APOGEE ALBUM「OUT OF BLUE」ディスクレビュー

OUT OF BLUE

ALBUM

APOGEE

OUT OF BLUE

LITTLE8 RECORDS

2014.08.06 release

<CD>


ついに時代が追いついた……いや、まだ追いつけない!

 APOGEEというバンドは、やはり“早過ぎた”のだ。実質的な活動休止期間を経て、5年ぶりに発表されるこの素晴らしきカムバックアルバムを前に、そんなことを思わずにはいられない。BUMP OF CHICKENやASIAN KUNG-FU GENERATIONといった下北沢発のギター・ロック・バンドがブレイクを果たし、さらにはELLEGARDENやRADWIMPSなど、よりパンキッシュなバンドが頭角を現していた2006年に、ニューウェイヴなシンセ・サウンドを全面に押し出した1st『Fantastic』を発表したAPOGEEは、当時からシーンの異端児的な存在だった。続く『Touch in Light』こそ、ややギター・ロック的な作風に寄ったものの、3rdの『夢幻タワー』ではフロントマンの永野亮が好むソウルやR&Bの色合いを強め、マキシマム ザ ホルモン、9mm Parabellum Bullet、凛として時雨など、シーンがよりラウドな、アグレッシブな方向に向かうなか、一人レイドバックした作品を発表。内容そのものは素晴らしかったが、セールス的には振るわず、この後活動休止状態に突入することとなる。

 しかし、ここからシーンの流れが少しずつ変わり始め、’00年代前半に海外で起こったニューウェイヴ/ポスト・パンクのリバイバルからエレクトロへという流れが日本にも流入すると、APOGEEからやや遅れてメジャー・デビューしたサカナクションや、the telephonesなど、シンセを用いたバンドが浮上してくる。さらに、海外では’80年代風のエレクトロ・ポップがブームとなり、よりローファイなシンセ・サウンドとグルービーなリズムを特色とするチルウェイヴへと移行、現在ではそれがR&B方面へと徐々に波及して行っている。The fin.のように、こういった流れを汲む海外直系のサウンドを鳴らすバンドが現れる一方、日本独自の動きとしては、山下達郎のようなブラック・ミュージックの要素を強く持ったポップスの作り手が再評価され、それを現代的なクラブ・ミュージックとして鳴らすtofubeatsが登場。そして、そのtofubeatsと相思相愛のShiggy Jr.や住所不定無職など、アース・ウィンド・アンド・ファイアーからダフト・パンクまでを同列に愛する若きミュージシャンが、現代的なJ-POPを生み出し始めてもいる。

 さてさて、前置きがずいぶんと長くなってしまったが、こういった国内外の様々な動きの交点にあるのが、まさに『OUT OF BLUE』というアルバムだ。オープニングの「Runaway Summer」からして、印象的なシンセのリフと、ファンキーなリズムが実に心地よく、全編を通して非常に快楽指数の高いアルバムであり、見事に時代を捉えたアルバムだと言えよう。ソウルフルかつディスコティックな「Tonight」、永野のフェイヴァリットであるプリンスの「POP LIFE」をベースに、APOGEE流チルウェイヴに仕上げたタイトルトラック「OUT OF BLUE」、クラウトロック的な反復ビートを経て、終盤で強烈なサイケデリアを生み出す展開が『Fantastic』期を彷彿とさせる「Twilight Arrow」と、曲調は実に多彩。しかし、どの曲もシーンにすり寄った付け焼刃感はなく、彼らが純粋に今鳴らしたい音を鳴らした結果、シーンとのシンクロが起こっているということは、彼らの過去の歩みが証明していると言っていいだろう。一方、永野のソロ曲をAPOGEE流にアレンジしたというエピックな大曲「Fall Into The Sky」のように、どこにもカテゴライズすることのできない異物感も健在なのは、ファンとしてうれしいところだ。

 そして、これらの楽曲の中心にあるのが、聴くものを“ここではないどこか”へと誘う、エスケーピズムの感覚である。チルウェイヴというジャンル自体、この感覚とセットで語られることが多いが、そもそもAPOGEEというバンドは結成当初ザ・フレーミング・リップスのコピーをするなど、スタートからしてエスケーピズムの感覚を追い求めていたバンド。それは「Runaway Summer」や「OUT OF BLUE」といった曲タイトルからも感じられるが、現在のAPOGEEを最も象徴しているのは、メランコリックなラスト・ナンバー「Transit」だろう。音が鳴り止むことのないクラブの一夜と、光が消えることのない都会の一夜を見つめながら、“from Tokyo to 桃源郷”と歌うこの曲は、活動休止期間を経て、現在の彼らが東京という場所を拠点に、地に足のついた形で活動できていることを表している。そして、それと同時に、ただのユートピア幻想ではなく、この現実からファンタジーへの跳躍こそが、音楽の持つ魔法の力なのだということを、力強く示していると言ってもいいだろう。

 早過ぎたバンドについに時代が追いついた? いや、彼らは結果的に、海外の動きと国内の動きがこれからよりシンクロし、独創的な音楽が生まれて行くであろう、そんな未来をまたしても一歩早く示してしまった。しかし、今の彼らはシーンの外部にいるのではなく、間違いなく、内部にいる。そう、お楽しみはこれからだ。ブルーから抜け出して、ここではないファンタスティックなどこかへと、君も一緒に行かないかい?

(金子厚武)

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