竹原ピストル ALBUM「BEST BOUT」ディスクレビュー

BEST BOUT

ALBUM

竹原ピストル

BEST BOUT

ビクターエンタテインメント

2014.10.22 release


さあ、この歌を聴いて、どこまでも拳を伸ばそうぜ

 擬音で表現するならば、“ガツン”とか“ズシッ”。竹原ピストルの最新アルバム『BEST BOUT』には腰の入ったパンチのような威力のある歌が並んでいる。それも頭を痺れさせるのではなくて、聴き手を鼓舞し、覚醒させる歌だ。彼は大学時代、ボクシング部で主将を務め、全日本選手権に2度出場しているのだが、彼の歌のパワーの原動力はそうした経歴ゆえではなくて、歌詞に嘘がないから、体を張って本気で歌っているから、そしてライブで鍛えられてきたからだろう。ハスキーな歌声は真剣勝負の歌を数多く歌い込んできた証。“歌に説得力がある”という言い方はこの作品にこそふさわしいと思うのだ。彼は2人組のバンド、野孤禅で2003年にメジャー・デビューし、2009年に解散したのちはソロで毎年250〜300本のペースで日本各地でライブ活動を展開してきている。「踏みしめて 踏みにじって 会いに来たんだ」と歌われる1曲目の「RAIN」は旅の日々から生まれた歌なのだろう。雨の冷たさだけではなく、包容力や浄化作用までもが感じ取れるところが素晴らしい。

 音楽性と人間性とは基本的には別のものであり、音楽は音楽によってのみ評価されるべきだが、音楽性と人間性とが密接に絡み合って成立しているケースもある。彼の音楽はその最たるものだろう。「俺のアディダス〜人としての志〜」や「LIVE IN 和歌山」は特定の人間との約束の歌であり、誓いの歌と言えそうだ。約束を一生守り続ける覚悟がなければ、歌にすることはできない。「カウント10」も決して諦めることのない人間が歌うからこそ、不屈の光を放っている。もちろんどんなに嘘がなくても、音楽自体がしょぼかったら、説得力は生まれない。彼は研ぎ澄まされた言葉を強靱なリズムに乗せている。詩的な言葉を美しいメロディとともに紡いでいる。基本は歌のギターの弾き語りだが、ラップやポエトリーリーディング的な表現も導入している。フォーク、ロック、ヒップホップ、ファンク、アンビエントなど、多彩なジャンルの背景もうかがえて、音楽的にも豊かだ。野孤禅時代の「カモメ」も歌われているのだが、表現力は格段に増していて、底知れない大きな曲へと成長している。

 鋭い、深いというだけでなく、温かいというのも彼の音楽の大きな魅力となっている。彼の音楽がここまで深く入ってくるのはプライド、意地、名誉、成功という自己レベルで完結せずに、誰かに届けたい、誰かのために歌いたいということが大きなモチベーションとなっているからなのではないだろうか。「カウント10」の「もう一度、どこまでも拳を伸ばそうぜ。」というフレーズに強く揺さぶられるのは歌の根底に愛があるから。彼の音楽はたれさがった拳を空へと向ける力を備えている。

(長谷川誠)

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

M-ON! MUSICの最新情報をお届けします。

この記事に関するキーワード

この記事を書いた人