五十嵐隆 DVD&Blu-ray「『生還』 live at NHKホール 2013/05/08」ディスクレビュー

『生還』 live at NHKホール 2013/05/08

DVD&Blu-ray

五十嵐隆

『生還』 live at NHKホール 2013/05/08

DAIZAWA RECORDS/UK.PROJECT

2014.06.01 release

<DVD>
<Blu-ray>


事実は小説よりも“希”なり

 この日、開演前から終演までNHKホールにいるすべてのお客さんが固唾を飲んでステージを見つめていた。2008年、武道館で開催されたsyrup16gの解散ライブから5年。その後、ソロ・プロジェクトとして始動したものの公式音源を残さないまま活動を終了し、多くのリスナーが落胆した(もちろん、誰よりも喪心し、忸怩たる思いに苛まれたのは五十嵐本人だろう)犬が吠える by Takashi Igarashiが息を引き取ってから、4年。2013年3月1日——syrup16gの解散ライブと同日に——突然、発表された五十嵐隆の単独ライブ“生還”。長い沈黙を破るこの一夜が何を意味するのか、五十嵐がどんな編成でステージに立ち、どの曲を鳴らし、歌うのか。まったく明かされないまま公演当日を迎えた。そのライブのあり方と緊張感は、どこか2010年5月と6月に開催された小沢健二の13年ぶりとなる全国ツアー“ひふみよ”のそれを思わせた。会場の非常灯も完全に落とされ、真っ暗闇から始まったのも“ひふみよ”と“生還”をリンクさせた。赤く照らされた紗幕に映し出される五十嵐のシルエット。イントロが鳴らされた瞬間に悲鳴とも歓喜ともとれるような、お客さん個々人の心底から沸き上がる、名状しがたい感情の渦としての声が沸き上がった。

 1曲目は、多くのファンがsyrup16gの音楽世界とイコールで結ぶであろう、人生に対する強大な虚無と否定と陶酔の交錯、その果てに表れる狭長で鮮烈な光線が射す「Reborn」だった。そして。「Reborn」を五十嵐とともに奏でているのが、中畑大樹とキタダマキだと確認できた瞬間に、誰もがこれはsyrup16gのライブなのだと確信した。もちろん、この瞬間をもって“syrup16が復活した”などという短絡的かつ希望的観測を導けないのはみんなわかっていた。そう、このときはまだ——。だが、五十嵐が“生還”と名付けたライブに中畑とキタダを道連れにしたその事実があまりに感動的だった。いや、本当に感動的だったのは、何より3人の演奏が徹頭徹尾、素晴らしかったことだ。syrup16gの解散以降もリスナーの脳内で鳴らされ続けている数々の名曲も、未発表の新曲群も、文句なしに高い熱量と集中力を誇っていた。特に終盤、「落堕」「天才」、本編ラスト「空をなくす」までの流れで見せた強靭なグルーヴはどうしたって“この先”を期待させるものだった。また、このライブ映像作品において特筆しなければいけないのは、“生還”のすべてを追体験できるといっても過言ではないミックスワークとカメラワークだ。音と画から、メンバーだけではなく本公演と本作に関わったスタッフの気迫も生々しく伝わってくる。あとはもう何度も、隅々まで、瞬きする間も惜しむようにして本作に対峙してほしい。

 そして。2014年6月27日。誰もが希求していた報せが届いた。またもやなんの前触れもなく。syrup16gが、本当に再始動する。8月27日にニュー・アルバム『Hurt』をリリースし、9月に東名阪を回るツアーが行われる。この再始動は“生還”の公演後にメンバー3人の間で話し合いが交わされ決定したという。“生還”から“再生”へ。その日がやって来るのは、もうすぐだ。

(三宅正一)

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