ボールズ ALBUM「スポットライト」ディスクレビュー

スポットライト

ALBUM

ボールズ

スポットライト

Virgin Records

2014.07.09 release

<CD>


“USインディ・ロック×シティ・ポップ”の転換点

 現代は言わば“ポップスの時代”である。年代、国、ジャンルといった、これまで音楽をカテゴライズしていた要素がフラットになるなか、日本の若い音楽好きはYouTubeなどで日本の音楽を、’70年代フォーク、’80年代シティ・ポップ、’90年代J-POPを掘り起こし、それぞれのフォルムでポップスとして鳴らしている。その中でひとつの大きな潮流を形成しているのが、“USインディ・ロック×シティ・ポップ”という流れであり、これを軸にして、それぞれのバンドがさまざまなプラスアルファの要素を持ち合わせ、シーンを活性化させている。

 ボールズもその流れの中に位置するバンドだと言っていいだろう。昨年ミラーマン名義で発表された『ニューシネマ』は、街のレコード屋さんにフラッと立ち寄って、USインディの輸入盤をチェックしてるときに、“このミラーマンってバンド、日本にミラーマンって特撮ヒーローがいるなんて知らずにこの名前つけたんだろうな。うける”なんて感じでなんとなく買ってみたら、思いのほか良盤で、気づけば大切な一枚になっていた……的な雰囲気の、心にじんわりと染みる一枚だった。とはいえ、決して派手な作品というわけではなかったので、その作品が“タワレコ渋谷アワード”の年間ベストに選ばれ、あれよあれよといううちにメジャー・デビューが決まっていたのは正直びっくりしたのだが、その事実に“USインディ・ロック×シティ・ポップ”というスタイルの積み重ねと広がりを感じることができる。例えば、シャムキャッツ、踊ってばかりの国、Turntable Filmsといったバンドはどれも素晴らしバンドだが、彼らは今のところメジャーに進んではいない。もちろん、それぞれのバンドの考えやタイミングが関わってくることなので、単純に優劣をつけることは当然できないのだが、何はともあれボールズのようなバンドがメジャーへと進んだことからは、時代の転換点を感じずにはいられない。

 僕は彼らが改名を発表した4月の渋谷クアトロでのライブを目撃しているのだが、ボーカル&ギターの山本はその決断に至る葛藤をステージ上で吐露し、同時にメジャーで活動することに対する強い覚悟を口にした。その想いは『スポットライト』という作品からもはっきりと感じられ、それは“自分たちは日本のバンドである”という意識の高まりにつながっているように思う。全体的な作風としては、インディ・ロック的な部分がやや後退して、よりポップス色を強め、小気味のいいカッティングを多用し、艶やかなソロを聴かせるギターを筆頭に、どの楽曲も前作以上に洗練された印象を受ける。その上で、山本のソウルフルなボーカルがより前に出ていて、「君はまぼろし」や「サイダー」といった、大滝詠一風の曲タイトルにも表れているように、“日本語の歌、メロディー”をより大事にしていることが感じられる。“新しい”とは言わないまでも、今の日本のポップスをより一歩前に進めた作品であることは間違いない。

 前作に収録されていた「ばんねん」のような、ロック的なダイナミズムを感じさせる曲がないことに一抹の寂しさは感じるが、逆に言えば、本作の作風にこそ、彼らのメジャー・デビューに対する決意が表れているのかもしれない。その変化は歌詞にも反映されていて、何かが変わり始めたことにより、過去がフラッシュバックして、後ろ髪をひかれているような心情の描写は、現在同じような立ち位置にいると言える、吉田ヨウヘイgroupの新作にも通じるものがある。そして、そんな作品だからこそ、前作同様、今作も時間の経過とともにあなたにとって大切な作品になることを、僕が保証する。

(金子厚武)

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