印象派が、そろそろスピードを上げてきそうな気配である。大阪を拠点とするこのガールズ・コンビは、ライブの場に立つことがほとんどなく、活動自体ゆるやかなペースを保ちながらも、非常に気になる作品を連射してきた。ダンス・ミュージックと近似した音は、しかし安易に打ち込みに委ねることなく、かたや歌はコンテンポラリーな感触と、どこかレトロなポップネスとを装備している。それに加えて言葉の感覚には、一見明快なようで、スキ間に奇妙にピリリとした味付けがなされているのだ。なにせ、充実曲が集まったニュー・アルバムのタイトルは『(not)NUCLEAR LOVE(or affection)』──これを“かくれんぼ”と読むというのである。どうにもこうにも、親しみやすさと異物感とが混在しているユニットなのだ。
その印象派へのインタビューは、大阪とネット回線を繋ぎ、FaceTimeを介して行った。miuとmicaにはつかみどころがなさそうなイメージを持っていたのだが、モニター越しのふたりはどんな話にもていねいに応えながら、気取ることなく、なごやかに笑い、また、のらりくらりと話してくれた。彼女たちのソフトな雰囲気の奥にあるエッジーな感性が、この閉塞した時代を強く射抜いてくれることを期待している。
INTERVIEW & TEXT BY 青木 優
OLとして生きていくという人生を考えてました
──僕は印象派のことは一昨年のシングルの「SWAP」で知ったクチで、“これはカッコいい!”と思って、CDをすぐに買いに行ったんですよ。
mica え~っ! わざわざ!!
miu ありがとうございます!
──なので今日はインタビューできてうれしいです。ということでいろいろとお話を聞きたいんですが……おふたりは、最初は別々に音楽活動をしていた仲なんですか?
miu はい、別々にやってました。私は昔、ギター&ボーカルで、あとは男の子3人という編成のメロコアっぽいバンドをやってました。ビークル(BEAT CRUSADERS)とかハイスタ(Hi-STANDARD)とか好きで、全部英語詞でやってましたね。ビクターから配信で出してもらったこともあったんですよ。
──そうなんですか? それはなんというバンド名です?
miu これです……(モニターの向こうでジャケットをかざす)。
──ああ、えーと……underneath his kindness、ですか。
miu あ、読めましたね。すごい(笑)。やってました。
──そのバンドで活動してたのは、いつぐらいの話なんですか?
miu えーと、4年ぐらい前までですね。その頃に私、就職をしまして、忙しくなって……仕事でいっぱいいっぱいになったので“ちょっとお休みしようか”みたいになって。そのまま集まらず終わってしまった感じだったんです。
──そうでしたか。じゃあmiuさんの音楽活動は、その後は?
miu 何も考えてなくて、もう1回音楽やるつもりもなく、OLとして生きていくという人生を考えてました。
──なるほど。じゃあmicaさんのほうは?
mica はい。私は大学で初めてバンドやってたんですけど、そこでは完全にメンバーの子が曲も歌詞も書いてて、「歌ってほしい」と言われたんですね。音楽系の学部だったんで、組まないとダメだったんですよ。でもそれは卒業と同時に解散して、卒業後はひとりでやっていこうと思って、2007、8年頃からピアノの弾き語りで活動してたんです。最初は全然、何もわかんない状態だったので、ライブハウスでも働いてたんで、いろんな人に助けてもらったりして……そのときに今の印象派のディレクターの前田さんと知り合いまして。で、miuとは、そこでの共通の知り合いという認識でしたね。存在は知ってたんで。
miu underneath his kindnessのディレクターだった前田さんが、micaちゃんのディレクターでもあって。そこで繋がってた感じではあったんです。
mica その頃、私が前田さんに、自分の弾き語りのCDを“こういう音楽やってます”っていうことで渡す機会があって。それを車で聴いてくれてるときに電話してた相手がmiuだったんですよ。
miu それで電話の向こう側でmicaちゃんの弾き語りの音源を聴きまして。その声がすごい印象に残って、“えっ、これ誰?”ってなって。それでこっそりライブを観に行って……そこで話しかけることもなく、私はずっと一方的に micaちゃんのファンだったんですけど(笑)。それがいつの間にかしゃべるようになって、“一緒に何かやろうか”みたいになったのが始まりですね。
センスは10年先を行ってるんで(笑)
──そのとき、どんな音楽をやれそうだと思ったんですか?
miu 全然、そんなイメージとかもなかったです。micaちゃんの声がすごく良くって……というか、“ああいう声になりたい”と思って、毎晩歌ってたんですが、ムリだと思って。それで“あ、一緒にやったらいいんや!”と思って、手に入れて(笑)。でもそれが決まったときは、別に……。
mica まあ、ぼんやり(笑)。なんとなく(始まった)。
miu ぼんやりやったな(笑)。それでmicaちゃんからは不信感を持たれて。あまり仲も良くなくって(笑)。
mica そうです(笑)。最近仲良くなりました。いや、全然、仲悪いとかじゃないんですけど、そんなに音楽以外で合ったりとかはしない感じで。
──その最初の頃、“こういう方向性で”とか“ああいう音楽、いいよな”みたいな話も?
miu いや、全然なかったです。
mica 私は勝手にmiuにプロデュースされてるような気持ちになってて、全部任せてたっていうか。
miu それでmicaちゃんの弾き語りを見て、“こういう曲、歌ってほしいなぁ”とか、“こういうの合いそうだな”という感じで、曲作りをし始めて。それがだんだん形になっていって、「ENDLESS SWIMMER」という曲が最初に出来て。“あ、これがすごくふたりっぽい”って、しっくりと、バチンときまして。それで方向性が決まっていった感じですね。
──なるほど。その頃の「HIGH VISION」にしても、のちの「SWAP」にしても、いわゆるポップスとは違うし、かと言ってクラブ・ミュージックに振り切れてるわけでもないし、独特だなと思ったんですよ。
miu そうですね……K-POPはその頃からすごい好きで。「HIGH VISION」とかは、これですね……(KARAのジャケットを出す)。このK-POPっぽい雰囲気が出したくて。あとは“今っぽいPUFFY”みたいな感じですね(笑)。
mica 現代風なね。現代風PUFFY。
──ああ、K-POPとPUFFYですか。僕はJ-POP的な、それもちょっと懐かしい、歌謡曲と言ってもいいくらいのメロディだと思ったんです。今回のアルバムだと「BEAM!」「アフレル」が特にそうなんですけど、そのへんは意識して作ってるのかな? と思ったんですが。
miu いえ、意識はしてなくって。現代ポップみたいにしたいんですけど、センスが古いのか(笑)。
mica あはははは!
miu 私的にはすごい“今っぽい曲!”って思ってるんですが、やっぱ聴いた人からは「あ、ちょっと懐かしい感じだね」って言われるので、センスが古いのかなあって。
──(笑)やっぱり僕みたいに感じる人がいるんですね。
miu そうですね、「懐かしい感じがする」とは、よく言われます。メロディの関係なのか……そこにちょっとギャップがあるのが印象派らしさなのかなって思ってるんですけど。
──micaさんは、そんなmiuさんのセンスをどう思いますか?
mica 私にはないセンスなので、そこがいいなあって今は思ってやってます(笑)。最初は私がやってきた音楽とかけ離れてたので、こういう曲を歌うのにすごい抵抗があったんですよ。あえて言うなら、自分にダメ出しされて、「もっとこういうふうにしたほうがいいよ」と言われそうなことを印象派でやってる感じですね。(miuは)厳しいんですよ。服装にしろ、ライブにしろ、結構辛口で、良かれと思ってやってたことを“全部逆だよ”みたいな(笑)。
──辛口って、どんなふうに言われるわけですか?
mica 普通に「ダサい!」とかね。
miu (笑)……そんな、ダサいとは。
mica いやいや、「MABATAKIしないDOLLのような私」で初めてラップをやったんですけど、「私、ラップできへんで」ってすごい言ったんです。でも「いや、どうしてもラップがやりたい」みたいに言うから、まあ頑張ったんですけど、あれが精一杯の私のラップで。それが発売されてから「micaちゃんのラップ、ダサいよね」みたいに言われて(笑)。
miu (笑)違う違う。「MABATAKI~」のレコーディングのときは、とりあえず全部micaちゃんに歌ってもらって、そのあとに私も全部歌って、私の声をところどころ重ねて作ったんですけれども。その全編micaちゃんバージョンが、あの……歌に関してはすごい信頼はしてるし、もう大好きなんですけど……ラップがすごい、田舎っぽかった(笑)。
──(笑)田舎っぽいラップ!
mica (笑)田舎育ちなんで、私も。
miu でも、だんだん乗ってきたのか、後半すごい良かったんで、後半だけ残して。あとは私が頑張ったっていう。
mica (笑)で、話がそれましたけど。私はもうセンスの点ではmiuをだいぶ信頼してるんで。
miu でもmicaちゃんも、センスは10年先を行ってるんで(笑)。「センスが良すぎるんで、ちょっと抑えてもらうと誰にでもわかるものになるよ」って言ってます。