坂本慎太郎 – 構想に2年の歳月をかけた新作が届く。今作について、そしてソロとしての活動について──坂本慎太郎、語る。

坂本慎太郎

 ガレージ、サイケデリック・ロックに根ざした先鋭的なサウンドとメタファーやカリカチュアの手法を多用した唯一無比の歌詞世界を組み合わせながら、独自の進化を遂げた日本の音楽史に残る最高のロック・バンド、ゆらゆら帝国。2010年のバンド解散を経て、2011年よりそのフロントマンである坂本慎太郎がソロ活動をスタート始動。同年リリースされた1stアルバム『幻とのつきあい方(How To Live With A Phantom)』と昨年リリースされたシングル「まともがわからない」に続く、2ndアルバム『ナマで踊ろう(Let’s Dance Raw)』がここに完成した。ライブを行わず、スタジオ・ワークを極める彼がこの作品で展開しているのは、ソウルやファンク、脱力的なスティール・ギターや乾ききったバンジョーなどを溶かし込んだメロウなサウンドに乗せて描かれる理想郷崩壊後の世界。2年に及ぶ構想と妄想をシリアスかつポップな傑作アルバムへと昇華した坂本慎太郎は果たして何を語るのか!?

INTERVIEW & TEXT BY 小野田雄

 

中学生で初めてギターを弾いたときの気持ちに戻った

──ゆらゆら帝国解散後、2011年にリリースされた坂本さんの初ソロ・アルバム『幻とのつきあい方』は、コンガを練習したり、ベースを触ったりしているうちに徐々に形になっていった作品なんですよね?

そうですね。ただ、コンガは途中で挫折してしまったので、本番でのレコーディングでは叩いていないんですけどね(笑)。

──坂本さんは長らくギタリストとしてプレイされてきましたが、新しい楽器に触れることが結果的に作品を作る原動力になった、と。

そうですね。『幻とのつきあい方』のときは、単純に弾いたことのない楽器を練習して、ちょっとずつ弾けるようになるのが楽しかったということもあるし、大袈裟に言うと、中学生で初めてギターを弾いたときの気持ちに戻ったような、そういう新鮮さがあったり、自分でベース・ラインを考えたことで、今までと曲の捉え方が変わってきたり、ベースの役割もよくわかりましたね。あと、『幻とのつきあい方』はライブを想定しない内容だったということがいちばん大きくて、単純に自分が普段買っているレコードとか、家で聴いているものと並べて聴けるものを作ろうと思ったら作れるし、録音物としていいものを作ろうということだけ考えました。バンドのときもレコーディングとライブは分けていたとはいえ、3人で演奏することが前提にあったので、ソロに関しては、その点が違うような気がしますね。

──かつてのゆらゆら帝国の場合、ガレージ・ロックやサイケデリック・ロックが根幹にあるロック・バンドだったと思うんですけど、ソロはその範疇を超えてしまったというか、現時点でロックというフォーマットに対してはどう思われているんでしょうか?

ロックといってもいろいろありますけど、ある種のロック・ミュージックは、音楽として今でも好きだしレコードも買ってます。ただ、自分がゆらゆら帝国時代のようなライブをもう一度やりたいか?といえば、そういう気持ちは全くないですし、そもそもできないです。ソロになって、今のところライブをやらないことで、創作に向かう際の矛盾がなくなって、すべてがクリアになったところはありますね。

──そして、『幻とのつきあい方』は、震災の影響が間接的に反映された作品でもありましたよね。

『幻とのつきあい方』は、震災以前に大体の曲と半分くらい歌詞が出来てて、震災後にレコーディングした作品だったんですね。だから、もちろん、レコーディングの際には震災の影響はいくらか反映されているとは思うんですけど、震災直後は新しい曲でも昔の曲でも、余白がある音楽は震災のことを歌っているように聞こえた時期でもありますよね。

──ただ、ゆらゆら帝国時代の歌詞がメタファーを用いながら、基本的にはフィクショナルなものだったことを考えると、坂本さんの歌詞は変化していっていますよね。

どこかの時点で急に変わった、変えた覚えはないんですけど、ただ、昔の歌詞と比べると、よりシンプルで、字面を読んだだけで、意味がわかるもの。突拍子もない、ちょっとシュールと言われるようなもの、言葉遊び的なものはどんどんなくなっていますね。あと昔は技術的な問題でできなかったことが、だんだんできるようになってきたということもあると思いますね。すごく単純な言葉、今回のアルバムは今まで以上に単純な言葉、ストレートな表現になっているというか、標語とか広告のコピーのような歌詞なんですけど、同時に深くも読み取れるものを目指しているところがあって、自分としてはそのやり方が昔よりうまく形にできるようになっている気がしますね。

自分のなかで新鮮に感じられるものに取り組むことがいちばん重要

──ソロになってからは、Salyu×Salyuや青葉市子さんがボーカルを担当したCornelius、あるいは冨田ラボの作品に歌詞を提供されていますよね。

歌詞の提供はソロになって初めてやるようになりましたけど、曲に興味がもてないと何も浮かばないので、なんでもかんでもやるというわけにはいかないですけど、人の曲に作詞することの面白さは新しい発見でした。自分が歌わずに制作側に回って、自分が得意な部分だけで参加するというやり方も自分に向いている気がします。

──プロデュースだったり、サウンド面での外部仕事はいかがですか?

楽曲提供は、すでに出来ていた歌詞に曲を付けるというやり方で宮藤官九郎さんのロック・オペラ(「高校中パニック! 小激突!!」)に参加させてもらって、それは面白い経験だったんですけど、プロデュースやリミックスは、自分の曲作りがおろそかになるような、薄まるような気もするので、手を出さないようにしようと思っていて。あとは絵本と詩集、絵の個展ですね。その辺はやらないように気を付けているんですよ。

──はははは。そして、『幻とのつきあい方』以降の活動としては、昨年、大根 仁さんが監督を務めたドラマ「まほろ駅前番外地」のエンディング・テーマとサウンド・トラックを収録したシングル「まともがわからない」がリリースされましたよね。

2011年に出した『幻とのつきあい方』と去年出した「まともがわからない」の間に、(アメリカのベテラン・インディ・ロック・バンド)ヨ・ラ・テンゴのジェームスがやってるダンプ「NYC TONIGHT」のリミックス……というか、原曲の歌とアコギだけ残して、自分で演奏を録り直したものを2012年に出したんですけど、この3枚は録音の仕方だったり、自分の弾くベースを軸にしたアレンジという意味でひとまとまりというか、去年、「まともがわからない」を作ったことで、そのやり方は一段落して、今回のアルバムはまた違うやり方で作りたかったんですよ。

──ゆらゆら帝国から現在のソロまでの流れを考えると、坂本さんの作風はその時々で変化、進化していっていますよね。

作品を作るうえでは、自分のなかで新鮮に感じられるものに取り組むことがいちばん重要だと思っていて。世の中の流行りに関係なく、単純にそのときに興味があることをやっているだけなんですけどね。それをみんなが新鮮に感じるかどうかはよくわからないですし、好きなコード進行とかテンポにはどうしても抗えなかったりもするんですよ。そうかといって、使ったことないコード進行やテンポを無理矢理やっても好きになれなかったりするし、その時々でやっていることは変わりつつも、身体に染みこんだ自分の快感原則からは逃れられないっていう。

──普段弾かない楽器を触っているうちに、なんとなく制作に向かっていった前作に対して、今回のアルバム制作はどのように始まったんですか?

“そろそろ、新しい作品を作ろう”と思って、スタートしたわけではなく、日常的にギターをポロポロ弾いて、鼻歌みたいな感じで思い付いたアイデアをメモしておくところから始まって、その断片的なアイデアをもとにベースを弾いたり、自分だけでデモテープを作ったんです。そして、7曲くらい出来た段階でそのデモをドラムの菅沼(雄太)くんと今回ベースをお願いした(OOIOOの)AYAちゃんに渡して、去年の夏から割と長くリハーサル期間、ぼくのリハビリがてら、3人で煮詰めていった感じです。そして、去年の年末からレコーディングを始めましたね。

──ということは、今回のアルバムを作るにあたっては、早い段階からバンドで録音することを想定していたんですね。

そうですね。それ以前にやってきた自分でベースを弾く手法が、思ったようにはできるんですけど、自分の想定の範囲内でこじんまりまとまってしまうように感じられたので、自分とはタイム感が違うベーシストを入れて、ドラマーを交えた3人でコンピューターでは再現できないようなグルーヴを作品に記録したかったんです。

──ただ、この作品のグルーヴは実体があるようなないような、不思議な耳触りがあって、生々しさを盛り込もうという意図でバンドで録ったわけではないというか。そこにはどんな意図があったんですか?

バンドの演奏はランダムに揺れたり、微妙にズレたりするんですけど、それがほしかったのと、テンションの低い3人が親密にいい感じで演奏している空気感……それが実際に録れるのかどうか、聴いた人にわかるかどうかは別として、自分としては、そういう要素を作品に入れたかったんですよ。解析しても違いは出ないのかもしれないですけど、そうした演奏は作品全体に影響する重要なポイントだと思ったので、レコーディングでは3人同時の演奏をベーシック・トラックとして録りました。

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