黒木渚 – バンド“黒木渚”の解散を経て、あらたにソロ・アーティスト“黒木渚”としての第一歩となる『標本箱』が届いた。黒木渚、すべてを語る。

黒木渚

 これは濃い。そして強烈だ。激動の季節を乗り越えている最中の黒木渚が──そう、ソロ・アーティストとなった彼女が、自身にとっての初のフル・アルバムで、ここまでディープに自分の内面を掘り下げた作品を作ってくるとは思わなかった。もともと女としての業を感じさせる表現をしてきた人であるが、『標本箱』ではそれがいっそうの深みとともに、遺憾なく展開されているのだ。また、バンドという枠が消えたことで、メロディとサウンド、そして言葉は、より自由度を高めているとも感じる。

彼女にこのアルバムのことと、現体制に至るまでの話を聞いた。その美しくも晴れ晴れとした表情は、今後の大活躍を期待させてくれるものだった。

INTERVIEW & TEXT BY 青木優

 

自分の曲を聴いて、自分の曲に救われた

──もう3ヵ月になりますけど、ひとりでの活動はどんな気分ですか?

……清々しい(笑)。

──え? 清々しい、ですか?

(笑)かえって、清々しいです。だし、楽しくて仕方がないですね。うん。

──例えば慣れないとか、やりづらいとか、困ってるとかは……。

まったくないです。ソロになってから、迷いみたいなものはないですね。レコーディングに関しても、何に関しても、決断に迷ってないです。今のところ。

──そうなんですか。それはなぜなんでしょうね?

“こうなるべきだった”という感覚もあるし……まあ、そう思えなくちゃ困るし(笑)。それに……すごく自由な感じがする。窮屈さがなくなって……やっと自信がついてきたのかなあ。遅ればせながらって感じですけど(笑)、ミュージシャンとしての自信が、ちょっとずつついてきたというか。

──自信ということは、自分なりに成果というか手ごたえを感じることができているわけですか?

そうですね。まだ発売もしてないから、始まってもないんですけど。だけど、これが出来上がった瞬間に、“うわあ、私、このアルバム、すごく好きだ!”と思ったんですよ。完成してから今日までの間にすごく何度も聴き返したし、いろんなシチュエーションに沿って自分の曲を聴いて、自分の曲に救われた日もあるし。そういう感覚を持ってるということは、いい予感がしますね。

──なるほどね。そこには“自覚をしっかり持たないとな”と思った側面もあるのではないかと思うんですけど。“ひとりでやるから四の五の言ってられない”みたいな。

ああ、それはありますね。もう自分で自分の尻を叩くしかないし。すべての責任は自分にかかってくるし、他人のせいにできないから、もっとストイックにやっていくしかないじゃないですか。それに、自分で「メンバーかわいそう」とか言っている余裕があるんだったら、“ちゃんとこのカッコいいアルバムを作れよ”って思ったし。お客さんもたぶん、そう思ってる。なんだかんだ昔のことを説明するよりかは、新しく“これが黒木渚だ”って、“気に入るか気に入らないか、もう正々堂々決めてくれ”“ついてくる人だけついてきてください”っていう感じでやっていくしか進めないんですね。

──なるほど。じゃあ前を向けているわけですね?

そうですね、うん。

──その決心のほどはアルバムに表れていると思います。ただ、今、「昔のことを説明するよりは」と言われたんですが……。

まあ気になりますよね? あははは。

──気になりますよ! だって「はさみ」もちゃんと入ってるし、アルバムの1曲目はそのあとに書かれたであろう「革命」ですよね? で、前回のインタビューでは所属感を得られたときの喜びを話してもらったんですが、それがこうしてひとりになる決断をするに至った思いはどんなものなのかを聞きたいんですけれど。

うん。所属感……本当に欲しかったものを手に入れた感じがしてたんですよ。バンドになったことで。それってすごく大事だったし、手放したくなかったし。なんだけど……彼らはバンド・メンバーであり、大親友じゃないですか。となると、バランスがすごく難しいんですよね。人としてすごく近いところで付き合ってるのと、仕事の仲間として一緒に音楽を作る相手って、すごく難しくって。しかもマジメな人々だったから……誰ひとり、決してデタラメな気持ちで黒木渚をやってなかったがゆえに、すごくシリアスになってて。制作をやっていくにつれて。“いいもの作らなくちゃ”とか“素敵な作品にしなくちゃ”って、すごく追い詰めすぎて、余裕がなくなっちゃってて。余裕がない人からは、素敵な音楽って生まれにくいような気がしてるんです。化学反応も起きにくくなるし、少し冗談を言えるぐらいの余裕がないと、楽しい音楽って作れない気がしてて。それがすごく悪循環になっているなぁと思ってたんですよ。

──なるほど、そうなっていたんですね。

そういうこともあるし、彼らが人として大切だったがゆえに尊重しすぎたというか……個性を大事にしたかったし、自分が“曲を書いてるのは私なんだから、絶対的な存在でしょ!”というふうにできなかったんですよ。彼らのことが大事なのと、あと、輪を乱したくない。所属感を守りたいっていう思いがあったから、曲作りに関してイニシアティブを握れなかった。で、それができないと黒木渚は濃度が薄くなっていく感じがしてて……それはすごく反省してます。自分の中に曲のビジョンやイメージが明確にあるんだったら、ぶつかってもいいから、そこをとことん再現していくことをやるべきだったんだけど……そこがうまくいかなかったなあと思ってて。

孤高になってしまったとしても、孤独でも、もうやんなくちゃいけない

──そうだったんですか。外からは、それぞれのアイデアや発想を融合させるような関係性に見えたんですけどね。じゃあ目指しているところが、微妙にズレてきていたということですか?

うん……それもあるかもしれないですね。黒木渚っていう表現したいテーマに向かっていくことが、ちょっとズレてたというか。まあ私はもちろん黒木渚なんで、黒木渚っていうテーマに向かってまっすぐ行きたいんだけど、やっぱりそれぞれ人格や個性があるミュージシャンなので、そこをどこまで尊重してそこに入れ込んでいくかっていうバランスが難しかったんですよ。

──それが難しいなと思い始めたのは?

それが去年の4月ぐらいだったんですよ。上京して、もう2ヵ月目ぐらい。バランスをとる作業って、すごい時間がかかるんです。「ああでもない、こうでもない」って言って……だから1曲1曲が出来るスピードもすごく遅かったし、アレンジが出来上がるまでも時間がかかってたし。で、ファンにはもうそのときに「2年以内に武道館に行くぞ!」って公言して廻ってたのに、“ヤバい! 逆算したら、このままでいくと武道館に辿りつけない”と思ったんですよ。そのモヤモヤと“これって黒木渚で合ってるのかな?”“ちゃんと純度の高い黒木渚は作れてるのか?”っていう自分の中の葛藤でつぶれそうで……“でも言えないなあ”みたいな。せっかく親友同士で上京してきて、彼らを切り捨てるっていう方法をとるということは、私の中ではデカい選択だから。

──うん、それはそうですよね。

そう。“共倒れするか? このまま燃え尽きるまで”とも考えたんです。でもそれだと、たぶん武道館まで行けない。それとも、人間として何か大事なものを失うかもしれないけど、ひとりになって武道館まで走り続けるか、どっちかっていう究極の選択だったんですよ。そこが黒木渚の天下分け目っていうか、どっちかな? って。でもそこで強さを持てないと……せっかくファンの人たちが期待してくれてて、「武道館まで絶対ついていくよ!」と言ってる人たちがいるなかで、諦められなかったんですよね。それに自分も音楽をやめるという決断ができない。音楽は絶対やってる自分しか想像できなかったから、勇気を持って……。

──告げたわけですね。

告げました。

──それは大変な決断でしたね。

そうですね。ちょっとしんどかったけど、彼らのほうがしんどかったでしょうし。けど、最終的には了解してくれたし、応援するって言ってくれたし。

──こうしてひとりでやっていく決断をしたかわりに、所属感は消えてしまいました?

そうですね、うん。でもそこはしょうがないなと思います。孤高になってしまったとしても、孤独でも、もうやんなくちゃいけない気がしてるというか……そんな感じですね。それでたまに「頑張りすぎてて、大丈夫?」みたいなこと言うお客さんがいるんですよ。「見てて心配になります」「どこかでボキッと折れるんじゃないか」みたいな。それはそれでいいなって、こないだ思って。もうボッキリ、キレイに折れるんだったら、それもいいな、みたいな(笑)

──そこまで思ってるわけですか?

そうですね、ほんとに……人間魚雷的な(笑)。散っていく、みたいな結末であっても、もうがむしゃらにいくしかないと思ってて。その方法しか、もうないって感じです。うん。

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