パスピエ – “日本らしさをより増やしていくには”というあらたな挑戦を果たしているアルバム『幕の内ISM』について──成田ハネダと大胡田なつきが語る。

パスピエ

林立するジャンルを越えて、鮮やかな色彩感覚と自由なタッチで独自の世界を描き出す印象派を自称する5人組ポップ・バンド、パスピエ。ニューウェーブやテクノ・ポップをルーツに、ポスト・ロックやフュージョンといった要素をよりフィジカルかつライブ的なバンド・サウンドへと昇華した昨年のメジャー・1stフル・アルバム『演出家出演』から約1年。その後、ライブを行いながら、配信シングル「とおりゃんせ」と「MATATABISTEP/あの青と青と青」の2枚を制作、リリースを経て、2ndフル・アルバム『幕の内ISM』が完成した。この作品では、あらたにダンス・ミュージックのフィジカルなグルーヴが加わったほか、様々な音楽要素が同居する日本らしい音楽の幕の内感覚をオリエンタルなメロディや歌詞世界でまとめ上げるという5人のあらたな試みが濃厚に結実。前進を続ける現在のパスピエについて、ボーカルの大胡田なつき、ギタリストであり、ソング・ライターの成田ハネダに話を聞いた。

INTERVIEW & TEXT BY 小野田雄

 

オリエンタルな要素をパスピエなりの濃度、バンド・アンサンブルで
表現するためにはどうしたらいいのかと試行錯誤しました

──前作アルバム『演出家出演』から1年。あの作品を振り返ってみていかがですか?

成田ハネダ 僕らの中で、『演出家出演』はいい意味で異質な作品だったというか、フィジカルな部分やライブ的な内容を意識して作ったアルバムだったし、そういう異質な作品やライブを通じて僕らのことを知ってくれた人がすごく多かったんですよ。そして、『演出家出演』の経験を経て、今回のアルバムを作るときに、意図せずともフィジカルな部分やライブ的な要素がメンバーの体にすり込まれていることを実感しました。
大胡田なつき 『演出家出演』を作って、ライブを重ねていく中で、私は人の反応を考えるようになりましたね。例えば、“自分がこう言ったら、状況はこうなるんだろうな”とか、“自分がこういう歌詞を書いたら、人はこう思うんじゃないかな?”とか。だからといって、歌詞の書き方を変えるということではないんですけど、そういうリアクションを予想するようになりました。

──そして、『演出家出演』以降、昨年10月に配信シングル「とおりゃんせ」、今年の3月にシングル「MATATABISTEP/あの青と青と青」をリリースしながら、今回のアルバム『幕の内ISM』の制作を進めていったんですよね?

成田 そうですね。僕の中で『演出家出演』を出し終わった段階で、そのアルバムのモードはリセットされて、“次にどういう新しい面を見せていけるかな?”って考えたんですね。僕らはJ-POPというジャンルで活動をさせてもらっているわけなんですけど、今回のアルバムでは日本らしさを意識的に盛り込みたいなと思ったんです。例えば、歌詞で古語を使ったり、オリエンタルなメロディを紡ぎ出したり、そういうトライアルは過去にもやってきたんですけど、もっと大きな意味でのサウンド・イメージやサウンド感の部分でも日本の音楽が持つ独特な浮遊感をパスピエなりの解釈で実験的に試みたのが、配信で出した「とおりゃんせ」なんですよ。そして、その曲を出したことで、より具体的なアルバムのイメージが思い描けるようになったんです。

──例えば、雅楽のような純日本的な音楽を日常的に聴く人は少ないと思うんですけど、日本のポップ・ミュージックとオリエンタルなメロディというのも、日常的なものであるようでいて、意外に身近なものではないというか。その意味において、日本のポップ・ミュージックとオリエンタルなメロディを融合させるのは簡単なことではありませんよね。

成田 自分にとっても、多くの日本人にとっても、たしかにそういう音楽は日常的なものではないですよね。ただ、学校の授業で触れたり、お祭りで聴いたり、日本人の奥底に染みついている部分は絶対にあるし、和を意識したメロディやギター・リフだったりを使ってるアーティストやバンドも少なくないと思うんですよ。まぁ、日本人というのは、そういう部分に懐かしさを感じる民族だと思いますし、そういう日本の音楽シーンで活動するとなったら、和の要素は意識せざるを得ない部分もありつつ、それでいて、僕たちとしては長く聴かれて、残る音楽を作りたいんです。ニューウェーブやテクノ・ポップ、エレクトロニカとオリエンタリズムをミックスしたY.M.O.はその代表ですよね。自分の中でそういうお手本を意識している部分もありますし、今回はそういうオリエンタルな要素をパスピエなりの濃度、普段使っている楽器やバンド・アンサンブルで表現するためにはどうしたらいいのかと試行錯誤しました。

その音楽が生まれた背景や時代感なんかを薄めず、
自分たちの音楽とリンクさせて曲に還元していけたらな、と

──“幕の内ISM”というアルバム・タイトルが表しているようにバリエーション豊かな今回のサウンドの方向性に対して、言葉をどう紡いでいくのか。大胡田さんは歌詞を書くうえでどんなことを意識しました?

大胡田 というより、私はもとから日本語の表現が好きですし、メロディに影響されて、言葉が生まれることが多いので、ちょっと日本的な音階の曲だったりすると、古語だったり、普段使わない言葉が自然と引き出されるんですけど、今回はリハーサル中に楽器の音を聴いているときに言葉が浮かんでくることが多くて、その言葉を組み立てて歌詞にしていった感じですね。

──セッションで生まれたその場のアレンジが作品に活かされた前作を経て、今回は言葉の面でもセッション的な要素が増したと。さらに和の要素に加えて、今回は「MATATABISTEP」しかり、ダンス・ミュージックの要素を取り入れた作品でもありますよね。

成田 今はどのジャンルにおいても、2000年の始めあたりに新しい要素が出尽くしてしまって、そこから先は服のはやりがそうであるように、過去のスタイルがリバイバルするサイクルになっていると思うんですね。そして、ここのところリバイバルが続いている’80年代後半から’90年代の音楽は、当時生まれたばかりの僕らはその時代感を肌で感じ取れなかったこともあって、すごい憧れがあるんですよ。だから、その時代を知らない世代の僕らが当時生まれたダンス・ミュージックの多幸感に新しいものを加えて表現できたらいいなって思ったんですよね。

──ただ、サンプラーやコンピューター、電子楽器で作るダンス・ミュージックは、バンドで作るダンス・ミュージックとはまったくの別ものですよね。

成田 そうですね。バンドでの表現は僕らにとってのプライドというか、そうでなければ、パスピエじゃないなって。だから、「MATATABISTEP」はダンス・ミュージックを人力で作ることによって生まれた曲だと思ってますね。

──「MATATABISTEP」の歌詞も、サウンドに触発されて、フィジカルな、動きのあるものになっています。

大胡田 サビ前で「パパパリラ」っていう擬音を始めて使ってみたんですけど、その箇所はまさにそういう音符の並びだったんですよね。

──しかも、この曲の歌詞はただの言葉遊びではなく、目まぐるしい音楽トレンドの移り変わりに対して、全面肯定ではない斜めからの視点が含まれているところも大胡田さんらしいですね。

大胡田 ファッションも音楽も、トレンドのサイクルがあって、刹那感とともに時代が流れていくんだなぁって思ったり、まぁ、ちょっと皮肉屋なのかもしれませんね(笑)。

──トレンドに右往左往させられると、自分を見失ってしまうというネガティブな側面もありつつ、ポジティブに捉えると、今はそのトレンドのサイクルに様々な音楽要素がカオスのようにミックスされることで新しい音楽が日々生まれつつあるのもたしかかな、と。

大胡田 そうですね。昔だったら、アルバム1枚買うのに、海外から取り寄せた特定の店でしか手に入らなかったものが、今は通販サイトでワンクリックで手には入ってしまう時代ですからね。そういう時代だからこそ生まれる音楽の多様化はたしかにあると思うんですけど、無節操になんでもかんでも取り入れるのではなく、その音楽が生まれた背景や時代感なんかを薄めず、自分たちの音楽とリンクさせて曲に還元していけたらな、と。

──歌詞と時代感のリンクはいかがですか?

大胡田 歌詞を書くときにそういうことを考えることはないですね。ただ、古語にカタカナで入れた言葉、例えば、「クオリア」とか、それ単体でポップに響いたり、耳につく言葉を使ってみたりすることで、パスピエのサウンドに負けないように、という意識はあります(笑)。
成田 (笑)。今、初めて知りました。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

M-ON! MUSICの最新情報をお届けします。

この記事に関するキーワード

この記事を書いた人