カジヒデキ ALBUM「ICE CREAM MAN」ディスクレビュー

ICE CREAM MAN

ALBUM

カジヒデキ

ICE CREAM MAN

AWDR/LR2

2014.08.06 release

<CD>


ずっと原点にいる男

 真夏のサウンドトラック。それも、ちょっとやそっとの真夏ではない。つむじからつま先までびっしょりと汗をかくことを覚悟して、いざ炎天下に飛び出した瞬間の、照れたような苦笑い。360度全方位から降り注ぐセミの声から抜け出して、バーベキューも花火も済ませた徹夜明けに、そのまま海へと繰り出してしまう朝の、向こう見ずな気持ち。本作のリード・チューン「灼熱少女 / TROPICAL GIRL」の一節、“永遠は 短すぎると 僕は たった今 わかった”が、この高揚感を見事に射抜いている。麦わら帽子もサングラスも役に立たない真っ白な光の風景、その刹那を書き留めた、快心のパンチラインだと思う。
 また、そういった表現に必要不可欠なのは、日向に深みを与える日陰であり、アスファルトの温度を下げる雨の恵みであったりするのだが、寒い夜明けにクリスマス・ソングを歌う「スマイル&ティー / SMILE & TEA」でさえ、そのメロディは100%夏仕様。「灼熱少女」のMVでは、真っ暗なホテルの一室、隣のベッドを空けたまま、バスローブで歌い出すカジくんだが、あまりにも楽曲の力が強いため、窓を開け浜辺へと出かける後半への展開が、豪快にネタバレ。つまり、スイカに塩などいらない。ハンカチが拭うのは涙なんかじゃないという、こちらが心配になるほどの躁状態すら感じさせる、とことんまでスイートなキラー・チューンばかりの大傑作。この過剰なまでのアッパーさは、1997年のデビュー・アルバム『ミニ・スカート』にも匹敵する。
 チルウェーヴ以降の淀んだ清涼感にスクエアな8ビートの疾走感をミックスした「サマーキャンプ / SUMMER CAMP」、バウ・ワウ・ワウそっくりのトライバル・ビートが楽しい「ブランニュー・ブーツ / BRAND NEW BOOTS AND PANTIES」など、筋金入りのポップ・マニアでありトランスレーター(翻訳家)ならではの遊び心もたっぷり。照れ臭いほどにシェイクするリズムは盟友かせきさいだぁのシティ・ポップ・マナーにも通じる……と聴いていた瞬間、突然に本人のラップが飛び出したのには驚かされた(「僕らのスタンドバイミー / LONG LONG HOT SUMMER」)。ほか、野宮真貴、坂本美雨、小島麻由美、住所不定無職のユリナら女性ボーカル/コーラスの起用も、本作に炭酸水のような爽やかさをもたらしている。

“原点回帰”という言葉があるが、カジヒデキは、ずっと原点にいるのだと思う。Cornelius小山田圭吾の発足した渋谷系の総本山的レーベル=Trattoriaからデビューし、ことあるごとに小山田(と小沢健二)が組んでいたフリッパーズ・ギターへの愛を語ってきた男は、フリッパーズ・ギターのふたりがあらたな地平に駒を進め、ともに絶対的な支持を集めた現在でも、その愛を変わらずに燃やし続けているのだろう。分散することのない熱は、あらゆる壁を溶かしてしまうほどに熱く、純粋なもの。盟友NEIL&IRAIZA=堀江博久+松田岳二も、同じレコーディング・ブースにいながら、「この人、ほんと好きだねぇ」と呆れつつ、しかしその熱に身も心も溶かされながら演奏していたはずなのだ。

 あらゆる“ヘイト”が蔓延する現在だからこそ、この純粋無垢な“愛”、そしてそれを貫徹する40男のマグマが、世界を呑み込むことを願ってやまない。

(祭蓮しずか)

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