パスピエ ALBUM「幕の内ISM」ディスクレビュー

幕の内ISM

ALBUM

パスピエ

幕の内ISM

ワーナーミュージック・ジャパン

2014.06.18 release

初回限定盤 <CD+DVD>
通常盤 <CD>


ポップなジャパニーズ・ガールは幕間に弁当を食す

 シングル「MATATABISTEP」「あの青と青と青」、配信シングル「とおりゃんせ」を収録したパスピエの2ndフル・アルバム。パスピエは、<東京藝大卒のキーボード、成田ハネダを中心に結成されたバンドで、クラッシックの“印象派”と呼ばれるジャンルと’80年代のジャパニーズ・ニューウェーブを融合した音楽偏差値の高いアート・ポップ・バンド>と称されることが多い。そのため、敷居の高さを感じていた方もいるだろうが、本作は、“幕の内ISM”と名付けられたタイトルからもわかるとおり、よりバラエティに富んだ、間口を広げた作品になっている。

 少し乱暴な言い方になるが、例えば、’70年代のSFを舞台にしたアニメーションや角川映画の主題歌が好きだと言う方や、凄腕のスタジオ・ミュージシャンをバックに従えた声優やアイドルしか聴かないという方にもきっと気に入ってもらえるはず。一方、前作以上にライブ感が増したバンド・サウンドからは、演奏とアンサンブルだけで人を感動させられる圧倒的な才能も感じる。プログレやフュージョン・バンドのように磨き抜かれた芸と技を披露しつつも、内省的になり過ぎないのが本作の魅力で、聴き心地は奔放でポップ。それは、より前面に押し出された、ボーカル・大胡田なつきのチャーミングでしなやかなボーカルによるもので、そういう意味では、谷山浩子〜遊佐未森〜小川美潮の系譜に位置する、独特の歌声をもつ女性ボーカルの傑作アルバムと言える側面も持っている。

 また、クラシック、ニューウェーブ、プログレ、フュージョン、アニソンに、ポスト・ロックやテクノ・ポップなど、様々なジャンルの音楽を高次元で調合し、先端系ポップスを生み出しているという点では、たしかに幕の内弁当的ではあるが、決して、散漫な印象は受けず、それどころか、とてもトータル感のあるアルバムに仕上がっている。全体的に芯が一本通っており、その芯の正体は、その名も「アジアン」の歌詞にある。速いパッセージのポップロック・チューンの中で、大胡田は、いろは歌と童謡の「はないちもんめ」を引用しながら自身のDNAの螺旋階段をくぐり、「ずっと探していた答えは「たぶんアジア」」と歌っている。日本の昔のわらべ歌をタイトルにした「とおりゃんせ」や、奄美大島の唄者のような独特のビブラートを使った「あの青と青と青」に加え、アレンジやサウンド面でも其処彼処に西洋から見たアジア、オリエンタル感が漂っている。もともと、成田は’80年代のジャパニーズ・ニューウエーブのオリエンタル感に強い影響を受けているため不思議ではないが、本作ではより日本の歌謡や民謡などの要素が含まれ、ジャパニーズ・ガールが生きている風土を感じさせる音になっている。それは国際的に通用するオリジナリティであると確信しているが、歌詞は日本語を話す日本人にしかわからない楽しみもある。

 前述の童謡の引用はもちろん、「この指とまれ」と歌う「トーキョーシティー・アンダーグランド」には“いとをたどっていけば”というフレーズもある。先にMVを観ていたものとしては、運命の赤い糸だと思っていたのだが、歌詞カードを見ると「意図を辿っていけば」となっている。ここにどんな意図が隠されているのか? サウンドもユニークで刺激的だが、歌詞も情景描写に優れているので、目を閉じ、心の中にある舞台の幕を開き、行間に潜む物語を想像しながら聴いてほしい。例えば、「ノルマンディー」は、一時の気の迷いで駆け落ちの約束をした女の子が主人公。駆け落ちの当日、駅まで行ったものの、その日から夏ダイヤに切り替わることを知る。なんとなく気勢がそがれた彼女は、幕の内弁当を持って家に帰ってしまうというストーリーが思い浮かんだのだが、みなさんはどうか——!?

(永堀アツオ)

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