倉内太 ALBUM「ペーパードライブ」ディスクレビュー

ペーパードライブ

ALBUM

倉内太

ペーパードライブ

DAIZAWA RECORDS/UK.PROJECT

2014.08.27 release

<CD>


混じりっけ無し純度100%の脳内音楽

 異能のシンガー・ソングライター=倉内太が、前作『刺繍』以来、約1年ぶりにドロップする通算3枚目のアルバム。バンドとともにレコーディングした前作に対し本作は、その作詞作曲はもちろん、すべての楽器の演奏、果ては録音&ミックスに至るまで、すべて倉内ひとりが行ったという、とてもパーソナルな作品へと仕上げられている。しかし、“パーソナル”=“小じんまりとした”とはならないところが、彼が異能たる所以である。そのスケール感は、むしろ宇宙規模にアップしているようにも思える。

 アコギの弾き語りをベースとした、フォーク・ミュージック然とした雰囲気を持ちつつも、様々なギターの音や多重コーラス、果ては口笛や環境音など、幾重にも折り重なったサウンドスケープ。そのなかで彼が、持ち前の揺らぎを湛えた、やや高音のボーカルで歌い上げてゆくのは、日々のドキュメントとでも言うべき身の回りの風景だ。しかし、ただの風景ではない。むしろ、脳内風景とでも言ったほうが良いような、現実/非現実の境界が曖昧な世界。彼は、ごくありふれた日々のなかで、目に見えないものを感じ、そのイメージを歌へと変換してゆくのだ。

 例えば、文字どおり“見えない人たちを誘い出して 不道徳そうな所で遊んで疲れて だれでも一度くらい銀行強盗しに行く時が来る”と歌い始める「銀行強盗」。あるいは、“目に見えないお化けいそう 心痛そう夜は言えない言葉ばかり持っている”と歌い出す「透明犬」など。ちなみに、「ロリータ・コンプレックソ」など、異性について歌うときの彼は、相変わらず生々しくも辛辣だ。“青春とノイローゼが同居するシンガー・ソングライター”とは、よく言ったもの。倉内太の歌は、どこまでもリアルな質感を持ちながら、スッと“あちら側”に足を踏み入れてしまう危うさを、その随所に湛えているのだから。

 しかし、聴いていると、これが次第に心地好くなっていく。イメージの趣くままに、テンポを変え、展開を変え、そして音色を変えながら、完全に彼のタイム感のもと、自由に進行してゆく音楽。それは、まるで白昼夢のように、聴く者の心を静かに浸食していくのだ。彼自身、「復帰のsoundtrack」という曲の中で綴っているけれど、悲しいつもりなのに、なぜだか笑ってしまうような感覚。あるいは、シュール過ぎて、なんだか楽しくなってしまうような──そんな奇妙なポップネスが、彼の音楽には確かに宿っている。何を歌おうとも、どんなに生々しい言葉を吐こうとも、それがひとたび音楽に変わった途端に生まれる、得も言われぬ高揚感。何人にも邪魔されない、音楽という名の愉楽。そんな強い確信が、彼の音楽の中心には、きっとあるのだろう。倉内太がたったひとりで生み出した、混じりっけなし、純度100%の脳内音楽。倒錯の果てに夢を見る、異能の輝きを持ったポップ・アルバム。

(麦倉正樹)

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