舞台「母に欲す」鼎談 – 7月10日に幕を開ける舞台「母に欲す」の稽古場に潜入。作・演出を手がける三浦大輔、主演を努める峯田和伸(銀杏BOYZ)&池松壮亮によるスペシャル鼎談をお届け。

舞台「母に欲す」鼎談

 銀杏BOYZの峯田和伸が初舞台を踏む「母に欲す(ほっす)」。作・演出は演劇に役者のリアルなパーソナリティや虚実が交錯する視点を介在させ、公演の度に大きな反響を呼ぶ劇団“ポツドール”の主宰者・三浦大輔だ。三浦は峯田が主演を飾った映画「ボーイズ・オン・ザ・ラン」(2010年)で脚本・監督を担い、また銀杏BOYZは三浦の舞台「裏切りの街」(2010年)に劇伴全曲集『SEX CITY〜セックスしたい〜』を提供。現在では盟友とも呼べる関係にある。

タイトルどおり、この舞台作品のテーマは“母”である。これは、男女関係における滑稽さやひずみを、ときにグロテスクなまでに暴き、そのうえで人間の本質や永遠に得体の知れない愛という概念と対峙してきた三浦が長らく“大きな宿題”としてあたためていたものだという。

ストーリーの詳細は別枠に譲るが、この舞台では東北のある一家が母の死をきっかけに不協和音が生じ、少しずつ、しかし確実に混乱していく様子が描かれる。その軸となるのは、ふたりの兄弟。兄である峯田と並び立つ弟を演じるのは、池松壮亮。やはり三浦が監督し大きな話題を呼んだ映画「愛の渦」(2014年)に主演し、静謐かつ鮮烈な存在感を放った池松と峯田の共演を、三浦はどのように演出するのか——。峯田、池松、三浦によるロング鼎談。ぜひじっくり読んでほしい。

「母に欲す」あらすじ/3名のプロフィールはこちら

INTERVIEW & TEXT BY 三宅正一 / PHOTOGRAPHY BY 冨田 望

 

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すごく面白いですよ。正直、恐ろしいですし(池松)

──初めて三浦さんの稽古を拝見したんですけど、やっぱり穏やかなんだなと思って。

三浦大輔 こんな感じですね。たぶん後半でもうちょっと細かく詰めて厳しくもなると思うんですけど、今は僕自身がいろいろ模索している時期でもあるから。時期的なものもあると思いますね。

──それでも怒号が上がるようなことはなさそうですよね。

三浦 そう、今回は特になさそうですね。

──やはりポツドールの稽古とはちょっとムードが違うんですか?

三浦 そうですね。稽古ってひとつでも芝居のすれ違いがあるとどんどん交わらなくなっていくんですけど、今回はそれがないので。特に峯田くんと池松くんに関してはないんですよ。だから僕が家に持ち帰ってやることが多いんですね。そこらへんは今までの現場とちょっと違いますね。

──それだけ峯田くんと池松さんが演者として三浦さんが求めているものを体現してるし。

三浦 そうですね。文句ないですね。僕のほうが頑張らなきゃなっていう感じで(笑)。

──峯田くんはどうですか? 今回が初舞台ですけど。三浦さんとは、映画「ボーイズ・オン・ザ・ラン」では監督と主演として深く向き合ったし、その後も三浦さん演出の舞台「裏切りの街」には劇伴全曲集『SEX CITY〜セックスしたい〜』を提供して。でも演者としての初舞台を三浦作品で踏むのはまた違う緊張感があるんじゃないかと。

峯田和伸 でもね、映画と舞台の違いと言うよりも、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」の撮影を思い出しますよ。“この感じ、この感じ”っていう。やりがいがやっぱりすごくあって。僕は伸び伸びやらせてもらってます。

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──池松さんも峯田くん同様、三浦さんが監督を務めた映画「愛の渦」での主演を経て、三浦さんの舞台作品に出演するのは初めてですよね。

池松壮亮 僕も峯田さんと同じような感じで自然にやれてるというか。もちろん、毎日稽古をやると疲れは溜まっていくんでしょうけど、変なストレスはまったくなくて。峯田さんとも初共演ですけど、違和感はまったくないですね。

──峯田くんと芝居をするというのはどういう感覚ですか?

池松 やっぱりすごく面白いですよ。正直、恐ろしいですし。アプローチが完全に役者とは違うので。

──恐ろしいというのは、表現者として得体の知れない存在感だったり?

池松 うん……なんでしょうね? 最初のシーンで峯田さんがそこに立った瞬間に三浦作品の人になっているし、言葉をしゃべった瞬間には役なんだけど峯田さんの言葉にもなっていて。“すごいな、これってなんだろうな?”って思いながら。いや、ホントにすごいんですよ。

──ミュージシャンと仕事するのは特殊な刺激になりますか。

池松 人にもよると思うし、ミュージシャンの方とまともに向き合ったらやられると思うんです。

──やっぱり脅威に思うんですね。

池松 そう。バケモノなんですよね。役者どうこうじゃなくて、人間力の話で。ここからまた2ヵ月くらい峯田さんと一緒にいることになりますけど、それまで峯田さんのことを100%あるうちの1%わかるかどうかだと思うんですよ。それくらい根っこに渦巻いてるもののレベルがすごいなって思います。

──峯田くんはどうですか、池松さんの言葉を受けて。

峯田 本人がいる前でお互いの印象とか言うのは恥ずかしいんだけど(笑)、休憩のときに行く喫煙所があって。そこでお芝居とは関係ないことを話したりするのね。それと変わらない感じでお芝居ができてるんですよ。それがね、なんか俺も不思議な感覚があって。もちろん、舞台上では俺は菅原裕一という役で、池松くんは菅原隆司っていう役で、そのうえで会話をするんだけど、そこで俺はあんまり裕一になってる気がしないなあっていう。でも、峯田でもないんですよね。その感覚は自分でもよくわからないんだけど、すごく隆司という存在の風通しがいいから疲れないんですよ。

もっとその中に入り込もうと思って。母親のところに突っ込んでいこうと(三浦)

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──今日、稽古を拝見して峯田くんと裕一のバックグラウンドがこんなに重なるところがあるんだと思ったんですね。今後、細かい設定に関しては変更の可能性があるということですけど、大枠の東北出身者で弟がいてっていう設定もリンクしてるし。

峯田 うん、そうですね。
三浦 僕が峯田くんと話してるときに“峯田くんは弟に対してどう思ってるの?”って聞きながら本を書いたので。僕には弟がいないから。
峯田 そう。“どう思ってるの?”って聞かれて、“過去にこういうことがあって、今はこういう感じなんですよ”って答えたりして。
三浦 そういう感覚を峯田くんに聞いて本に反映してるので、バックグラウンドが被るところは出てきますよね。

──それに対して弟役である池松さんは?

池松 峯田さんから聞く弟さんの話はすごく貴重だなと思うんですけど、あんまり深くは考えてないです。お互いがお互いに向き合っていれば、僕はたぶん峯田さんに勝手に弟にしてもらえると思っていて。

──三浦さんはこれまで男女関係のひずみや滑稽さを描いてきましたけど、今回のテーマである“母”はその向こう側にあるものだと思います。

三浦 そうですね。

──さらに踏み込まないと描けないものというか。三浦さんのなかではずっとある種、究極でアンタッチャブルなテーマとして存在していたと思うんですけど、このタイミングで着手したのは?

三浦 ずっと母親に対しての思いはあったんですけど、なかなか作品にすることに踏み切れなくて。でも、自分のなかでこのタイミングが芝居を作るという意味においてのいい区切りになると思ったんですよね。今回もそうですけど、僕の芝居の設定って母親に無心する親不孝な息子が主人公になってるものが多くて。年を食っても母親に甘えてるっていう。

──それこそ「愛の渦」しかり。

三浦 そう、それ以外もホントに多くて。それは僕自身の経験が元になってるんですけど。今回はもっとその中に入り込もうと思って。母親のところに突っ込んでいこうと。自分のなかでずっと引っかかってたんです。どんな芝居でも絶対に母親が出てくるので。だからいつかは描こうと思ってたんですよね。

──母親に依存していた経験とそれに対する自己批判的な心理が、現在の三浦さんの作家性——ときにグロテスクなまでに人間の実像、本質を暴いていく筆致に影響している部分ってあると思いますか?

三浦 ああ、そこはあんまり関係ないと思います。家族の中では別の顔だったりもしますし。というよりも、母親を描くのがこっぱずかしかったというのがあって。恋愛とか自分の情けない部分を描くことに対する慣れはあるんですけど。普通はそっちのほうが恥ずかしいんでしょうけどね。僕の場合は逆に純粋な思いみたいなものをさらけ出すほうに抵抗感があって。でも、今回はあえてそっちに寄っていこうと。

──そういうタイミングがきたなと。

三浦 そうですね、はい。

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──主演を峯田くんと池松さんにしようという案はすぐに?

三浦 そう。ふたりに出てもらうことを前提に物語を書き始めたので。特に峯田くんはミュージシャンということもあってこっちの世界に引きずり込むのはどうなのかなと思ったんですけど……僕が今、いちばん描きたいことをふたりに託したいと思ったんですよね。だから、このふたりだから何ができるというのではなくて、このふたりでこのテーマを描きたいからお願いしたというニュアンスのほうが強いですね。
峯田 “舞台をやりませんか?”という話は結構前からお願いされていて。内容は決まってなかったけど、すごく楽しみだったんですよ、舞台でお芝居するのが。で、今年の初めに「母に欲す」というタイトルでこういう内容になることを知って。そこからもうさらに楽しみになって。でね、稽古場に入って……あのさ、2週間くらい前にこういう取材があったらいろいろ言えたんだけど(苦笑)。

──なんか今日の峯田くんはあまり多くを語りたくないような感じだよね。(※取材を行ったのは6月17日/編集部注釈)

峯田 いや、全然話したいんだけど。自分でもよくわかんないんだよね。でも、すごく楽しいんですよ、お芝居していて。

──うん。

三浦 でも、峯田くんが言いたいことはわかります。今ね、いろいろそういう時期なんだよね。
池松 たぶん客観視していたことが、主観になったっていうことですよね。
三浦 僕も2週間前はもうちょっと饒舌だったんですよ。でも、今は稽古に入っていろいろ模索してる段階というのもあって。
峯田 あのさ、音楽だといつもインタビューするのってレコーディングが終わってからでしょ?

──基本的にはそうですね。

三浦 映画とかも基本的に完成したあとに取材とか受けるからね。
峯田 だから、初めてだよね? こういう真っ只中で取材受けんの。

──うん。でも、この取材をここで終わらせるわけにはいかないんですよ(笑)。

峯田 うん、そうだろうね(笑)。
三浦 別に取材がヤじゃないんです(笑)。ただ、どんどんいろんな質問に答えにくくなってるのは確かで。それは作品の内容どうこうじゃなくて、もっと細かいニュアンスの部分だったり。それで最近の取材はどんどんしゃべれなくなってきていて。正直、それどころじゃないっていう。

──申し訳ない(苦笑)。

三浦 いえ、こちらこそ申し訳ない(笑)。

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