新世界リチウム ALBUM「新世界リチウム」ディスクレビュー

新世界リチウム

ALBUM

新世界リチウム

新世界リチウム

REVOLUTION TEMPLE RECORDS

2014.09.03 release


その劣等感に火をつけろ!

 ドラムとベースのツイン・ボーカルという珍しい編成が異彩を放つ3ピース・バンド、新世界リチウム。その名前を目にする機会は決して少なくない気がするけれど、流通作品としては実に約3年ぶり、初のフル・アルバムとなる『新世界リチウム』。クリープハイプが現メンバーになる前の2年間、尾崎世界観のバック・バンドをメンバー全員が担当していたことでも知られている彼ら。そのサウンドは、3ピースならではのシンプルな構成に、文字どおり一曲入魂的なエモーションが込められたものとなっており、その特徴は、サウンド・プロデューサーに根岸孝旨を迎えた本作において、よりいっそう輪郭の際立ったものとなっている。

 しかし、まず頭に入ってくるのは、何よりもその鮮烈──というよりも、もはや苛烈というべき赤裸々な歌詞だろう。“劣等感を逆手にとってキミの事を歌うんだよ”とおもむろに歌い出される「プリウェンペ」、“ついに君が別れを切り出した”と始まる「オレノスベテ」、あるいはそのタイトルどおりの内容が訥々と綴られてゆく「そして唾を吐いて中指を立てる」など、愛憎入り混じりながら、むき出しで打ち放たれる言葉の数々は、彼らの音楽の核にあるヒリヒリとした焦燥を、聴く者の心に否応無く突き付けてくるのだった。

 見ようによっては、自分を捨てた“キミ”に対する終わりなき怨嗟の歌のようにも思える一連の楽曲たち。だが、アルバム一枚通して聴いているうちに、それはある特定の誰かというよりも、その言葉を繰り出し続ける自分自身へと向けられていることに気づくのだった。そして、アルバムの最初と最後に置かれた「キリフダ」「ふるさと」といった楽曲、あるいは「ハッピーエンド」といった楽曲で、ときおり見せる生身の温かさ。苛烈な言葉の狭間に顔を覗かせる、そんなピュアネスこそが、彼らが支持される何よりの理由なのではないだろうか。その劣等感に火をつけろ。そして、その燃え滓を踏みつけながら、まっさらな心で再び前へ向かって歩き出せ。

 バンドのオフィシャル・ページに掲載されている、クリープハイプの尾崎世界観をはじめ、彼らと交流のあるバンドマンたちから寄せられた膨大な数のコメント。この音楽の核にあるものが受け入れられないのならば、自分たちの音楽も受け入れられないだろう──そんな、ある種の切迫感すら感じさせるそれらの一連のコメントから窺い知ることができるのは、彼らがシーンの中で打ち放っているユニークさと影響力の大きさだ。自らのバンド名を冠した本作で、果たして彼らは、遅れて来た“真打ち”として、見事羽ばたくことができるのだろうか。そんなリアクション面も含めて注目したい一枚だ。

(麦倉正樹)

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