほうが自由なときもありますしね。だから、ニュー・ミュージックとかの前のルールでやりたいと思うんですよね」  

 奇妙礼太郎はソロ、天才バンド、アニメーションズ、そしてこの奇妙礼太郎トラベルスイング楽団と、複数の活動名義を持ち、日常の一部として間断なくライブを行っているのだが、その有り様はまるで“現代の流し”のようだ。そんな奇妙礼太郎にとってトラベルスイング楽団はもっとも軽やかにボーカリストに徹することができるバンドであり、この『東京ブギウギ』というカバー・アルバムは、心おきなく自らの歌を預けられるビッグ・バンドを従えてカラオケに興じているような楽しさに満ちている。選曲、完璧。曲順、絶妙。編曲、瀟酒。歌唱、快楽。奇妙礼太郎は、またもやさりげない立ち居振る舞いで名盤を生んだ。でも、彼はきっとこう言うだろう。“これ、全部、人の名曲ですからね”と。

(三宅正一)

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