坂本慎太郎 ALBUM「ナマで踊ろう(Let’s Dance Raw)」ディスクレビュー

ナマで踊ろう(Let's Dance Raw)

ALBUM

坂本慎太郎

ナマで踊ろう(Let’s Dance Raw)

zelone records

2014.05.28 release

初回限定盤(紙ジャケット仕様) <2CD>
通常盤 <2CD>
※初回限定盤、通常盤ともにボーナスCD付き


人知を超えたグルーヴが、人類が滅亡した世界に鳴り響く

 昨年リリースされた坂本慎太郎の「まともがわからない」は、自分にとってその年ダントツのベスト・シングルだった。ゆらゆら帝国解散後、ギターではなく初めてベースを手にとって、これまでとはまったく異なるグルーヴ主体のサウンドを生み出した2011年の1stアルバム『幻とのつきあい方』、その延長上にありながら、さらに’70年代シティ・ポップ的な洗練が極められていた「まともがわからない」。あの恍惚のメロディとグルーヴを体験してしまった以上、今回の2ndアルバムで、坂本慎太郎史上最もポップで圧倒的に開かれた、日本のロック/ポップス史に燦然と輝く名盤の誕生を予想していたとしても、バチは当たらないだろう。

 その予想が微妙に外れて、それと同時に、膨らみきっていた期待をさらに大きく超えてきたのが本作『ナマで踊ろう』だ。ベース主体の作曲という方法論は前作から踏襲されているものの、今作で坂本自身がベースを弾いている楽曲は1曲のみ。前作で理想の音像とグルーヴを追求して、それを手にしてしまった天才坂本慎太郎は、今回そこに安住することなく、バンド編成でレコーディングに臨んだ。その結果、今作では前作以上に得体の知れない、これ以上なく濃密なのに空間的にはスッカスカで、その空間をスチールギターやバンジョーやヴィブラホンのサウンドが飛び交うという不思議な音楽を鳴らしている。間違いなくポップで、メロディアスで、どんなタイプのリスナーにとっても聴きやすい作品でありながら、ちょっと気を抜いているとその深淵にはまり込んで、そこから一生外に出られなくなってしまうような音楽と言ったらいいだろうか。

 アルバムの1曲目、いきなり坂本ではなく、小学生の頃からゆらゆら帝国の作品にゲスト参加していた中村楓子(現在は女子大生とのこと)がメイン・ボーカルをとる「未来の子守唄」で始まる本作。アルバム全体のコンセプトは“人類が滅亡した後の世界”だ。“虚無的”と評されることも多い坂本の詞作だが、本作ではもはやそこから一周も二周も回って、思わず子供も一緒になって歌い出してしまいそうな平易でファニーでキャッチーなフレーズがポンポン飛び出してくる。しかし、それをふと口ずさんだ瞬間、その言葉の持つ底知れない意味の恐ろしさに戦慄を覚えてしまうのだ。

 とにかく音の隅から隅まで、詞の隅から隅まで、すべてがあまりにもクールで、(現在の日本の音楽界屈指の素晴らしいシンガーであると自分が信じて疑わない)坂本のボーカルもさらに冴え渡った、とんでもない傑作。ちなみに、前作リリース時にも実現しなかったライブだが、今作のタイミングでも、今のところはまったく予定はないという。『ナマで踊ろう』なのにナマで踊れない、そんなアイロニーも含めて、この傑作の持つ意味(と無意味)について、これからも深く、長く、考えていきたいと思う。

(宇野維正)

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