cro-magnon ALBUM「Ⅴ」ディスクレビュー

Ⅴ

ALBUM

cro-magnon

LASTRUM

2014.07.16 release

<CD>


ひと皮剥けば、悪食の狂犬

 1980~1990年代初頭の日本。まだラジオDJ(←ディスク・ジョッキー)とクラブDJとが混同されていた、クラブ・シーンの草創期。ヒップホップをプレイするDJはヒップホップだけをプレイしたし、ハウスをかけるDJはハウスだけをミックスしていた。もちろんどちらも“クラブDJ”の話。1990年代の後半~2000年代ともなると、世界中のオブスキュア・ポップ~辺境音楽の発掘/再発により、“重箱の隅”には穴が開き、新譜のジャンルも専門化。2010年代現在では、それらあらゆる文脈の音楽を汎用的にチョイスした60分ないし90分のプレイにより、フロアにボーダレスな“旅”をさせる“オールジャンルDJ”こそがデフォルトとなった感がある。彼らのプレイには、マニアの審美眼とフロアの発汗に支えられたクラブ・ミュージック30年の歴史が詰まっているし、これから先の30年にも、革新的なパラダイム・シフトが眠っている、と信じさせてくれる魔法があると思う。

 さて、クロマニョンの新作だ。本稿の助走に多くの文字数を割いたのは、この恐るべきジャム・バンドのグルーヴに、きわめて“オールジャンルDJ”的な鳴りを感じたからにほかならない。フィラデルフィア・ソウル~ディープ・ハウスのシルキー・タッチにも似たスムースな展開や、10曲10通りのグルーヴ・ショーケースという部分はもちろんのこと、スネアの音色やシンセの和音そのものにも、雑食を極めたものだけが獲得できる、鋭く研がれた犬歯、また、その犬歯に噛み砕かれ、熱い唾液を加えられることでズッシリ“ひと塊”となったグルーヴというものが染みついているのだ。ここで前述の“オールジャンルDJ”の全能感を想像してみよう。そして、彼らが行う越境を、わずか数小節に濃縮し実践できるバンドのことを思ってみよう。やはりその演奏は相当な快感を伴うはずで、それにより分泌された鱗粉のようなものが、聴き手にも付着→吸引→感染→いつのまにか五感をジャックされてしまい……。彼ら3人の演奏には、そんな中毒性までもがついてまわるのだ。

ポリリズミックな鼓動に昂まる空気をコズミックなシンセが抑制することで、いつまでも嵩の減らない沸騰ミルクを思わせる濃厚なセッション「Floating Point」。ギリギリまで音数を絞ったリズムによりビル・エヴァンス~ドン・フリードマンの現代解釈的モーダル・ジャズとなった「//Walts fot Who?//」。それこそあらゆるオールジャンルDJが重宝するであろう極上のハウス・トラックには、「Patchwork Jazz」という決意表明的なタイトルがつけられ、クンビアの熱気やカリプソの粋、エキゾチックな彩りの数々が、音楽地図の広大さを差し示す。

 卓越したプレイヤビリティは当然のこと、それを際立たせるビンテージ楽器/アナログ・テープを使用したグラマーな音質も世界基準。ビンテージ嗜好と言えば、彼らはあの吉 幾三とも競演し、御大の喉仏にもしっかりと犬歯を立てていた(※)。ときにクール、ときにエレガントに映るクロマニョンだが、ひと皮剥けば、悪食の狂犬。とことんタフな3人なのである。

※マンガ「へうげもの」とのコラボレーション・アルバム『乙』に収録されている「Bowl Man feat. IKZO」

(祭蓮しずか)

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