くもゆき ALBUM「くもゆきのいろ」ディスクレビュー

くもゆきのいろ

ALBUM

くもゆき

くもゆきのいろ

なりゆきレコード

2014.08.06 release

<CD>


しあわせな「家族あるある」

 アメリカン・フォーク~ルーツ・ミュージックをバックボーンとした飴色のギター・ワークと穏やかな歌声で多くの支持を集めるミュージシャンズ・ミュージシャン、おおはた雄一。チャットモンチーではドラム、ベース、キーボードまでを操る福岡晃子。ふたりがタッグを組み、子どもたちの笑顔をピカピカに磨き上げ、また、その笑顔に癒されるパパやママの(目尻の)皺までを深くする、最高のアルバムを完成させた。

“子ども向けのアルバム”といってナメてはいけない。そもそも子どもは感受性の塊であり、好きにも嫌いにも理由がない。いや、理由はしっかりとあるのだが、それを伝達/言語化する術を知らないため、かわりに床を笑い転げ、地団駄を踏んで泣き出しているにすぎない。そんな“残酷な知性”の気持ちをがっしりと掴みつつ、(少々いやらしい話だが)彼らにこのアルバムを買い与える親の審査までをパスするものとなると、生半可なものでは許されるはずもない。ウォルト・ディズニーの完璧主義を例に出すまでもなく、“for CHILD”を標榜する芸術ほど、プロの圧倒的な力量が問われる、というのはこの世の常だ。前世紀の現代音楽家や高名なジャズ・ミュージシャンが発表した子ども向けのレコード(レイモンド・スコットやブルース・ハークなど)が今なお新鮮に響き、再評価されているのも、前述の“お題”をしっかりとクリアしているからだろう。そしてもちろん、この『くもゆきのいろ』にも、次世代のスタンダートとして聴き継がれるべき名曲が、2段重ねのキャラ弁のような楽しさで詰め込まれている……
 ……と書いた今現在、スピーカーから聴こえているのは餃子の歌だ。パリッとしつつもたそがれた餃子の魅力を、風通しのよいロックンロールにのせて歌っている(「ザ・ギョーザ!」)。アルバムを聴き進めれば、子どもたちの天敵であるパクチーを歌った歌があり、大好物であるオムレツを焼くフライパンの歌もある。目線はママの後ろ姿。エプロンの結び目の高さだ。ほか、おおはた雄一が自らの喘息を爽快な2ビートで吹き飛ばした「僕は喘息もっちもち」、福岡晃子が本場仕込み阿波踊り魂を見せつける「やっとやっとやっとさー」、コント仕立てのかけあいや大宮エリーのペンによる詞の朗読「ほうきの恋」も最高のスパイス。そして子どもたちが踊り疲れ、寝静まったあとは、ペダルスティールの音色にセピア色の郷愁が花開く「ねむれねむれ」。昼間の喧噪にそっと毛布をかけるかのような深い慈しみの情景に、涙腺が緩む。チャットモンチーでは轟音の影に隠れていた福岡晃子の声、畠山美由紀やアン・サリーにも通じるその澄んだ美しさは今作最大の発見だろう。

 毎日の生活を歌い、毎日の生活に浸透し、毎日の生活を作り上げてゆくアルバム。子どもに必要な栄養素を考えるうち、それを一緒に食べる家族全員が健康になってゆく、“家族あるある”。本作の幸福はそこにある。

(祭蓮しずか)

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