古川本舗 ALBUM「Hail against the barn door」ディスクレビュー

Hail against the barn door

ALBUM

古川本舗

Hail against the barn door

Head.Q.music

2014.10.22 release

<CD>


稀代のサウンドメーカーによる慈愛と啓発に満ちた傑作

 様々なボーカリストを迎えた1st&2ndから一変、キクチリョウタの歌をメインに据えた前作と、聴き手を心地よく裏切りつつ高水準な作品を維持し続ける古川本舗。そして本作。オープニングの「21g」がたまらなく名曲である。押しつけがましくないけど、心にしっかり残るメロディ。夢と現実が合わせ鏡になったような歌詞……。キクチリョウタの感情の厚みを感じさせるボーカルも最高だ。でもウットリしてると、次の「ライフタイムサウンドトラック」は曲名どおり、都市のビビッドなリアルライフを描くダンサブルな作品。この曲順も、いわゆる心地よい裏切りと言えるだろう。

「問うてはその応え」では歌詞の“揺れながら”をまさに具現化したように心と心の乖離を描き、でも「ナイトクルージン」は勢いで“踊ろうよベイビー”なんて叫ぶほど能動的。「情熱と残響」以下の3曲はちびた(女性です)、そして古川本人の歌声を堪能。曲自体はミニマル的に抑え、でもLRに広がるポストロック的電子音の巧みさに耳が向く「coma white」から、“納屋の引き戸を叩く雹(ひょう)の群れ”とでも訳せるタイトル曲へ。個人の心でも社会でも閉塞状態の時は、外からノックしてくれる何かが契機となる。この歌は今のあなた自身のことでもあり今の日本を歌っているとも言える。ただ、強引な意識改革を呼び掛けはしない。心のひだにやさしく届くメロディ。リズムもワルツだ。歌詞もそう。“青く晴れたその日”という求めるべきものに対して、“いつか来るよう”“祈ってるよ”と優しく歌いかけている。「21g」に並ぶ名曲。頭に去来することをそのまま綴るようで辺りの光量は増していき、明日という希望を手に入れられそうな予兆を余韻として残す「ベイクドパンケイクス」。そしてラストの「バンドワゴン」は重要作だ。ボーカリストが再び複数体制になり、このことだけだと前前作への回帰、とも受け取れるが、実は根本的に違っていて、和田たけあき(g)、二村 学(b)、森 信行(ds)、久保裕矢(key)も含め、バンドの絆が感じられるのが本作だし、その印象が最後に収斂(しゅうれん)していくのがこの曲なのだ。もともとは個人の所産とも言えるボーカロイドPとして注目された古川本舗が、数年を経てここに至ったことは実に興味深いと思う。

(小貫信昭)

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