椎名林檎 ALBUM「日出処」ディスクレビュー

日出処

ALBUM

椎名林檎

日出処

Virgin Records

2014.11.05 release

初回限定盤 Blu-ray付き/写真 <CD+DVD>
初回限定盤 DVD付き/写真 <CD+DVD>
通常盤 <CD>


女という音楽家、椎名林檎による贅沢すぎる王道玉手箱

 椎名林檎のニュー・アルバム『日出処』が完成した。オリジナル・アルバムとしては、前作『三文ゴシップ』から約5年半ぶり。その間に彼女は、音楽家として朝ドラ主題歌を筆頭とする数々の楽曲提供の依頼に応え、ゴージャスなライブ・パフォーマンスを披露し、そして女児の母となった。名実ともにすべてを持ち備えた彼女の今の音楽家としての原動力とは一体何なのか?

 村田陽一のホーン・アレンジと金原千恵子を筆頭とするストリングスの音色が、疾走感たっぷりに絡み合う贅沢過ぎる生音ナンバー「ちちんぷいぷい」。そこでジャズ・シンガーのようにスウィングする声が歌い語るように、彼女は富も名声も愛も地位も子孫も美貌も人脈も、もはやすべてを持ち備えた成熟した大人の女性だ。朝の山手通りで煙草の空き箱を捨てた青い時代の焦燥感も渇望も、もはや遠い過去。何かにせき立てられるように曲を書き、燃えたぎる思いを歌にして吐露する必要は多分、ない。

 それでも彼女が真摯に音楽制作に向き合い続ける理由はただひとつ。椎名林檎が素晴らしい才能を持つ優れた音楽家だからにほかならない。NHKを筆頭とする名だたるクライアントたちからの依頼に応えた楽曲が詰まったこの『日出処』を聴けば、間違いなくそれを確信する。TSUTAYAとかSTARBUCKSといったあまりにもポピュラーな企業名をしれっとキャッチーに歌ってみせる「静かなる逆襲」で幕開ける『日出処』。日出処とは、太陽が昇る場所のこと。つまりこれは、スポットライトに照らされた王道を目指す音楽家、椎名林檎のポップス作品集、ということなのだ。

 ロダンの弟子の中でもずば抜けた才能と可能性を持ち備えていたにも関わらず、カミーユ・クローデルは彼にその作品と人生を奪われしまった。しかし椎名林檎は、“箒や呪文などもう使わないのよ”(「ちちんぷいぷい」)、“わたしは今やただの女。”(「ありきたりな女」と歌って男たちの嫉妬をさらりと交わしたかと思えば、“わたしは今日も合法でキまれんの痺れてんの様見さらせ”(「静かなる逆襲」)と、緩んだその頬に平手打ちをお見舞いする。

 はて。受け取って懐妊する女性は、作品を生み出す芸術家になる必要がないと言ったのは誰だったか。

(早川加奈子)

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