あらかじめ決められた恋人たちへ EP/DVD「キオク」ディスクレビュー

キオク

EP/DVD

あらかじめ決められた恋人たちへ

キオク

KI-NO Sound Records

2014.09.10 release

<DVD+CD>


『キオク』という名の“記録(DOCUMENT)”の追憶

 あらかじめ決められた恋人たちへの新作は、昨年発表の最新オリジナル・アルバム『DOCUMENT』のリリース・ツアーから、12月に行われた代官山UNITでのワンマンを中心としたライブDVDと特典映像に、新録4曲を収録したEPもついた豪華パッケージ。2009年にもライブCDとDVDを組み合わせた『ラッシュ』を発表するなど、彼らは常に映像と音の関係性を意識してきたバンドであり、本作でもモノクロを基調としたライブ映像に、ツアーの移動中に撮影された街並みをシンクロさせることで、単なるライブ映像には収まらない、ロードムービー的なテイストの作品に仕上げている。

 ライブ自体に関しては、ギタリストで参加しているLAGITAGIDAのKohhan Ohtakeの存在が大きく、彼の生み出すシューゲイズな轟音と、よりダンス・ミュージックに接近したビートによって、これまで以上に解放的な、快楽指数の高いステージが繰り広げられている。深く深く沈み込んでいくようなメランコリーと、どこまでも飛翔していくような高揚感との振幅が生み出すダイナミズムは、その内なる世界観が外側へと開かれた、『Takk…』以降のシガー・ロスを連想させるものだと言うことができるだろう。

 そんな圧巻のライブもさることながら、個人的に興味深かったのがEPのほう。「キオク」という本作のタイトル、さらには『DOCUMENT』および、そのラスト・ナンバーである「Fly」で表現されていた“旅立ち”の感覚のその後が、全4曲で見事に示されているように思うのだ。一曲目を飾るのは、ストリングスを配したトランシーなダンストラックの「Going」で、「Fly」で大空へと飛び立った主人公が、威風堂々と前進を続けているようなイメージ。続くミニマルなピアノ・バラード「BY THIS RIVER feat. クガツハズカム」はブライアン・イーノのカバーで、“Waiting here always failing to remember”という歌詞が、“キオク”との関連を感じさせる。ゲスト・ボーカルを担当したのは、きのこ帝国の佐藤のソロ名義であるクガツハズカムで、彼女のどこか退廃的でありながらも純度の高い歌声が、ダビーな曲調とマッチしていて、ブリストルっぽい雰囲気が生まれているのがとてもいい。

 タイトル曲の「キオク」は、“むしろこっちのほうが今のブライアン・イーノに近いかも”と思ってしまうようなアンビエント風味で、そこから徐々にシューゲイズな展開へと移り変わっていく、荘厳なナンバー。そして、ラストを締めくくるのは、ゲスト・ボーカルにeastern youthの吉野寿を迎えて再構築された「Fly feat. 吉野寿(from eastern youth)」(特典映像にライブ映像も収録)だ。ただでさえスケールの大きな原曲に、吉野のエモーショナルな歌唱が加わって、さらに厚みを増したこの曲は、歌詞の面でも“再び動き出す またすべてが回りだす”と、“旅立ち”のムードを明確に伝えている。

 さて、eastern youthと言えば、やはり大名曲「青すぎる空」が有名だが、きのこ帝国はデビュー作『渦になる』の一曲目を飾る「WHIRLPOOL」で、“仰いだ青い空が青過ぎて”と繰り返している。この2曲とあら恋の「Fly」とは、不安と期待を両手に抱えたまま、それでも青過ぎる空を見上げ、舞い上がっていこうとするような、共通のムードが感じられる。いつか描いていた未来は渦になり、いずれ暮らしの果てに散る。それならば、音楽によって満たされる一瞬という永遠をキオクに留めるために、今をひたすら鳴らすのみだ。

(金子厚武)

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