dip ALBUM「neue welt」ディスクレビュー

neue welt

ALBUM

dip

neue welt

DAIZAWA RECORDS/UK.PROJECT

2014.04.02 release

<CD>


すべての後ろめたさを抱えた者たちへ

 日本のロック史には、パラレルワールドのような存在として“dipのいる歴史”があった。その前史にはTHE ROOSTERSやローザ・ルクセンブルグやニューエスト・モデルがいた。そしてその後には、フリッパーズ・ギターやbloodthirsty butchersやTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTがいた。スーパーカーやSyrup 16gやART-SCHOOLもその歴史の末裔だったと言っていいかもしれない。ここで挙げたバンドの中には、リアルワールドの住人にも名前がよく知られたバンドもいるだろう。また、バンドによっては、自らリアルワールドへと足を踏み入れていったバンドもいる。しかし、少なくとも彼らはある時期、確実に“dipのいる歴史”の中にいた。海外のパンク、ニューウェーブ、オルタナティブ・ロックをそのまま模倣するのではなく、かといって日本的に解釈するのではなく、まるで空気のように当たり前のように吸って、自分たちのオリジナルの音楽として吐き出していたバンドたち。そして驚くべきことに、1987年から活動してきたdip(当時はDIP THE FLAG)は、今もまだその歩みを止めていない。

 だから、彼らが『neue welt』(ドイツ語で“新世界”の意)と言うとき、仮にそれがパラレルワールドだったとしても、そこには文字どおり“新しい世界”が広がっているのだ。昨年、『HOWL』と『OWL』、2枚のアルバムを同時リリースしてその尽きることのない創作意欲を誇示してみせたヤマジカズヒデ。本作の製作前に彼が向かったのはベルリンだったという。かつて、東西に分断されていた時代のベルリンの暗闇に寄り添った背徳のアルバム『ベルリン』を作り上げたのはルー・リードだった。そのルー・ルードが亡くなった年に、dipがベルリンに引き寄せられた作品を制作した。その偶然に、ある種の運命を感じずにはいられない。

 21世紀に入ってから、多くの若い芸術家が集い、再びヨーロッパカルチャーの中心地として活気を取り戻している現在のベルリン。しかし、本作で描かれているベルリンの街の空気とにおいは、ルー・リードが’70年代初期に描いた、セックスとドラッグとバイオレンスに満ちたベルリンとダイレクトに繋がっている。おそらく、この<ヤマジカズヒデが描いた“新世界”>も、パラレルワールドの中に存在する都市なのかもしれない。そしてその世界は、ひんやりとしていて、湿っていて、殺風景で、生きることに後ろめたさを感じている自分のような人間にとっては、とても居心地がいい。

(宇野維正)

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