自身のセルフ・プロジェクトとして始めた“古川本舗”のニュー・アルバム『Hail against the barn door』。今作に込められた彼の思いに触れる。

古川本舗

音作りはもちろんのこと、作品まわりのグラフィックを含め、マルチな才能を発揮し続ける古川本舗。2011年の『Alice in wonderword』から始まり、『ガールフレンド・フロム・キョウト』『SOUP』と、毎回聴く人々に新鮮な驚きを与えてきた彼が、最新作『Hail against the barn door』で見せてくれるのは、いったいどんな世界観なのだろう。実は大きな鍵を握るのが、ここ最近、気心知れたレコーディング・メンバーたちとライブを重ねてきたことだったのだ。

INTERVIEW & TEXT BY 小貫信昭


今の自分に出せるものはなんだろう

──WHAT’s IN? WEBは初登場ということで、基本的なことからお聞きします。アーティスト名の“本舗”って、どんなニュアンスからつけたんですか?

もともと“楽曲を作って人に歌ってもらう”というところから活動をスタートしてるんですが、自分はシンガー・ソングライターかというとそうでもないし、プロデューサーかというと、歌ったり演奏することもある。あとジャケットとかウェブなど、まつわるものすべてを自分で作ってるところもあったりするんです。で、それらすべてを言い得るなにかとして、例えば“お店みたいなものを思い浮かべるのはどうかな?”って思ったんですね。そのお店には音楽だったりデザインだったり、自分が制作したものが並んでいる……。そんなことから“本舗”って名前をつけたところがあるんですよ。

──“本舗”ってくると、なんか信頼感湧きます(笑)。でもアーティストは、人前で脚光を浴びたいという感情を持ってると思うんですが、それとはちょっと違う性質の自己顕示欲の持ち主なのでしょうか?

実は僕、もともとはバンドをやってて、すごい苦労して横浜まで車で行ったらお客さんが4人だった、なんてことも経験してきてるんです。でもその後、YouTubeやニコニコ動画にアップロードすれば、自分がどういう経歴だとかは関係なく、フラットに作品を聴いてくれるようになったし、始めた当時でも200人300人がすぐ聴いてくれた。もう、当時はそれだけでお腹も一杯で、なにも自分が観られるという肉体性を示さなくても、作った創作物に対するきちっとした評価が出てるなら、それで満足だったわけです。

──そもそもはボーカロイドPとしてご活躍だったわけですものね。

ただ、その後アルバム出してライブをやったり人前に出るようになると、“オレやねん、オレがつくったんねん!”みたいな気持ちにもなってきましたし、だから今は、(自己顕示欲の質も)だいぶ違ってきてはいますけど(笑)。

──読者の皆様、ちなみに古川本舗さんご出身は大阪です(笑)。さてここからは、これまでの作品の流れもおさらいしつつ新作の話へと移りたいのですが……。2011年の『Alice in Wonderword』は、どんなコンセプトで?

“この曲は自分のアルバムの中ではこういう声で鳴っているんだ”という人を、アサインしていったのが1stでした。そこから派生したもので、さらに進化したもの作ろうとしたのが2ndです。で、“次どうなるんだろう?”っていうお客さんの期待を、あえて裏切ってボーカルをひとりに絞ってみたのが3rd。

──シンガー・ソングライターのキクチリョウタさんひとりに歌ってもらった『SOUP』ですね。

はい。でも今回は、単純にその進化形にはしたくなかったし、“今の自分に出せるものはなんだろう”と考えたんです。実は、いつもレコーディングに参加してくれてるメンバーがいまして、1stからずっと共通してて、その後、レコーディングだけじゃなくライブも経験したことで、だいぶ“バンドっぽくなってきてるなぁ”と感じていたんです。だったらその辺りをきっちり生かして作っていくのがいいんじゃないかって思って、メンバーに相談したんですよ。“アルバムを一枚、みんなで塊となってやりたいんだ”って話して、それで完成したのが今回でした。

──よりバンドであることを意識して、いちばん変わったことはなんだったんですか?

今までは自分で完全なデモを完成させて、それをレコーディングで“清書する”というか、設計図どおりになる喜びのほうが強いやり方だったんですけど、今回はデモといっても弾き語りで何歌っているかもわからないみたいな早い段階のものもメンバーに聴いてもらって、“なんか思いつく?”とか、そんなやりとりのうえでデモを作り直したりもしたんです。なので僕だけじゃなく、みんなにも完成形が見えつつのレコーディングでした。

──アルバムの最後には、メンバ-の一体感が演奏にも出てる「バンドワゴン」という歌もありますね。

“みんなでやろう”という意識を言葉で確認するだけではなく、曲を書くことで共有できたことは大きかったし、第一歩にはなったと思ってます。もちろん、さらにバンドになるためにやらなくてはいけない作業は残ってるけど、初段階としては良かったんじゃないですかね。

──バンドっぽさって、何も全員が一丸となるだけではないと思うんですね。例えば「情熱と残響」。楽器間の絶妙な間合いが素晴らしいアレンジですよね。

ありがとうございます。僕も含めてレコーディングに参加してるメンバーは、今までバンド然として動いてきたわけじゃないので、せーのでどーんと音出すことだけがすべてではない、というのはわかっているつもりなんです。なので今言っていただいた「情熱と残響」みたいなものもあっていいだろう、というのは思ってました。

──バンドっぽさとは真逆だけど、「coma white」って曲はもともと古川本舗さんに備わっているであろう、ひとりでシンセとか操る音作りの最たるものでしょうね。ヘッドフォンで聴くと最高です。

ひとりでなにも考えずに作ると、こういうのばっかり出来るんですよ。今まで排除してきたわけじゃないけど、こればっかりはヒトにお願いすると、グラニュラーの掛かり方とかちょっと違ってきたりする。この曲に関しては、久々に“ちょっとやりたいからやらせて!”って作った曲だったので。

──ずっと作業してていいと言われたら……。

もう、延々やってます。でも、こういうのばかりだったら全然売れないものが出来るだろうし辛いと思う(笑)。

自分に対する自分からの“説教”

──『Hail against the barn door』というアルバム・タイトルには、どんなイメージが込められているのでしょう?

すごく個人的なところからのタイトルでもあるんです。“barn door”というのは納屋のカタカタする木の扉、といったイメ-ジの言葉で、そこに“Hail”、つまり雹(ひょう)が降ってきてぶつかる。それが『Hail against the barn door』ということです。で、要はその音を、外へ連れ出してくれるノックと感じてドアを開けるか、または外からの攻撃と捉え、さらに閉じこもるかの選択なんです。出て行ったら明るい未来が待っているかもしれないけど、顔に雹がぶつかって怪我するかもしれない……。

──でも、それがどう“個人的”なのでしょう?

実はこれまで3枚のアルバムを作ってきましたけど、そこに“閉じこもっている”というと言い過ぎかもしれないけど、あくまで自分は、その世界から出て行かない感じもしてて、それを崩したかった、というのもあったんです。時には一歩引くのではなく、矢面に立たなきゃいけないときもあるし、自分という存在を、世の中に対してプレゼンテーションしなきゃいけないときもある。そのためには、家のドアを開けなければいけない。だったらそのキッカケとなるものを自分で作ろう、というのがそもそものアルバムの着想でもあったんですよ。まぁきっかけというか、特にタイトル曲は、自分に対する自分からの“説教”でもあるんです。

──実際に「Hail against the barn door」を聴いてみると、ドアをドンドン叩くというより、なんか優しいワルツ・テンポの曲調ですけどね。

この曲は淡々とした“説教”なんです。なぜそうしたかというと、めっちゃくちゃ怒っている人より、淡々と怒っているほうがマジギレっぽく感じたりもするからだと思いますけど(笑)。ただ、曲が出来て自分でこれを聴いて、“いや、でも俺はこのままでいい。小さくまとまっていようと、自分の世界がここにあるんだからそれでいい”と思ったのなら、別のものになってたかもしれません。この曲が起点となって膨らんで、ほかの曲も揃って一枚のアルバムになったからこそ、タイトル曲に選びましたし、こんなタイトルのアルバムにもなりました。おそらく“説教”は効いたんでしょう。僕は“はい……、出ます”って、家のドアを開けて外に出ていったんです。

──全体の流れ、曲順はどうでしょうか。

ライブでそのままやってもいい曲順というか、演奏したい順番、みたいな意識で並べました。今までは曲の暗い明るいがちゃんとグラデーションになるよう並べよう、とか、ひとつ前で明るさのピークを迎えて最後は暗くして終わろう、みたいなこともしてましたけど、その考え方とは違いますね。

──タイトル・ソング以外の歌の世界観というか、主に歌詞ですが、どんな言葉の選び方や物語の進め方を心がけてたんですか。4曲目の「ナイトクルージン」には“踊ろうよベイビ-”って言葉が出てきますが、普段の古川本舗さんは、恐らく言わない言葉ですよね。

歌のテーマとか歌詞とかに関しては、そんなに理路整然としてなくていいかな、というのはすごく思ってました。自分が混乱しているなら、それをそのまま書けばいい、とも思っていて、作っているときテンション高かったら、それこそ“踊ろうよベイビー”って言葉を入れたりもしたし。自分の気持ちの上での歌詞に対する推敲というのは、あまりしなかった。メロディと歌詞と声の絡みで引っかかるところのみを修正した感じです。

──特徴的だと思ったのは、事象と抽象を行き来する感覚とか、過去・現在・未来が混在する自由さというか……。

“すごい悲しいことがありました”ということを歌詞に起こすとしても、原因はこうでした、経過はこうでした、結果はこうでした、それが歌詞になります、みたいな順番では書かないですからね。歌詞を書く段階で、悲しいんだという結果はわかっているわけだし、だから原因からでも結果でも、思いつく順番に書けるわけだし、時系列に関してはとっちらかっているし、人からみたら抽象的に見えるかもしれないですけど。

無防備な状態を晒したい

──「ライフタイムサウンドトラック」とか、その意味での生活のリアルがよく出ているような……。

別に取り繕ったりかっこつけたりして生きているわけでもないですし、たまには酔っ払って女の子をナンパしたくなる、なんてこともあるんだろうし、そういう内容の歌だと受け取ってもらってもいいんです(笑)。でも、もちろんそればっかりじゃない。普段は誠実に生きてます。例えば「21g」というオープニングの曲は、自分がものを作ってて心が折れそうなとき、“何を考えたのか”っていう話だったりもします。もし、ものが作れなくなったら、自分にはほかに“どういう生き方があるだろう?”って考えると、あんまり想像つかなかったりして若干“怖ぇえな”とか思ったりするんですよ。だからって、ものが作れなくなりました、じゃあこの世とおさらばします、ということには当然ならないわけで、ならないのはなんでかというと、結局、心が折れてないからだ、というのが自分のなかにあって……。

──折れそうでいて、でもそう簡単に折れはしないのが心なんだ、ということですね。

ものを作っていると、いやなことも辛いこともたくさんある。楽しいことより辛いことのほうが多分多い。それでも辞めないのは、自分の魂自体が“やりたい!”って言ってんだな、というか、“音、鳴らしたいんだな”、ということだろうし、それを素直に自分のこととして曲に出す、ということが今回はできました。今なら一緒に音を鳴らしてくれる仲間が見つかっている状態で、だから今のタイミングで鳴らすってことは意味があることだなって、そう思って作ってましたよね。まぁそんな「21g」の次が、さっきの「ライフタイムサウンドトラック」で、“心が折れるとかの次はナンパかい!?”って話でもあるんだけど(笑)、そんな振り幅も含めね、それもすべて自分っぽいんで。

──今回のジャケット・デザインは?

先ほどの話じゃないですけど、素直に自分のこととして曲に出す、みたいなことを主題に作ったのが「21g」なら、ジャケットでこの曲のように無防備な状態を晒したい、という発想からです。無防備? だったら僕が脱ぐ、という手もあったんですけど、さすがに鑑賞に耐えうるものでもないし(笑)、そういうところから心臓というテーマになったんですけどね。小さな写真だと見えづらいかもしれないけど、椅子の真ん中にぽこってあるのが心臓の模型です。つまり弱い部分が晒されていることを、ビジュアル的に表現したいなっていうことです。

──これまで以上に自分自身がそのまま出てるアルバムだとしたら、出来上がって改めて、“俺ってこんなヤツだんたんだ”とか、再認識したことはありましたか。

自分が良い状態であっても悪い状態であっても先に不安を感じている、というのは、昔からそうなんですけど、でも不安を感じているからって焦ってなにかする、ということでもなくて、まあなんとかなるべー、というのが自分のいいところでも悪いところでもあると思ってたんです。で、これを作り終えてどう感じたかというと、やはり悩みの質はあんま変わってないです。まったく成長してないからそうなのか、いい意味でそれこそが自分の本質なのかはわからないけど、いつまでも先に不安は感じつつ、でもなんとかなるべーのノラリクラリのまま、なんとか人生を逃げきることができるんじゃないかって、今はそんな安心感も出てきてます。作ってた最中は、本当に完成するのかな、とも思ったし、自分がそのまま出たことで、自分にとっていやなものができるんじゃないかって不安もあった。自分の中身というか、腹の底までをも作品に出すことはなかったので。出来上がって“うぁ気持ちわりぃ~”とかなったらどうしようって(笑)。でも出来上がったら“よしっ!”って感じもあったので。ホッとしました。

──おめでとうございます(笑)。最後に12月21日の日本橋三井ホールでのライブのことを……。“Q”シリーズとしてやってきたファイナルで、タイトルもそれを受けて“ANSWER”、ですね。

毎回毎回、ライブをやるごとにQ=クエスチョンを積み上げていって、回をこなすごとに反省点もモリモリ出てきたし、でも“ANSWER”という答を出す場を作っている以上、それもクリアしていって、その先になにが見えるのかというのをお客さんも含め、みんなで見にいきたい、というのが12月21日なんだと思ってます。でも当日より、それが終わったあと、いったい自分はなにを考えているんだろうな、というところのほうに、今はワクワクしますけどね。

──まずは『Hail against the barn door』をじっくり聴かせていただきつつ、12月のライブを楽しみに待ちます!

DISC INFORMATION

「Hail against the barn door」
FULL ALBUM 2014.10.22 release
Head.Q.Music

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<収録曲>
01. 21g
02. ライフタイム サウンドトラック
03. 問うてはその応え
04. ナイトクルージン
05. 情熱と残響
06. 花と幽霊
07. ベロニカと黄色の靴
08. coma white
09. Hail against the barn door
10. ベイクドパンケイクス
11. バンドワゴン

PROFILE

フルカワホンポ/作詞・作曲・編曲・プロデュースを手がけるマルチ・アーティスト。2009年に自身のセルフ・プロジェクトとして“古川本舗”名義で音楽活動を開始。 2011年にインターネット発祥の音楽レーベル“Balloom”の立ち上げに参加し、 同レーベルより、様々なアーティストをゲスト・ボーカルに迎えたアルバム『Alice in wonderword』を発表し、ビルボードジャパンの“優秀インディーズアーティスト”にノミネートされる。2012年には1年半ぶりとなるアルバム『ガールフレンド・フロム・キョウト』をリリース。そして昨年11月には自身のレーベル“Head.Q.music”から、シンガー・ソングライターのキクチリョウタがすべての楽曲の歌唱を担当した3rdアルバム『SOUP』を発表。 リード・トラック「HOME」のMVでは岩井俊二監督とのコラボレーションを実現ている。今作は、古川本舗(vo、cho、g、key)、ちびた(vo、cho)、キクチリョウタ(vo、cho、g)、和田たけあき(g)、二村 学(b)、森 信行(ds)、久保裕矢(key)の7人によって制作された。

LIVE

古川本舗「Hail against the barn door」発売記念SPライブ
2014年11月8日(土)タワーレコード渋谷店 B1F 「CUTUP STUDIO」
※フルバンド・セットでのライブ

ワンマンライブ「.QVIII.」
2014年12月7日(日)大阪 umeda AKASO

古川本舗ワンマン.Q.シリーズファイナル[.ANSWER.]
2014年12月21日(日)東京 日本橋三井ホール

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